大人が昼から街ゾロゾロ、「ポケモンGO」巧妙な仕掛け
米国でスマートフォン(スマホ)用位置ゲーム「Pokemon GO(ポケモンGO)」が爆発的なブームとなっている。米サンフランシスコの街中などでは、平日の昼間に多くの大人達がスマホをのぞき込みながら街を歩き回り、「ポケモン」収集に励んでいる。
ポケモンGOの人気を確かめるために筆者がサンフランシスコに繰り出したのは2016年7月13日(米国時間)のこと。米国でリリースされたのが2016年7月6日(同)なので、ちょうど1週間が経過している。実際に街に出てみると、ポケモンGOのプレーヤーはすぐに見つかった(写真1)。

この男性はポケモンを集める「モンスターボール」(カプセル)をあしらったリュックサックを背負いながら、サンフランシスコの「フィナンシャルディストリクト(金融街)」や「ユニオンスクエア」に近いダウンタウンで、ポケモンGOに励んでいた。
話を聞けば、昔からの熱心なポケモンファンで、サンフランシスコにあるテクノロジー関連企業に勤めるエンジニアとのこと。オフィスはこの近所にある。「平日の昼間なのに仕事はどうしているの?」と尋ねたところ、「休憩時間にオフィスの周りでポケモンGOをしてるよ」という返事が返ってきた(写真2)。


ポケモンGOはスマホを片手にプレーヤーが実際に街を歩きながら、「ポケモン」を収集するゲームだ(写真3)。街中にある観光名所やモニュメント、小売店などには、アイテムを手に入れられる「ポケストップ」や、自分のポケモンをほかのプレーヤーのポケモンと戦わせる「ジム」が設定されている。
プレーヤーはこうしたポケストップやジムを経由しながら街を歩き回るので、それらが設定されている観光名所には特に、ポケモンGOのプレーヤーが集まっている(写真4)。
プレーヤーは観光名所なのに名所は見ずにスマホをのぞき込み、しばらく立ち止まるとすぐに移動を始める。出会ったポケモンをゲットしたり、ポケストップにチェックインしてアイテムなどをゲットしては、その場所をすぐに立ち去っているわけだ。
単独ではなく、2~3人のグループで歩き回っているケースも多い。そういう場合は、スマホをのぞき込みながら足早に歩き去って行くのですぐに分かる。30代ほどの男女のカップルがポケモンGOをしながら歩いて行く姿も目にした。

ポケモンGOに対する興味は総じて高い。筆者が日曜日(7月10日)にスーパーに買い物に行ったところ、レジ打ちの店員にいきなり「ポケモンGOをやってる?僕もやりたいよ」と話しかけられた。またポケモンGOプレーヤーを探すため、自分でもポケモンGOをプレーしながらサンフランシスコの公園「ミッション・ドロレス・パーク」を歩いていたら、日光浴をしている地元民のグループに「ポケモンGO?」と声をかけられた。日本人がスマホを見ながら歩いていると、総じてポケモンGOをしているように思われるようだ。
夏休みだが子供プレーヤーは見かけず
興味深いのは、ポケモンGOをプレーしている子供達には全く出会わなかったことだ。筆者は今回、サンフランシスコのユニオンスクエア周辺と、オシャレな飲食店の多い「ミッション地区」を昼間から夕方にかけて散策したが、ポケモンGOをプレーしているのは皆、20~30代の大人ばかり。子供は見かけなかったのだ。
米国では6月から小学校は夏休みに入っている。ところが米国では、子供は常時大人と一緒に行動するように、州の法律によって子供の親に義務付けられている。つまり子供がポケモンGOをするには、親の同行が欠かせないのだ。そのため、平日のダウンタウンでポケモンGOをする子供は、夏休みとはいえ見かけられなかった。
任天堂やゲームの開発元である米Niantic(ナイアンティック)はダウンロード数などを公表していない。しかし、平日の昼間にこれだけの大人が街中でプレーしているのだから、米国でポケモンGOがブームを迎えているのは、間違いないと感じた。
ポケモンGOは間もなく、日本でも配信が始まる予定。以下では米国でのプレー内容を基に、ポケモンGOがどのようなゲームかざっと紹介しておこう。
プレーヤーを歩かせ健康に
ポケモンGOの基本的な流れは、街をとにかく歩いて、ポケモンを収集することにある。ポケモンがユーザーの近くに現れるとスマホが振動するので、アプリケーションを開いてポケモンにモンスターボールを投げつけて、ポケモンをゲットしていく。アプリはスマホのGPS(全地球測位システム)センサーを使ってプレーヤーが歩く距離などをチェックしているようで、しばらく歩かないとポケモンは現れてくれない。
街を歩き回る際には、観光名所などに設定された「ポケストップ」を巡っていくのが効率的だ(写真5)。ポケストップはモンスターボールなどのアイテムやポケモンの「卵」などが手に入るというスポットだ。


Nianticは同社の位置ゲーム「Ingress(イングレス)」の「ポータル(陣取り合戦の拠点)」をポケストップに転用したようで、有名な観光名所だけでなく、地元の小さなお店やよく分からないオブジェなどもポケストップとして登録されている(写真6)。Nianticは米Google(グーグル)から独立した企業。Google社員が特に多く住むと言われる「ミッション地区」には、数十メートル間隔でポケストップが設定されているほどだった。
ポケモンGOではプレーヤーは赤、青、黄色の三つのチームのいずれかに所属し、観光名所や店舗などに設定された「ジム」にポケモンを配置することで、そのジムを自分のチームのものにしていく(写真7)。

ジムに他チームのポケモンが配置されている場合は、そのポケモンと自分のポケモンとを戦わせて、他チームのポケモンを追い出していく(写真8)。同じチームのポケモンと戦わせることで、自分のポケモンをトレーニングする仕組みもある。


ポケモンGOはつまり、ポケモン収集とジムの「陣取り合戦」を中心としたゲームだ。もっともその本質は、プレーヤーをひたすら歩かせて健康にすることにあるようだ。例えば、ポケストップで手に入るポケモンの卵を「孵化器(インキュベーター)」に入れると、ポケモンが卵から生まれてくるのだが、その生まれる条件は「一定の距離を歩くこと」。筆者が手に入れた卵の中には、プレーヤーが10キロメートルを歩かなければ孵化(ふか)しないものもあった(写真9)。
なお、ポケモンGOでは英語版であっても距離の表記はメートル法であり(米国ではメートルではなくヤードやマイルを使うのが一般的)、米国の報道によれば多くの米国プレーヤーがメートル表記に戸惑っているとのこと。Googleの検索クエリーの動向を示す「Googleトレンド」でも、キロメートルとマイルの両方を検索するクエリーが、この1週間で激増している(写真10)。

サンフランシスコでは7月20日の夜に、数千人のプレーヤーが一斉にポケモンGOをしながら街を歩くイベント「Pokemon Go Crawl」が有志の手によって企画されている。Facebook(フェイスブック)のイベントページでは、既に5700人が参加予定を表明し、2万3000人が「興味あり」としている。
ポケモンGOはさまざまな意味で、米国社会に大きな影響を与え始めていると言えそうだ。
(シリコンバレー支局 中田敦)
[ITpro 2016年7月14日付の記事を再構成]
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