ゴルフ男子、トップ選手欠け池田ら上位争いも
1904年の米セントルイス大会以来、112年ぶりに五輪に復帰したゴルフは、男子が11~14日、女子は17~20日にリオデジャネイロ近郊のレセルバ・マラペンディGCで開催される。男女とも60人が出場、72ホールのストロークプレーで行われ、予選落ちはない。ゴルフ競技に携わっている人間として、ゴルフの裾野を広げてくれるという意味で、五輪復帰は大歓迎だ。

ただ、男子は世界ランク1位のジェーソン・デー(オーストラリア)、2位のダスティン・ジョンソン、3位のジョーダン・スピース(いずれも米国)、4位のロリー・マキロイ(英国)とランク上位4人がジカ熱などを理由に軒並み欠場した。トップ10のうち4人しか参加せず、せっかくの五輪復帰に水を差した形になったのは残念だ。
団体戦はなく個人戦だけで、競技方法にちょっと疑問もあるが、それでもテレビ放映を通じて世界の大勢の人々にゴルフを見てもらえる。新たなスタートで、どんな試合展開になるか、期待して見たいと思っている。
■池田の勝負強さ、片山の集中力に期待
男子の日本代表は世界ランク95位の池田勇太(30)と同124位の片山晋呉(43)。先日の全米プロ選手権で4位タイに入った松山英樹(ランク19位)が参加していれば金メダル獲得の可能性も十分にあっただろうし非常に残念だが、池田、片山の2人にもメダルのチャンスはあると思っている。
前選手会長の池田は、ゴルフ界を引っ張っていこうという意識が強い。見かけ以上にしっかりしている。国内ツアーでは4月のパナソニックオープンで優勝。海外メジャーは全米オープンこそ予選落ちしたものの、全英オープン(72位)、全米プロ(33位)と予選を突破した。ゴルフの調子は良く、まだまだ伸び盛りだ。賞金ランクは谷原秀人、金庚泰(キム・キョンテ、韓国)に次ぐ3位につけ、私は初の国内賞金王もいけるのでは、と見ている。

全米プロでは最終日の18番(パー5)をイーグルでフィニッシュしたし、気持ちよく五輪を迎えられるはずだ。プレーは思い切りがよく勝負強い。全米プロ後には「メダルがとれなければ4位も最下位も一緒」と語っていた。グリーンが速ければ、より力を発揮する。初日から先頭集団に居続けるとなるとなかなか大変だろうが、メダル争いで頑張ってくれるのでは、と期待している。
一方、片山は今季はツアーでトップ10入りが1回しかなく、賞金ランク47位とやや苦戦している。年齢的に年々厳しくなっているとはいえ、ツアー通算29勝の永久シード選手だ。シーズンを通しての長丁場はさておき、4日間なら多少相手が手ごわくても頑張れるはずだ。それだけの技術はある。初日を5位以内、最低でも10位以内でスタートできれば、テンションが上がって集中力が高まり、鼻息も荒くなるだろう。メダルの可能性が見えれば、自らのゴルフ人生をかけて奮戦するのではないか。
ところで、注目の金メダルが誰の首にかけられるかだが、私はセルヒオ・ガルシア(スペイン)を1番手に推したい。米ツアー通算9勝、欧州ツアー通算11勝。今季の米ツアーでは5月のAT&Tバイロン・ネルソンで優勝している。かつて「神の子」と呼ばれた彼もメジャーではいまだ無冠のままだが、全米オープン、全英オープンはいずれも5位に入った。米ツアーだけでなく欧州、中東、アジアと世界各国の試合に顔を出し、戦っている。南米ブラジルの未知のコースが舞台となると、米国選手よりも、あちこちでもまれている欧州選手のほうが、環境への適応能力という点で有利ではないか、とにらんでいる。

■リンクスで強風なら、欧州勢有利?
世界ランク上位4人が不在で、金メダルへのモチベーションも高いだろう。現地は治安が心配され、むやみに外出して食事をとることもできないだろう。だがガルシアのように世界じゅうを飛び回っている選手は、多少の煩わしさは受け流して、ストレスをためずふだん通りにプレーできると思う。
英セントアンドルーズをモデルに設計されたコースは、ラフはほとんどなく、フェアウエーを外せば砂地や茂みが待つ。強い風も吹くと予想されている。リンクスコースへの慣れという点でも、欧州勢に分があると思う。全英オープンで悲願のメジャー初制覇を果たしたヘンリク・ステンソン(スウェーデン)も、もちろん金メダル候補の1人。世界ランクは今回の参加選手ではトップの5位。全米プロでは優勝争いに加わりながら7位とメジャー2連勝を逃したが、好調を維持している。世界ランク9位で、今春のマスターズ覇者、ダニー・ウィレット(英国)も風が吹けば手ごわい。
出場選手が少ない一発勝負だけに、それほど有名でない選手にもチャンスはある。その1人で、メダル争いに絡むのではと、私がひそかに注目しているのがエミリアノ・グリジョ(アルゼンチン)だ。米ツアーの今季(2015~16年シーズン)第1戦、フライズコムオープンで優勝した若手は、日本ツアーのISPSハンダグローバルカップ(6月)でもプレーオフで敗れての2位と優勝を争った。
175センチと背は高くはないが、柔らかく、しなやかなスイングでスパーンと好打を放つ。風も苦にしないはず。世界ランクは39位。今季はメジャー4大会すべて予選を突破し、全英は12位、全米プロは13位に入った。アルゼンチン出身の彼にとって、リオ五輪は「ホーム」のようなものだろう。
米国勢ではマスターズ2勝のバッバ・ワトソン、リッキー・ファウラーの世界ランクトップ10の2人よりも、ランク14位のパトリック・リードのほうが面白い。繰り下がって出場機会が巡ってきた五輪をワクワクしながら迎えるのでは? 13年全米オープン優勝のジャスティン・ローズ(英国)、10年全米プロ、14年全米オープンを制したマルティン・カイマー(ドイツ)もメダル争いに加わる力はある。7月のフランスオープンに勝ち、欧州ツアー8勝のトンチャイ・ジェイディ(タイ)も侮れない。韓国や台湾などアジア選手も力をつけ、レベルは上がっている。
(プロゴルファー)