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五輪個人金メダルに埼玉県出身者ゼロの不思議

編集委員 北川和徳

オリンピックのメダルに関するちょっとしたトリビアなのだが、埼玉県人に話すと「本当に?」と、苦笑いとともに驚かれる話題がある。日本の夏季五輪の個人種目の金メダリストは4年前のロンドン大会までに計89人誕生しているのだが、埼玉県出身者は1人もいない。埼玉県の人口は現在700万人を超えて全国で5位。サッカーが盛んで、インターハイ(高校総体)で活躍する学校も多い。どう考えてもスポーツ後進県のイメージはないが、オリンピックに関しては個人の金メダリストがいないのだ。

萩野公介(21、東洋大)が日本の夏季五輪史上通算131個目の金メダルを獲得、90人目の個人種目の金メダリストとなったリオデジャネイロ五輪の競泳男子400メートル個人メドレーは、その点でも注目していた。萩野のライバルで昨年の世界水泳の王者、瀬戸大也(22、JSS毛呂山)は埼玉県毛呂山町の出身。瀬戸が勝てばこの埼玉県の不名誉なデータも消えたのだが……。ただ、まだ今大会には競泳女子200メートルバタフライで昨年の世界水泳を勝った埼玉県越谷市出身の星奈津美(25、ミズノ)もいる。

64年東京大会、競技も地方出身者が支える

五輪の金メダリストを出身都道府県別に見ていくと、意外なことがけっこう見つかる。最初に驚いたのは、前回の1964年東京大会の個人金メダリストに、東京都出身者が1人もいないことだった。

重量挙げの三宅義信(宮城県)、レスリングの吉田義勝、渡辺長武(ともに北海道)、体操の遠藤幸雄(秋田県)、山下治広(愛媛県)、早田卓次(和歌山県)らとにかく地方出身者が目立つ。64年東京大会の会場建設やインフラ整備を支えたのは、地方から出稼ぎにきた日雇い労働者だったといわれるが、メダル獲得の競技面でも実は地方が支えていたわけだ。

東京都出身は通算では4人の個人の五輪金メダリストがいる。64年東京大会後では2人。これも人口や競技環境を考えれば少ないと思うのだが、競泳男子平泳ぎの2種目を連覇した北島康介、体操で月面宙返りを開発して72年ミュンヘン、76年モントリオール両大会の鉄棒を連覇した塚原光男という大物2人なので、獲得金メダル数は計8個。これは計9個の北海道、愛知県に続く3位となる。

東京都や埼玉県に限らず、首都圏の人口の多い地域が必ずしも金メダリストを輩出しているわけではない。人口900万人を超える神奈川県の個人金メダリストもたった1人、64年東京大会の柔道の猪熊功だけだ。

一方、最も多いのは北海道の8人。32年ロサンゼルス大会の陸上男子三段跳びの南部忠平のほかは、レスリングと柔道選手。2位は茨城県で7人。こちらもすべてレスリングと柔道選手が占める。

金メダリストになることがいかに難しいか

日本の前回までの夏季五輪の金メダル130個のうち、柔道(36)、体操(29)、レスリング(28)、水泳(20)で計113個となる。これが金メダリストの出身地の偏りを生む一因なのだろう。チーム競技であるバレーボール(3)、ソフトボール(1)を除けば、この4競技以外の個人種目の金メダルは、日本が初めて五輪に参加した12年ストックホルム大会以降、100年を超える歴史でわずか13個。金メダリストは12人しかいない。

あらためて金メダリストになることがいかに難しいかが分かる。これまで五輪の個人金メダリストがいないのは埼玉県のほかに、岩手、福島、富山、福井、長野、滋賀、京都、鳥取、島根、香川、沖縄の計12府県。今回は島根県にはテニスの錦織圭(26、日清食品)、長野県にはバドミントン女子の奥原希望(21、日本ユニシス)、富山県にはレスリング女子の登坂絵莉(22、東新住建)らの金メダル候補がいる。

(敬称略)

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