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Jリーグ、世界のファンに見てもらうために

Jリーグは100を超える国々にスポーツコンテンツを配信している世界最大級の動画配信サービス企業、パフォームグループ(本社・英国)と2017年から10年間の放映権契約を結んだ。契約額が10年総額で2100億円を超える大型契約になり、ポジティブな意味で身の引き締まる思いがする。

熊本地震後、本拠地で試合に臨んだJ2熊本。今後は全試合をインターネット配信する=共同

試合はいつでも、どこでも、何度でも

来季からはパフォームが提供するサービス「DAZN(ダ・ゾーン)」を通じて、明治安田生命J1リーグ、J2リーグ、J3リーグの全試合を生でインターネット上で生中継する。

このサービスにより、スマートフォン(スマホ)、タブレット、ゲーム機やパソコンなど様々なデバイスを使って、いつでも、どこでも、何度でも手軽に試合を見ることができるようになる。

もちろんスマホから飛ばせばテレビも受像機になるのだが、サッカーがお茶の間から街へ出て行くというイメージだと思う。言ってみれば、パフォームは日本に新たなスポーツ観戦文化をもたらしてくれる。料金設定はこれからだが、比較的安価に視聴が可能になる見込みだ。

また、JリーグとパフォームはNTTグループと提携し、J1を中心に全国のホームスタジアムのWiFi(ワイファイ)環境の整備を進めていく。それによってスタジアムでの視聴環境の向上が望める。

サッカーの放映権といえば、テレビ局に販売するのがこれまでの常識で、インターネット事業者が主たる放映権ホルダーになるのは世界のサッカーリーグで初めてのこと。Jリーグがパフォームと組んでどんな事業を展開していくのか、その試みは世界的に注目されることになると思う。

なぜ、Jリーグがパートナーとしてパフォームを選択したのか。その説明をする前に、Jリーグが置かれている環境を振り返る必要がある

近年、Jリーグは「関心度の低下」「入場者数の減少」「クラブ、リーグの収益悪化」という問題を抱えてきた。

08年と12年のJリーグに対する関心度を比較すると、たとえば10代男子は42.7%から31.1%、20代男子は51.9%から37.9%、40代男子は49.5%から34.9%へと激しく落ち込んだ。

パフォームグループとの契約に身が引き締まる思いだ(中央が村井チェアマン)=共同

続く収益減…何か手を打たないと

試合の全国放送は12年~14年はそれぞれ7本に減り、平均視聴率は13、14年は3.0%に落ちた。

その影響でリーグの収益減が続き、何か手を打たないと14年度に13億円の大幅減となる窮地に陥った。当然、将来に向けた思い切った投資はできなかった。

15年から大会方式を2ステージ制に変更し、明治安田生命Jリーグチャンピオンシップ(CS)を新設したのは負のスパイラルから脱するためだった。

その成果は表れ、15年のCSの生中継のテレビ視聴率(関東平均)は第1戦(TBS系列)が7.6%、第2戦(NHK総合)は10.4%を獲得した。しかし、それで満足し、足を止めてはいられない。

Jリーグとしては、リーグのブランド力の向上→クラブ・リーグの収益力アップ→チームの強化・育成への投資強化→有力選手の育成→有力選手の国内での活躍→Jリーガー中心の日本代表チーム編成→Jリーグのブランド力向上という循環をつくりたい。その取っ掛かりとして露出の拡大が不可欠だと思う。

魅力的なサッカーをするだけでなく、それをいかに広く、うまく伝えるか。それがリーグの成長のためのメーンテーマになる。

だから、Jリーグはパフォームグループと放映権契約を結んだ。今回の長期契約は「Jリーグを広く、うまく伝える」ための第一歩と考えている。

第1ステージに優勝した鹿島。今回の交渉は「Jリーグの成長を実現するためのパートナー選び」だった=共同

いかに日本サッカーを成長させていくか

この半年間、Jリーグはパフォームを含む数社と放映権交渉を進めてきたが、それぞれから、素晴らしい提案をいただいた。

交渉を進めるうえで、我々は「いかに日本サッカーを成長させていくか」という視点を大事にしてきた。言い換えるなら、今回の交渉は「Jリーグの成長を実現するためのパートナー選び」だった。

もちろん、契約期間の長さ、契約金額は決め手の一つだが、それだけでパートナーを選ぶつもりはなかった。高額な放映権料が入ればOKという話ではない。

Jリーグがいま、獲得したいものは何かを考えながら交渉を進めてきた。各国リーグと営業面で戦ううえで必要なものを提供してもらえるかどうかも、パートナー選びの基準の一つになった。

こうした我々の望みにパフォームは応えてくれる。そう判断した結果、今回の契約に至った。

来季からJリーグの放映形態は衛星放送をベースとしたものから、インターネットを中心にしたものに変わる。ネット配信することで視聴者はスマホ、タブレットなどでより手軽にJリーグを楽しめるようになる。

