トルコ発の衝撃、リスクオフに逆戻りのリスク
15日金曜日、米国株式市場でダウ工業株30種平均の終値が確定する前後にトルコで勃発した「クーデター」の企て。全く想定外のイベントだったため、市場関係者はショックを受けている。
特にエルドアン大統領が国民に対し、街頭に出て抵抗運動をするように呼びかけ、多数の市民が街頭の戦車を取り巻く映像は衝撃的だ。大統領の強権政治に対する反発も強いが、軍部支配よりはマシだ、と判断した民衆も多いのだろう。
一部の軍部が先走った結果でありクーデターは成功しなかった、との見方が強まっている。一方で、国を二分する内戦という最悪のシナリオが市場では最も懸念される。いずれにせよ、国内に傷痕は残りそうだ。
トルコといえば、欧州連合(EU)の視点に立ってみると、対過激派組織「イスラム国」(IS)との戦いの最前線に位置する。トルコ国内には多数のIS派が存在することも知られている。欧州に大量流入する難民の中継基地として、EUにとってはバッファー役にもなっている。
フランス南部ニースで群集にトラックが突っ込んだテロ事件の直後に発生したトルコのクーデターの動きだけに、EU加盟国の間ではさらに反EU感情が高まる可能性もある。すでにフランス国内では、反EU政党で、極右政党「国民戦線」のマリーヌ・ルペン党首の支持が高まりそうだ。2017年5月のフランス大統領選挙が、実質的にはEU離脱を問う英国型の国民投票と化す可能性がある。そこに、EUと中東を結ぶトルコでは軍の一部が反乱する動きが起こった。トルコ経由でEU内部にテロリストが侵入するリスクを警戒し、EU域内でも国境警備がさらに強まる。人の移動の自由、というEUの基本概念は実質的に崩れつつある。
ロシアも黙ってはいられないだろう。イスタンブールのボスポラス海峡は、ロシア南下政策において、戦略的に極めて重要な位置にあるからだ。そこにかかる大橋が異常な状況下で閉鎖されるという事態に懸念を強めるのは必至だ。
トルコ情勢を受けたマーケットではすでに、有事の円買いと金買いが生じている。円は1ドル=104円台に上昇し、調整局面に入っていた金価格も10ドルほど急騰して1トロイオンス1340ドル台に戻している。リスクオフの兆候と言えるだろう。
連休に入る日本市場としては、なんとも間が悪い。
英国によるEU離脱決定を受けたショックから「離脱」したとの安心感が強まっていた矢先に、フランスとトルコでは地政学的リスク共振現象が顕在化したのだ。週末前にポジションを清算せず、ヘッジをかけていない投資家が、損失覚悟で巻き戻しのトレードを強いられる可能性がある。新たなポジション形成も、リスクオフ前提となる兆しも見られる。
特に、外国為替市場の円相場を振り返ると、投機筋の円買いポジションが売り戻され106円台まで円安・ドル高が進んだため、そろそろ新たな円買いの仕掛けが散見される状況にあった。
英EU離脱決定の直後に取引時間中だった日本市場。国民投票の開票速報の結果をもろに受けたが、今回は、18日月曜日が休日ゆえ手が出せないリスクがある。
海外の外国為替市場で投機家にもてあそばれると、相場が大きく変動するリスクがますます高まりそうだ。

豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経ヴェリタス「逸's OK!」と日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層心理」を連載。
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