ももクロ玉井詩織 着物作りで「変な汗」(動画あり)
ももクロVS伝統工芸/玉井詩織、「万祝」に挑戦(1)

ステージではピアノやギターを披露し、歌番組の司会も担当するなど、「ももクロで一番器用」と評判の玉井さんが訪れたのは千葉県鴨川市。房総半島の太平洋側に位置し、豊かな自然や鴨川シーワールドなどの観光スポットも多く毎年大勢の観光客が訪れる鴨川市は、古くから漁業で栄えた町でもあります。

今回、玉井さんが体験するのは「万祝(まいわい)」。千葉県の伝統的な工芸品の一つです。万祝とはいったいどんなものなのか。早速、今も万祝を作り続けている「鈴染」を訪ねました。
「万祝」とは宴会のこと?
玉井さんを出迎えたのは平成生まれの鈴木理規(すずき・りき)さん。まずは万祝とは何か、説明してもらいます。

鈴木 玉井さんは大漁旗(たいりょうばた)って見たことありますか?
玉井 あります。ももクロも大漁旗を作ってもらったことがあるんです(東北震災直後に宮城県女川町を訪れたももクロに感謝を示すため、2014年の国立競技場でのコンサートに女川町から大漁旗が届けられた)。
鈴木 では、大漁旗がどのように使われたかは?
玉井 あー、それはわからない。
鈴木 まだ無線がなかった時代に、大漁で帰ってきた漁船が港に大漁であることを伝えるために掲げたのが大漁旗なんです。それを見れば誰の漁船かがわかり、港では受け入れる準備を始めることができます。
玉井 そうか、大漁だという合図だったんですね。
鈴木 漁師たちが港に戻ってくると、漁船の持ち主や網元が大漁を祝い、宴会を開きました。この宴会のことを「万祝」と言ったんです。
玉井 え、じゃあ、今回は宴会を体験するの?
鈴木 いえ(笑)。大漁を祝う宴会では、漁師や関係者全員にお祝いを配りました。普通の大漁のときは手拭いを配り、桁外れの大漁のときにはんてんを作って配ったそうです。いつしか、その桁外れの大漁のときに配られるはんてんのことを「万祝」と言うようになったんです。

今回挑戦するのは「色差し」
万祝は江戸時代、房総地方で生まれたと言われています。当時の漁師たちは正月になると、そろいの万祝を着て今年の豊漁を祈願し神社仏閣へ参拝しました。万祝の特徴はカラフルな色合い、そして鶴や亀、松竹梅に代表される縁起のいい模様。それらの絵がはんてんの裾に幅広く描かれています。

玉井 (工房に飾られた万祝を見ながら)こういう絵も自分で描くんですか?
鈴木 伝統的な絵柄の場合は昔からある型紙を使いますし、新しい絵柄の場合は自分で描く場合もあります。
鈴木 描きたい絵が決まったら、その型紙を作るんです。柿渋を塗って補強した3枚重ねの和紙を、絵のデザインに合わせて切り抜きます。その型紙を生地の上にのせて、上からのりを塗る。のりが付いている部分は後から塗る絵の具が付着しないので、仕上げで反物を洗うと、その部分が白く残るわけです。

鈴木 のりを塗った後の生地に色を塗る作業を「色差し」と言います。今回はこの色差しを玉井さんにやっていただきます。
玉井 へえ、楽しそう。
このときはまだ「楽しそう」と言っていた玉井さんですが……。
ポイントとなるところを黄色に塗る
工房には長い生地が水平に張られています。生地にはすでにのりで絵の輪郭が描かれた状態です。生地の裏には、布のたるみを取り色をキレイに塗れるようにする伸子(しんし)という針のついたひごが張られています。
玉井 この状態で塗るんですか。
鈴木 そうです。立ったままで塗っていきます。

玉井 この布はすいぶん長いけど、どのくらいあるんですか。
鈴木 玉井さんの背丈に合わせたはんてんを作れるように、約6メートルの布を用意しました。絵柄は万祝の基本ともいえる、鶴や亀、松竹梅など縁起物です。これを全部塗ってもらうとものすごく時間がかかってしまうので、玉井さんには要所要所のポイントとなるところを塗ってもらいます。まずはある意味、一番目立つところにある「大漁」という文字です。
玉井 この「大漁」って字、半分しかないんですけど。
鈴木 この一枚の布が着物を作る反物なんです。なのではんてんの形になったときに大漁という文字が出るように、別の場所に反対側の半分もあります。
玉井 そうか、着物って一枚の布からできているんですよね。
「はあ、すごい変な汗かいた(笑)」

左手に絵の具、右手にはけを持ち、生地の前に立った玉井さんは、まず生地の張り具合を確認します。生地は立てられた2本の柱をわたるように張られているので、机に置かれた紙のように動かないわけではありません。

