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米マイナーでプレーの異色監督見参 岡山県津山高

スポーツライター 丹羽政善

いったいどんな野球をするのか。

夏の全国高校野球選手権岡山大会の1回戦を突破し、16日に優勝候補の創志学園との2回戦に臨む岡山県立津山高校野球部の浮田圭一郎監督の采配が、興味深い。

浮田監督は日本の野球界に身を置いた時間より、大リーグなど米国の野球に触れた時間の方が長いという異色の指導者だ。

浮田監督は米マイナーリーグなどでプレーし、球団での通訳やイチローらを取材した経験を持つ(浮田監督提供)

米マイナーから独立リーグ、さらに…

2001年、大リーグを目指してマイナーリーグでプレー。夢は断たれたが、その年の秋には治安が決していいとはいえないコロンビアまで行ってウインターリーグに参加。翌年には米国の独立リーグと契約している。その後、肘のケガもあって現役を断念すると、米国内の大学へ進学した後、野球部のコーチも務めた。06年にはドジャースで、現在パドレスで編成業務のインターンを行っている斎藤隆氏の通訳を務め、07年から11年までスポーツ紙の記者としてマリナーズのイチロー(現マーリンズ)、城島健司氏を中心に取材した経歴を持つ。

実はその時期、筆者は浮田監督と机を並べた。彼はいつも遅くまで残って原稿を書いていた。ある時、そろって遅かったので、一緒にラーメンでも食べて帰ろうか、という話になって、シアトルのセーフコ・フィールド近くの中華街にある店に向かった。が、夜遅くまでやっているその店でさえ、さすがに閉店していた。あれは、深夜2時、いや、3時すぎだったか。

選手、コーチとしてマイナーリーグ、ウインターリーグ、独立リーグ、米大学野球を経験し、通訳として大リーグ球団内部に携わり、さらには記者として大リーグを取材。これだけ様々なレベルの野球を多角的に見てきた指導者を他に知らない。

米球界に浸った浮田監督の指揮とは

今夏、そのどっぷりと米野球界に浸ってきた人が日本の高校野球の指揮を執っているのである。

――やはり、送りバントはしないんですか?

そう聞くと浮田監督は即答する。

「しますよ」

――あれっ、するんですか? 

「(エンゼルスの)ソーシア監督はするじゃないですか」

確かにソーシア監督は多用するけれど、米国の野球では、みすみすアウトをくれてやる必要はない――との考え方がどのレベルでも一般的。大リーグでは、むしろそのまま打たせた方が得点の確率が高くなるデータもあり、バントをするのは投手ぐらい。そもそも野手はバントをすることになれていないので、大リーグのレベルでも失敗するケースがいくらでもある。

ただ、浮田監督はこう言う。

「ウチのチームでは、ノーアウトの走者をバント以外で進める技術がまだない。大リーグのセイバーメトリクス(統計学を用いた選手の評価、分析手法)とかデータ野球というのは、もう少し高いレベルでの話です。このレベルではメンタルのほうが大切。緊張してバットを振れない子もいますから」

「勉強も大変。土日の両方に試合を入れることはない」という(浮田監督提供)

いやいや。大会中に監督が作戦を明かすとも思えず、「データを集めれば必ず法則性がある」とも話すので、この言葉には裏があるのかもしれない。そうした一方で、米国の野球にならっていくつかの手法を実践している。

まずは、投手の保護。

「通常、高校野球では、土、日に練習試合を組みますが、ウチは、両方とも試合を入れることはありません。シーズン中でもどちらかを休みにすることがあります。勉強も大変なので、その点も考慮していますが、なにより連投をさせたくない。土曜日にダブルヘッダーがあるとします。ウチの投手は2人なのでそれぞれ1試合ずつ投げたら、もう次の日は投げさせられません」

「彼らのゴールは高校野球ではない」

日本の高校野球界の物差しでみれば異端なのかもしれない。だが、米国の野球に触れれば、連投には抵抗があって不思議はない。加えて、連投をさせたくない背景にはこんな思いもにじむ。

