解説者の目(山口香)

フォローする

日本柔道の強さ示した大野、完成形の新王者

(1/2ページ)
2016/8/9 16:00
保存
共有
印刷
その他

これほどの強さを満座の前で示した日本の柔道家を見るのはいつ以来だろうか。男子73キロ級の大野将平は、このリオ大会をもって一つの完成をみたと思う。

近年、柔道の国際化が進むにつれて、他国の格闘技にルーツを持つ多様なスタイルが流入し、本家である日本柔道といえども不動の規範ではなくなっていた。そこへ、この大野の戴冠である。大げさでなく、これは日本柔道の「教科書」だ。井上康生や野村忠宏が五輪を去った後、十数年にわたって絶版になっていた教本の新装版がお披露目された。「こういう柔道をしましょうよ」と日本の選手が国内外に手本を示した値打ちは、金メダル1個分にとどまらず、計り知れないものがある。

今後の柔道の「教科書」を示した大野(右)。価値はメダル以上だ=共同

今後の柔道の「教科書」を示した大野(右)。価値はメダル以上だ=共同

ムラなし大野、力勝負も平然と

5戦を通じて、大野が示した立ち技の多彩さはどうだ。彼の柔道の中心には内股と大外刈りという2つの大技があり、対戦相手は常にその影におびえていたが、本人はそこにこだわらなかった。決勝の相手オルジョイ(アゼルバイジャン)を仕留めたのは小内刈り。バンティヘルト(ベルギー)との準決勝は足技あり、担ぎ技ありで、ポイントで相手を追いこんだ後の「一本」は意外にも、ともえ投げで仕留めた。

自分の身を捨ててかけるともえ投げとは、相手に返される危険が少ないため、反則を避けてポイントリードを守るための偽装攻撃として用いられることが多いが、大野は決め技の確信をもってこれを仕掛けた。内股に備えていたところに「まさか」のともえ投げ。相手の予測や用心を超えていた。

ロンドン五輪の66キロ級金メダリスト、シャフダトゥアシビリ(ジョージア)との準々決勝で奪った技ありは、力勝負を制したものだった。こういう力自慢の外国人選手との対戦で、日本選手は技にいったところを裏投げなどでよく返される。このため相手との距離を極力保ち、飛びこんで技に入るようにとコーチに諭される。対して、多くの外国人選手は接近戦に持ち込むことに日本選手との試合の勝機を見いだそうとする。

大野は接近戦で相手に譲らなかった。踏ん張る相手を、大外刈りから腰車へと体勢を移しながら強引に横倒しにした。「日本人が柔道をするのに、何を譲ることがある」と語っているようだった。

もともと大野には技の切れがある。王様然とした風格がある。技が切れるがゆえに「いつでも仕留められる」と思うのか、ひところは様子見が続いて勝ちみが遅れたり、相手の逃げやじらしにイライラして、無理な体勢から技をかけては返し技を食ったりしていた。そういうムラが今回、いささかも見られなかった。終始一貫ポーカーフェース。勝った後のインタビューに「五輪もいつもの国際大会と変わらない」と、平然と答えた。

  • 1
  • 2
  • 次へ
保存
共有
印刷
その他

柔道のコラム

電子版トップスポーツトップ

解説者の目(山口香) 一覧

フォローする
決勝で優位に立ったリネールはまともに組まず、原沢も何もできなかった=共同共同

 序盤で原沢久喜が不用意な指導2つをもらい、男子最重量級の決勝は全階級を通じて最もつまらないものになってしまった。優位に立った王者リネール(フランス)はまともに組まず、原沢も何もできなかった。
 現在の …続き (2016/8/13)

今後の柔道の「教科書」を示した大野(右)。価値はメダル以上だ=共同共同

 これほどの強さを満座の前で示した日本の柔道家を見るのはいつ以来だろうか。男子73キロ級の大野将平は、このリオ大会をもって一つの完成をみたと思う。近年、柔道の国際化 …続き (2016/8/9)

ともに銅メダルを獲得した女子48キロ級の近藤(左)と男子60キロ級の高藤

 初日の日本柔道は金メダルに届かなかった。男子60キロ級の高藤直寿(パーク24)も、女子48キロ級の近藤亜美(三井住友海上)も銅メダル。どちらも力はあった。動きもよかった。それでも負けた。これがまさに …続き (2016/8/7)

ハイライト・スポーツ

[PR]