企業、減災へ地域と連携 - 日本経済新聞
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企業、減災へ地域と連携

環境や貧困など様々な社会的課題をビジネスの手法で解決するソーシャルビジネス。優れた取り組みをする団体や企業を表彰する第4回「日経ソーシャルイニシアチブ大賞」(主催・日本経済新聞社)は大賞に認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパンを選んだ。6月27日の表彰式と記念シンポジウムでは250超の応募から選んだ7団体を表彰し、「減災社会のために企業が求められること」をテーマにパネル討論を開いた。

パネリスト(写真右から)
○立命館大学公共政策大学院教授 久保田崇氏
○公益社団法人Civic Force代表理事 大西健丞氏
ロート製薬広報・CSV推進部 佐藤功行氏
○日本マイクロソフト渉外・社会貢献課長 龍治玲奈氏
〇明治学院大学教授 原田勝広氏
(司会)

東日本・熊本での活動 復興、前線で効率改善

原田氏 首都直下型地震など災害はいつ、どこで起きてもおかしくない。被害を完全に防げないが、最小限にとどめるための準備はできる。企業はどんな役割を果たしうるのか。東日本大震災、熊本地震の支援に関わった皆さんにこれまでの支援内容を伺いたい。

久保田氏 内閣府にいたが、東日本大震災の直後から4年間、陸前高田市の副市長として復興に努めてきた。震災で妻を亡くしながら陣頭指揮をとっていた戸羽太市長からの依頼がきっかけだった。復興はまだ中盤だが、様々な企業からの支援を受けながら進めている。新しいコメの品種の無償譲渡や新入社員のボランティア活動など、共に歩んでいくという企業の姿勢がありがたい。

大西氏 20年前につくったピースウィンズ・ジャパンでこれまで28カ国・地域、現在は11カ国で活動する。当初は紛争地域で復興支援する企業はほとんどなかった。政府、非政府組織(NGO)、経済界が連携するNPO法人「ジャパン・プラットフォーム」を2000年に設立し、企業の参加によって支援内容が充実し始めた。09年には国内の災害対応を専門とする公益社団法人「Civic Force」を設立し、東日本大震災ではフェリーやトラックを借りて物資の運搬を支援した。現在はアジアに向けて、社会全体で大規模災害に対応できる体制づくりを提案している。

佐藤氏 私が勤務するロート製薬は公益財団法人「みちのく未来基金」を設立した。本当の意味で復興を考えると、10年以上かかる。若者の夢や希望を後押しするため、返済不要の給付型奨学金を設けて高校卒業後の進学を支援している。個人としては東日本大震災直後、宮城県石巻市で最先端の技術を生かして、漁業の復興に携わってきた。水産加工会社がイスラム教徒向けに配慮した加工品をつくり始めるなど、必要とされる商品をいかに効率よくつくるかをテーマに取り組んでいる。

龍治氏 日本マイクロソフトはICT(情報通信技術)業界で連携して、ネットにつながるパソコンを東北の避難所や仮設住宅に送った。子どもがパソコンを使うと大人も関心をもち、多世代交流のきっかけとなった。時間がたって使われ方が変化し、最初はこういうものが必要じゃないかとこちらから提案していたが、東北の人からこういうことをやりたいと提案を受けるようになった。

行政・NPOと連携のあり方 地域のニーズが出発点

原田氏 企業の取り組みや連携、支援の方針などを詳しく聞きたい。

佐藤氏 地域で頑張っている人たちと新しい価値を生み出すため、自社のみで完結させるのではなく、技術やノウハウを持つ企業同士が手を組むことが重要。地域だけで継続できる事業やサービスにしていくためには、地域の人々が主役であるべきだ。我々は黒子に徹して、地域を盛り上げていこうと思った。

龍治氏 同じく地域のニーズを聞くことを重視している。NPOで物産展の管理をIT(情報技術)でやりたいという声があった際には普段は競合する他社とも連携した。災害が起きてから企業がすべきことは自社の製品、サービス、社員という資源をどのように役立てるか、丹念に話し合うことだと考えている。

原田氏 行政の立場からすると、企業の活動や連携はどう感じるか。

久保田氏 被災地の状況は刻々と変化し、時期によって必要なものは異なる。企業の力を生かして被災者のニーズを聞き取りながら、共に歩んでいく姿勢はありがたい。行政側も、これが足りないので対応できる企業があれば助けを求めるなど、積極的になるべきだ。

原田氏 企業の社会的責任(CSR)が重要になる時代に、企業とNPOの連携のあり方も変化しているか。

大西氏 東日本大震災の頃からCSRを重視する雰囲気が出てきて、震災を機に大きく広がった。交流サイト(SNS)で誰でもすぐに低コストで発信でき、多くの人々と双方向のコミュニケーションを短い時間でできるようになった。寄付はもちろん、(自社の)こういう在庫や技術は役に立たないかと問い合わせがたくさんきた。うまく使えば、非常に効果的な支援となる。

「次」への備えで企業の役割 人・モノ提供、経験を糧に

原田氏 災害時に企業ができることは何か。まず行政とNPOから企業への期待は。

久保田氏 減災は想定より被害を少なくすることだから、事前の準備が必要。企業は東日本大震災を機に対応を改善させたところが多い。自治体は積極的に被災地に職員派遣を行うべきだ。今困っている被災地が助かるだけでなく、危機意識が高まった職員に防災行政を任せることもできる。

大西氏 プロとしての専門性を中心に据えた貢献活動なら、NPOやNGOだけでなくても(企業でも)できる。大規模災害時には損益を少し傷めても株主から称賛されるのではないか。企業に継続的に防災、減災を促すような仕組みが必要だ。災害時に何ができるのかという対応策を検討しておいてほしい。

原田氏 熊本ではタブレット端末が配布され、行政と避難所をつないだ。日本マイクロソフトは長期的支援のために支援チームを立ち上げた。

龍治氏 東日本大震災から1年後に、行政とNPOで何が難しかったかを洗い出して一つの提言にまとめた。業界の連携や行政・NPO間の協力があった熊本の地震では、避難所で情報交換できるクラウドの仕組みを立ち上げた。平常時からネットワークを調整していけば、いざという時に早く支援が広がる。あらゆる関係者を巻き込み対話を続けていきたい。

佐藤氏 民間ができることは、行政の制度を補完できる仕組みをつくること。ただ、長期視点を持って行動することは民間が苦手とするところ。平時から問題意識と現場感覚のある社員を増やし、民間企業同士が手を組んで社会課題を解決することが重要となる。

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