「基本的には大学へ進学し、大学野球で自分を磨いてほしい。今はまだ体ができていない。彼らはこれからまだ伸びる。昨年卒業した子は大学で145キロの球を投げています。彼らのゴールは高校野球ではない」

高校野球がゴールという学校もあるはずだ。事情は学校によってそれぞれである。浮田監督は、「もちろん、甲子園を狙ってます」と強調するも、投手だけではなく、どの選手にも大学で野球を続けてほしいという。体ができたとき、まだまだ成長できる。そうすればもっと野球が楽しくなる。そこまでを見据えて指導している。

また、"考える力"も大切にしているそうで、それは米国の指導法に近い。

この春、レンジャーズのダルビッシュ有が、高校時代の練習を振り返ってこんな話をした。

「みんな、うさぎ跳びをやらされてましたが、僕はしなかった」

なぜか。

「感覚的にやらないほうがいいと思った。(しない方が)ケガのリスクもない」

うさぎ跳びの有害性は今や広く認知されているが、ダルビッシュのように考えられる人は例外的。ましてや高校野球の世界である。しかし、それでもダルビッシュはトレーニングメニューに関しても、やらされるのではなく、それが自分に必要なのかどうか、自ら判断した。

日本では小さな頃から、指導されることが当たり前である。あれをしなさい、これをしなさい。むしろ、言われたことをやる方が楽だ。が、それに慣れきると、考える事をしなくなる。それではいけないのではないか。ダルビッシュはそういう日本的な指導の弊害を度々、直接的、間接的に口にするが、浮田監督としても、やはり米国の野球を見た経験からか、考えさせることに主眼を置いている。

「大リーグって、よく選手ミーティングをするじゃないですか。うちも選手だけでミーティングをさせます。考えさせたいんですね」

かつて取材したイチローの言葉を引用、ダメ出しではなく、選手に改善策を話し合わせる(浮田監督提供)

例えば、試合でミスがあれば、選手同士で話をさせる。

「ダメ出しではなく、改善策を話し合わせるんです」

そこから何が生まれるか。それこそ、浮田監督が指導者として期待する部分だ。

「進学校なので一方的に答えを与えるより、自分達で生み出していく方がよいと考えます。結果としてそれが間違いであっても、そこで立ち止まって再考することで、さらに成長できると信じています。こちらからこうしろと指示を出すことも必要ですが、自分なりの正解を手に入れることも大事だと思います」

5年間取材したイチローの言葉で指導

自分たちに必要なものは何か。何をすべきか。自分たちで答えを出してほしい。

「勉強と同じで復習を大切にさせています。試合で失敗した部分をどう克服するか。指導者は会議や追試の監督等で平日は練習に出られないことも多いですから、選手に大ざっぱなメニューを指示し、どう取り組むかは任せています。復習は自分で考えて納得しなければ身につきません」

ときおり、5年間取材したイチローの言葉がよみがえる。

「イチロー選手の言う、『失敗の中にこそヒントがある』という考えは、まさに当てはまると思っています」

そのイチローの話を折に触れて口にするそうだ。

「試合前の準備がいかに大切か。イチロー選手はどうだったか、伝えることもあります」

浮田監督自身、野球経験は長くても、監督としては今夏が初陣だ。試行錯誤している部分もある。が、米野球界に触れ、南米の野球も体験して、日本の指導者にはない引き出しがある。その中で日本に適したものをいいとこ取りしながら、日本の高校野球と融合させていったとき、浮田監督はどんな采配をふるい、選手はどんな野球をするのか。

根付いたものを問うとしたら、16日の強豪・創志学園戦は、むしろうってつけだろう。

「(組み合わせ表を見て)いきなりかよ、とは思いましたけどね(笑)」

しかし、浮田監督はこう言葉を継ぐ。

「3年生が、これが最後だと思って、力を出してくれたら面白いと思います」

手応えありげだった。

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