/

U16日本代表、国際親善大会2位で得た教訓

今年の夏、日本はリオデジャネイロ五輪に一喜一憂することになるのだろうが、夏は日本国内でいろいろな大会が花盛りになる季節でもある。舞台が何であれ、どこであれ、そこに参加する選手たちには自分にできたこととできなかったことをしっかり把握、整理して、次のステップへの道しるべにしてほしいと思っている。

アンダーエージから優秀な選手を出すことは重要。G大阪・遠藤もU-20ナイジェリア大会のメンバーだった=共同

入場無料、大会は子供らでにぎわった

そういう意味で「これは素晴らしい」と思う大会が一足先に鳥取県であった。6月22日から26日まで「U-16インターナショナルドリームカップ2016」と銘打ち、16歳以下の日本代表、ハンガリー代表、マリ代表、メキシコ代表が鳥取市営バードスタジアムに一堂に会した親善大会である。入場料無料ということで期間中は多くの子供が集まって、非常ににぎわいのある大会になった。

優勝は全4チームの総当たりで決め、大会の出場資格は2000年1月1日以降生まれの者。結果から先にいうと、優勝したのはアフリカから来たマリで3戦全勝という見事な成績だった。日本はハンガリーに4-1、メキシコに6-0で勝ったものの、マリに1-2で敗れて2位。3位はハンガリーで、一つ下の15歳のチームでやってきたメキシコが全敗で最下位に終わった。

私が見たのは初日の22日と最終日の26日で、メキシコとハンガリーをともに3-0で退けたマリの強さに強烈なインパクトを受けた。試合時間は45分ハーフと大人なみだったが、マリの強さもこのカテゴリーの枠を超えたものだった。マリに敗れた日本の少年たちは素晴らしい教訓を得たことだろう。

近年、マリは育成年代の強化に力を入れている。15年にチリで行われたU-17ワールドカップ(W杯)は決勝でナイジェリアに敗れたものの準優勝に輝き、同年のU-20W杯ニュージーランド大会も3位。来年にインドで開かれるU-17W杯も出場を決めたら、相当にやりそうな雰囲気を漂わせた。

マリの選手から感じた判断の柔軟性

印象的だったのはマリの選手の「にょきっ」と出てくる足だ。日本の選手たちが「抜けた」「通せた」と思ったドリブル、パスに足が出てくるのだ。そこで引っかかってどうしてもリズムに乗りきれない。

逆にマリの選手がボールを持って攻めてくると、ドリブルをするのか、パスをするのか、なかなかつかませてもらえない。マリの選手の判断には「自分が決める」というよりも「相手の動きを見てから決める」という感じの柔軟性と懐の深さがある。日本の選手が対応を決めた後にその逆を取る、というような。

面白いことに、試合前のウオーミングアップだけ見ているとマリの選手の方が下手に見える。ボール扱いなどは日本の選手の方が全然上手というか。しかし、試合になるとうまいのはマリの方という感じ。試合におけるツボのような場面になると「ここしかない」というところにパスをぴたっと合わせてきたりする。逆にマリ戦の日本は相手の激しいプレッシャーに持ち味を十分に出し切れずに終わった。

浮かび上がったのは、十分に強度のある環境で練習や試合をやることの大切さだ。マリが見せたものは敵がいないと身につかない技術である。コーンや人形を相手に練習しても身につかない技術である。相手が道を完全にシャットアウトしてくる状況の中で、いかにパスを通すか、ドリブルして抜けるか、駆け引き込みの技を身に帯びないと通用しないということである。

鹿島・小笠原も99年のU-20ナイジェリア大会で存在感を見せた=共同

意味ある「カルチャーショック」

特に、リーチが長いマリのようなアフリカ勢にどう対処するかは、国内で日本人同士といくら試合をしてもつかめない感覚である。そういう意味で15歳、16歳のうちにマリのようなチームから"カルチャーショック"を受けておくのはとても良いことだった。

Jリーグの広島のアカデミーで長年指導にたずさわり、その実績を評価されてU-16日本代表を率いる森山監督は9月にインドで行われるアジア選手権に臨む。ここでベスト4に進めば来年、これまたインドで開かれるW杯本大会に出場できる。

ハンガリーに4-1、メキシコに6-0で勝ったからいうわけではないが、今回の日本代表は相当レベルが高いと感じた。選手村になったホテルでは「来年のW杯でもう一回会おうぜ」という会話を他のチームの選手たちとしていた。意識の高さを感じた。

森山監督もそういう選手をさらに競わせる指導を心がけている。そこがいい。代表チームの良さとはイコール競争の厳しさだと私は思っている。「ダメなら外す」「序列はない」ということを強烈に打ち出すことで競争で能力を引き上げられる。選べる対象が日本国籍を有する者なら誰でも可というくらい広いからできることで、クラブチームではなかなかできない。そういう代表の特長を森山監督はうまく利用していると感じた。

