「日陰者」ARに脚光 ポケモンGOが進化を後押し
ジャーナリスト 新 清士

2016/7/27 6:30
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国内で7月22日に配信が始まったスマートフォン(スマホ)向け位置ゲーム「ポケモンGO」。ゲーム内のキャラクターである「ポケモン」を収集するため、多くの人達がスマホをのぞき込みながら街や公園を歩き回る姿は、社会現象になった。

ARモードで撮影した「ニョロモ」(タイプ:みず)

ARモードで撮影した「ニョロモ」(タイプ:みず)

ポケモンGOは、拡張現実(AR)機能を使ってスマホの画面にポケモンを表示する。AR機能をオンにしてプレーすると、スマホのカメラで撮影した街角や自宅の部屋に、あたかもポケモンが存在しているかのように見える。

これまで、ごく一部の人々にしか認知されていなかったAR技術を、ゲームに取り入れることで一気に身近な技術へと変えたポケモンGOの功績は多大といえる。今後登場する本格的なAR技術にとっても、大きな意味を持つ。以下では、ポケモンGOが採用したAR技術をひもときつつ、ARの進化の方向を解説する。

■2種類のAR技術を活用

本題に入る前に、誤解がないよう関連技術を整理しておこう。ARと似た響きの技術に「VR(バーチャルリアリティー・仮想現実)」がある。VRは、ゴーグル型の「ヘッドマウントディスプレー」を使って人の視界を覆い、コンピューター映像を見せることで現実世界と人工的な世界を差し替える。米オキュラスの「リフト」やソニー・インタラクティブエンタテインメントの「プレイステーションVR」など、主に3次元ゲームを楽しむ目的でいくつか製品化されている。一方のARは、現実世界の映像に特定のコンピューター映像を重ねて表示する。先行しているVRに対し、ARは後に続いて普及する技術と考えられている。

ポケモンGOのマップ例。駅前の「ポケスポット」には、ポケモンを引き寄せる多数の「ルアーモジュール」が仕掛けられていた

ポケモンGOのマップ例。駅前の「ポケスポット」には、ポケモンを引き寄せる多数の「ルアーモジュール」が仕掛けられていた

仮想世界の映像のみを表示・視聴できるようにするVRに対し、ARはリアルな世界の映像とコンピューターで描画した映像を重ね合わせなければならない。そのため、ARはVRより技術的な複雑さが増す。実現するには様々な困難がある。

ポケモンGOの場合、2種類のAR技術を使っている。一つは、グーグルマップをベースにした全地球測位システム(GPS)による「位置情報」技術であり、もう一つがスマホ内蔵のカメラを使った技術だ。

GPSを使った技術は、ポケモンGOを開発した米ナイアンティックが2013年にリリースした位置ゲーム「イングレス」と同様の仕組みを使っている。イングレスは、ダウンロード数が世界で1400万(16年2月時点)を超える人気ゲームのため、これまで数多くのフィードバックがあったこともあり、位置情報技術の完成度は極めて高い。

一方、カメラを使ったAR技術は、実はそれほど高度ではない。ポケモンを捕まえるモードに切り替わった際に、カメラの映像(リアル世界の風景)とポケモンのコンピューター画像を組み合わせているにすぎず、ゲーム性を左右するような効果的な活用法とはいいがたい。それにもかかわらずAR効果は絶大で、スマホの画面を見ていると、ポケモンがあたかも現実世界に現れたかのように錯覚する。

ポケモンGOが全世界で大きな話題となった一つの理由が、この現実世界と重ね合わせたAR映像の魅力にあることは間違いない。アプリには、ポケモンが登場した状態でスクリーンショット(画面イメージ)を撮影する機能が付いている。ツイッターやフェイスブックなどの交流サイト(SNS)にユーザーが撮影した写真が投稿されたことで、口コミを通じてポケモンGOの魅力は急速に広まった。SNS上には、何でもない街中をポケモンがウロウロしているように見える画像や、ネコがポケモンに飛びかかろうとしている画像などが次々とアップされている。

ただし、ポケモンGOが採用したAR映像は進化の途上段階であり、かなり大ざっぱな代物だ。スマホが前後左右に揺れると、ポケモンの位置を同じ位置で表示させ続けることができない。「リアルな世界に隠れているポケモンを探し出す」というより、その雰囲気だけ味わっているというのが実情だ。

ゴーグル型のAR機器「ホロレンズ」を装着した状態

ゴーグル型のAR機器「ホロレンズ」を装着した状態

■ユーザーが見せるポケモンGOの次の可能性

ポケモンGOより一足早く、よりリアルなARを実現した例も登場している。米マイクロソフトが4月に開発者向けにリリースしたゴーグル型のAR機器「ホロレンズ」向けにユーザーが開発したアプリがそれだ。

同アプリは、ホロレンズ搭載の専用カメラとセンサーを使って、現実の空間にある物体をスキャンし、コンピューターで扱える座標情報へと変換する。そこに、コンピューター映像を重ねることで、リアルな世界の映像とコンピューター画像をシンクロさせることが可能になる。一度、リアルな空間に配置したコンピューター画像は、スマホを揺らしても、別の方向を向いても、その座標を記憶しているため、本当に現実空間にあるかのように感じられる。

ロブステリ氏が開発した、ホロレンズ向けアプリのデモ画面

ロブステリ氏が開発した、ホロレンズ向けアプリのデモ画面

オランダ・アムステルダム在住のデビッド・ロブステリ氏は、7月14日にツイッター上で、完全なARを実現したポケモンGOのデモの様子を動画サイトで公表した。動画の中では、室内外にいるピカチュウを探して捕らえるまでの様子が映像になっている。登場するポケモンは、特定の座標に正確に固定されているために、ホロレンズを装着した頭を動かしても、ポケモンが現実空間にいる座標は変化しない。そのため、現実にポケモンが存在しているかのように感じる。同氏以外にも、ホロレンズを使ってポケモンを現実世界に登場させようという試みを行っているユーザーが少なからずいる。

もちろん、これらデモの技術が正式にポケモンGOに採用されることはないだろう。しかし、ポケモンGOの登場が、AR開発者たちを大きく刺激していることは間違いない。

■グーグルも参入、本格AR「タンゴ」

16年3月のゲーム開発者会議(GDC)で公開された「タンゴ」のデモの様子。リアルな空間をコンピューター映像で上書きしているが、魅力が伝わりにくい

16年3月のゲーム開発者会議(GDC)で公開された「タンゴ」のデモの様子。リアルな空間をコンピューター映像で上書きしているが、魅力が伝わりにくい

グーグルも、ホロレンズと同様に現実世界をスキャンしてコンピューター映像を正確に重ねて表示できる「タンゴ(Tango)」と呼ぶスマホ向けAR技術を開発中だ。本稿執筆時点では、「対応スマホが1機種、9月から米国で発売になる」と発表されたばかりの段階であり、一部の技術者をのぞきタンゴは広く知られていない。当該技術が一般的なスマホに搭載されるまでには数年かかると考えられている。活用法も含め、ARは一般的な理解が得られている段階からはかなりほど遠い。

しかし、ポケモンGOの登場によって「ARとは何か」が、一気に広まった。多くの人にとってARは見知らぬ技術ではなく、見たことのある技術に変わったのだ。

開発元のナイアンティックは、グーグルからスピンアウトしたベンチャー企業だ。ポケモンGOが、いずれタンゴに対応することは想像に難くない。最新AR技術を取り入れ、より魅力的なゲームに進化したポケモンGOが登場する日は、そう遠くない。

新 清士(しん・きよし) 1970年生まれ。ゲーム開発会社を経て、ゲーム産業を中心としたジャーナリストに転身。ほかに、Tokyo VR Startups取締役、よむネコ代表、デジタルハリウッド大学大学院准教授を務める。著書に「VRビジネスの衝撃『仮想世界』が巨大マネーを生む」がある。
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