玉井 ちょっと揺れるね。
鈴木 絵の具をもつ左手で生地をつかんで押さえるんです。
絵の具をはけにつけて、慎重に塗り始めます。
玉井 はー、ドキドキする。
鈴木 キワ(際)はていねいにやって、中は大胆にやればいいんです。
玉井 なるほど。でもキワが難しくて……。
鈴木 細かいところは、はけの角だけを使うといいですよ。
玉井 のりの上に絵の具が乗っても大丈夫?
鈴木 はみ出さなければ大丈夫です。
黙々と塗り続けていた玉井さんが、突然、大きな声を。
玉井 ああ、ちょっと出ちゃった、ちょっと出た、ちょっと出た。
絵の具がはみ出してしまったようです。

鈴木 まだ大丈夫です。そのくらいだったら大丈夫ですから。
玉井 私、塗り絵とか意外に苦手なんだよな。
鈴木 確かに塗り絵の得意な方が好きな作業ですよね。

その後は、慎重に色を塗っていく玉井さんですが、あることに気づきました。
玉井 まって、ちょっと、これ、絵の具がすぐ乾いちゃうんだけど。
鈴木 そうなんですよ。意外に早く乾くのでスピードが求められます。でも、ここは、むらが気になった場合は上から塗ればいいので。全体を均等に塗っていきましょう。1か所だけ塗り過ぎちゃうとそこがむらになるので。
すっかり無口になった玉井さん。いつのまにか塗り始めて10分近くたっています。
鈴木 むらはほとんどなくなりましたね。
玉井 よっしゃっ。
鈴木 大漁の半分はこれで終わりです。もう半分を塗りましょう。
玉井 はあ、どきどきした。すごい変な汗かいた(笑)。
これで完成……ではなかった!?
続けて、玉井さんは「大漁」の残り半分を塗り始めます。横から作業を見ていると、塗るスピードがあがっていることが分かります。
鈴木 最初より速くなっていますね。
玉井 つかめました(笑)。最初に比べると、ですけど。ちょっとだけ筆の使い方を覚えました。

玉井 でも立ったままずっとこの体勢で塗り続けるというのは疲れますね。長いときって、どのくらい続けるんですか。
鈴木 最高で10時間、立っていたことがあります。
玉井 10時間(絶句)。すごい……。
徐々にはけの使い方も上手になってきた玉井さん。「楽しい」という言葉も口をついて出てくるようになってきます。そして作業を始めて20分。「大漁」の文字を塗りおえました。
鈴木 はい、これで「大漁」は終了です。
玉井 (工房の時計を見て)すごい、意外と時間が経っている。
鈴木 では、次がいよいよ本番です。ぼかしにいきましょう。
玉井 え、本番って、今のは本番じゃなかったんですかーっ?
というわけで、次回は玉井さんが万祝の特徴ともいえる「ぼかし」に挑戦します。お楽しみに。【玉井さんが「助けて~」と絶叫した第2回はコチラ】

第1回 ももクロ玉井詩織 着物作りで「変な汗」
第2回 「助けて~!!」ももクロ、職人技に挑戦(動画あり)
第3回 パキッと原色 ももクロ衣装に万祝どう?
第4回 ももクロ ここ私塗ったの、すごくない?
【第1シーズン】佐々木彩夏VS越前漆器(福井県)
【第3シーズン】高城れにVS江戸切子(東京都)
【第4シーズン】有安杏果VS笠間焼(茨城県)
百田夏菜子、玉井詩織、高城れに、有安杏果、佐々木彩夏で構成されるアイドルグループ。2008年5月に結成(当時のグループ名は「ももいろクローバー」)。観客数十人の路上ライブからスタートし、国立競技場ライブや五大ドームツアーを実現した今も、大会場でのコンサートと並行して、小さな会場でのライブやユニークなイベントなども積極的に企画、ファンを驚かせ、楽しませている。16年8月13日、14日には日産スタジアムで三度目のライブ「ももいろクローバーZ 桃神祭 2016 ~鬼ヶ島~」を行う。
玉井詩織
1995年6月4日生まれ。神奈川県出身。2005年、小学生のときにスカウトされ、スターダストプロモーション入り。08年5月、ももいろクローバーの結成に参加。キャッチフレーズは「ももクロの若大将」。イメージカラーはイエロー。愛称は「しおりん」。
デビュー当時のコンセプトが実は「和をモチーフにしたアイドル」だった彼女たちが、日本の伝統工芸を学ぶ連載。メンバーが伝統工芸の仕事現場を訪れ、作る過程を勉強し、実際にもの作りを体験。さらにその道で頑張っている同世代の若者と夢や目標を語り合うという詰め込みすぎな企画です。第1シリーズは「ももクロVS伝統工芸/佐々木彩夏、漆器作りに挑戦」。
(写真 勝山弘一、ヘアメイク チエ、編集協力 佐々木健二=ジェイクランプ、文 大谷真幸)
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