予選と本選が行われるインドは暑い上にピッチの状態も決して良くないらしい。克服しなければならないハードルが幾つもある。うまいだけではどうしようもないわけで、闘える選手をどれだけそろえられるか。そこに森山監督もフォーカスしているように感じた。

「自信ある者が勝つのがスポーツ」

アンダーエージの代表から優秀な選手を輩出することの大切さは言うまでもないことだろう。スペイン代表の10年W杯南アフリカ大会優勝の出発点も1999年のU-20W杯ナイジェリア大会の優勝にあった。ここでMFのシャビやGKのカシリャスが優勝という成功体験を得たことが新しい歴史をつくることにつながった。

私はよく子供たちに「うまいヤツが勝つのではなくて自信のあるヤツが勝つのがスポーツの世界だよ」という話をする。日本はスペインが優勝したナイジェリア大会で準優勝に終わったけれど、小野伸二や高原直泰、稲本潤一、小笠原満男、遠藤保仁らがいたこの時の日本代表も自信に満ちあふれたチームだった。

自信にあふれた理由の一つはエースの小野が既に前年の大人のW杯(98年フランス大会)に出場経験があったことだった。それが小野に余裕を生み、その余裕が周りにも波及していったのだ。そういう意味では小野を大抜てきしてフランスのピッチに立たせた当時の岡田監督の投資が後で効いたといえる。

日本サッカーの将来を考えるなら、日本は再び、10代で代表入りする選手を生み出していかないといけない。それこそ来年のU-17W杯やU-20W杯から2018年のロシア大会に連れていけるような選手を。

大会期間中にマリの監督やコーチと顔見知りになり、「鳥取は砂丘が有名だ」と教えたら「俺たちの周りは全部砂漠だ」といわれてお互いに大笑いした。本当にバカなことを口にしたものである。

サッカーだけでなく人間性も育てる

マリで感心したのは「チームとして我々はここに来ている」という一体感を植えつける作業だ。練習前には全員で輪になって歌を歌う。サッカーだけを教えている感じがしない。人間を育てている感じがした。

マリが大会中に調子が良かったのは自国より鳥取の環境の方が良かったことも関係しているように感じた。日本で朝、昼、晩と3食ベて、ベッドで快眠もできて、ストレスなく、サッカーに集中できる。それも優勝の一因だったのだろう。

鳥取で国際大会をやるのは初めてのことだったらしいが、日本サッカー協会が運営のオーガナイズに関わったからトラブルもなかった。日本がメキシコに大勝した最終日の観客は5000人を超えた。

各国の練習は鳥取の指導者が自由に見られるようになっていた。指導者講習会にはマリやメキシコの監督も講師として参加、集まった指導者には貴重な財産になったことと思う。

国際試合に飢えていたのか、鳥取の子供たちは選手たちにサインをもらっていた。そういうふれあいの場が持てるのも、国際大会の良さだろう。おそらく、誰かも分からずもらっていたのだろうが、それがトンデモナイお宝になる可能性があるな、とも思った。マリやハンガリーの195センチの大型FWなどはこの先、大化けする可能性がある。欧州のビッグクラブで活躍することだってあるだろう。

マリが近年、アカデミーに力を入れて強くなったのは国際サッカー連盟(FIFA)が若年層の移籍を問題視して禁じたことと関係があるらしい。人権問題の観点から欧州のクラブがアフリカの子供たちを青田買いするのを禁じたことは、アフリカの側から見れば、預け先がなくなったことを意味する。受け皿がなくなったのならアンダーエージの強化策は自分たちでやるしかない。FIFAからの補助金でトレーニングセンターを協会は整備し、そこにやる気のある自国のコーチが育成部門を担って、みるみる頭角を表してきたわけである。

マリの関係者に言わせると「今のチームにいる子供たちも18歳になったら、すぐに4人くらいは欧州のクラブへ行くことになっている」らしい。

思いはEU離脱を決めた英国に飛んだ

そんな話を聞きながら、思いはEU(欧州連合)からの離脱を決めた英国に飛んでいた。イングランドのプレミアリーグはこの先どうなるのだろうと。

すごいもの、人間でいえばスターが見たいという欲求は人間の本能のようなものだろう。そのすごいものに国籍は問わない。それがスポーツや芸術など文化の良さ、素晴らしさである。

サッカーリーグでいえば、ハイレベルな競争の中の最高級のものを見てみたい。その欲求を具現化したもの、競争の極地がイングランドのプレミアリーグだった。その名前どおりの「プレミア」という立場をEUから離脱した後も、維持できるのかどうか。

スポーツは競争を前提に成り立っている。ワールドワイドなスポーツで"鎖国"して強くなった選手、チームとかあまり聞いたことがない。来年、再来年、急にどうこうという話ではないのだろうが、プレミアリーグの質を落とすような変化がEU離脱がもたらすとしたら非常に残念なことである。

(サッカー解説者)

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン