解説者の目(山口香)

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「軽高重低」の日本柔道 多士済々の男子に期待

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2016/8/4 6:30
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五輪の金メダリストは、いわゆる王者とは少し性格が異なると私は思う。男子最重量級には、テディ・リネール(フランス)という五輪もほかの大会も等しく強い絶対王者がいるが、今回、男女14階級を見渡しても、そこまでの強者はざらにいない。本当の王様は、金メダルの数よりもずっと希少なのかもしれない。

81キロ級の永瀬(右)はじめ、男子は階級が重くなっても選手層は尻すぼみにならない=共同

81キロ級の永瀬(右)はじめ、男子は階級が重くなっても選手層は尻すぼみにならない=共同

過去の日本選手でいえば、井上康生、野村忠宏、吉田秀彦らが王様のイメージとどんぴしゃり。現役なら大野が近い。組みさえすればいつでも相手を投げ飛ばしそうである。本人もそう思っているからジタバタしない。彼らと組む相手が蛇ににらまれたカエルに見える。技の掛け逃げや寝技で時間を稼ぎ、手練手管を弄しても早晩、パクリとのみ込まれておしまい。本来、柔道とは番狂わせの少ない競技であり、本物の王様から逃げ切るには5分という時間は長すぎるのである。

ところが、女子にはこういう横綱相撲がなかなか許されない。持ち時間が4分しかないからだ。ロンドン後、なぜか「女子に5分はきつかろう」となって試合時間が1分短縮された。

試合時間短縮の女子、先手必勝がカギ

同性として承服しがたい。国際オリンピック委員会(IOC)の男女均等の精神に反するし、現代のスポーツ医科学に照らしても、とんだアナクロニズムだ。マラソンで女子だけに30キロの短いコースを走らせるようなものではないか。仮にこれが「男女で対戦せよ」との仰せであれば、私も「4分にまけてくれません?」と目こぼしを求めたくなるけれど、女同士の取っ組み合いに「きつかろう」も何もない。きついのはお互いさまである。

「自分は強い」と信じていられる女子48キロ級の近藤(上)。勢いがあって気持ちが強い=共同

「自分は強い」と信じていられる女子48キロ級の近藤(上)。勢いがあって気持ちが強い=共同

しかしながら、ここに至ってルールの非を鳴らしてもしかたない。4分間の試合となると、一度趨勢が定まればまずひっくり返らない。だから先手必勝、指導ひとつでも先んじて相手を追いつめる。組んで投げたい日本選手には不利だと感じるが、女子に王様ぶるゆとりはなく、勝ち上がる柔道に徹するよりほかにない。見方を変えれば、先手をとれば強い相手を引き回すこともできる。

自分は王様でないけれど、まわりにも王様はいない。そういう状況では、成り上がった者の勝ち。勝つまでは穴候補、勝ってみると「こういう選手が勝つのが五輪なんだよな」と思える、そんな羽柴秀吉タイプ。

近藤がそうなるかはわからないが、4年前の松本はまさしくこれだった。戦略なり成算なりがあるのかないのか、とにかくガツガツと前に出て、りっぱに成り上がった。生まれついての女王様でなくたって、金メダリストになれるのである。

(筑波大体育系准教授)

 山口香(やまぐち・かおり)1964年東京都生まれ。84年世界選手権に52キロ級で出場、日本女子として初優勝。柔道が公開競技だった88年ソウル五輪で銅メダルを獲得した。日本オリンピック委員会(JOC)理事。全日本柔道連盟監事

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