視聴する際の場所、時間の制約がなくなり、視聴形態の自由度が大幅に増す。Jリーグにとっては「広く伝える」ことができるようになる。しかも安価でのサービス提供が可能になりそうだ。

デジタル機器活用で新規ファン獲得を

近年、地上波、BS放送での中継が減ったことで、年間を通じたJリーグのストーリーが広く伝わりにくくなっていた。デジタル機器での配信により、その問題が解消され、Jリーグが広く露出すると期待している。

いわゆるライト層が手軽にJリーグに接しやすくなるだろうし、新規ファンの獲得にもつながるはずだ。他のスポーツのファンがJリーグにも目を向けるきっかけになるかもしれない。

もちろん、そうした方々をいかにスタジアムに引き寄せるかが、リーグ、クラブの課題になる。露出の拡大を入場者の増加につなげなくてはならない。

今回の契約により、リーグ、クラブ、あるいはスポンサーなどがJリーグの試合の動画の一部を公式サイトなどで活用できるようになる。

ゴール集、好プレー集などの短い動画に限らず、Jリーグのブランディングにつながるようなストーリー性のある動画、その週のダイジェスト版などファンを引きつけるものをふんだんに提供できる。Jリーグの魅力を伝えることで新規ファンが獲得できるはずだ。

ゴールを決めた浦和の槙野。莫大な放映権料は成績などで傾斜配分する。世界で戦えるクラブ誕生の契機となり得る=共同

番組映像もすべてJリーグ独自制作に

今後、生中継の番組映像のみならず、ダイジェスト映像やショート動画などもJリーグが主体となって制作する。映像のクオリティーが重要なので、パフォームが世界のスポーツ放送で蓄積してきたノウハウや最新技術を提供してもらいながら進めることになる。パフォームと契約した理由はここにもある。

映像制作費はこれまでスカパーJSATが負担していたが、今後はJリーグが負担する。我々が制作した映像を提供することで、地方局による地上波の中継が増えるかもしれない。地上波を含めた視聴の機会を増やす機会を得たことにもなる。

「伝える」ということでは、NTTグループの協力によるスマートスタジアム化は欠かせない。すべてのスタジアムで一斉に進めるのは難しいので、スタジアムを所有する自治体などの意向を聞きながら、J1クラブの本拠地から始めるつもりだ。

まずは、いいモデルケースをつくりたい。そこで大宮のNACK5スタジアムで様々な実験を進めていく。WiFi環境が整えば、試合中の視聴がしやすくなるし、即時配信するデータを見ながらの観戦も可能になる。

現在、38都道府県にJクラブがある。NTTの支援で、将来的には多くのスタジアムをWiFi化することが可能になるだろう。

番組編成の事情に縛られないデジタル機器へのインターネット配信であるため、試合のキックオフ時間の制約がなくなり、クラブの要望に応えやすくなる。たとえば日曜日の夜の試合であるとアウェーのファンがその日のうちに帰れなくなる。そうした不便が避けられることになれば、入場者数にも追い風になる。

世界で戦えるビッグクラブ誕生も

Jリーグはアジアでの露出拡大を目指してきている。その点でも、国際性のあるパフォームの力が頼りになる。パフォームもアジア市場に目を向けているので、互いの利害が一致する。海外向け放映権の契約は今回の契約とは別だが、パフォームはアジアを中心としたJリーグの海外展開のパートナーにもなり得る。

契約額の約2100億円というのはボトムラインで、パフォームが設定を上回る収益を得た場合、利益を分け合うレベニューシェアの取り決めをしている。

これだけ莫大な放映権料を手にするため、各クラブへの配分金の原資に余裕ができる。J1クラブに手厚く配分し、しかも成績などによる傾斜配分を進めていくので、クラブが成長し、世界で戦えるビッグクラブが生まれる契機になるかもしれない。

収益の増加により、Jリーグは成長のための投資の原資を得た。これまでの指針通り、何より選手育成に資金を投じ、日本サッカーのレベルアップにつなげたい。

あらゆる事業展開に余裕が生まれるので、年間のスケジュール問題、大会方式の問題、スポンサーの枠組み、マーチャンダイジングのあり方など様々な改革についても、これから議論を進めていく。

現在のJリーグの価値を上回る放映権料になったと感じている。これだけの金額をいただいたのだから、それに見合ったリターンをしていかなければならない。正直にいえば、喜びよりも数倍大きなプレッシャーを感じている。

私にとっての一番の課題はJリーグをより魅力的で、世界のサッカーファンに見てもらえるものにすることだと思う。そのためのダイナミックな改革に早急に着手したい。

(Jリーグチェアマン)

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