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鍵は将来見通す力 日米企業、成長格差の裏にCTO

CTO30会議(2)

日経BPクリーンテック研究所

バブル崩壊後、日本企業がもたついているうちに、米国企業は大きく成長した。米国企業の成長を支えたのは、実は優秀なCTO(最高技術責任者)だ。欧米でも産業によってCTOのタイプは異なる。

日経BP社が主催する次世代CTOが集うフォーラム「CTO30会議」で、2016年4月にドリームインキュベータの竹内孝明執行役員が、2016年5月に同社の石原英貴執行役員が講演した内容を基に、欧米における成長企業のCTOとその役割を探る。

ベンチャーだけではない米国企業の成長力

日本と米国を比較すると、企業の研究開発費はどちらも高水準で大きな差はない。ところが米国企業に比べて日本企業の成長力は大きく劣るのが実情である。

「日本と米国で時価総額が1兆円(米国の場合は100億米ドル、1米ドル=100円とした)を超える企業の数を比較すると1990年以降で大きな差が開いた」(竹内氏)。1990年は、日本の兆円級企業の数は54社、その時価総額の合計は112兆円だった(図1)。

図1 時価総額で見た「兆円級企業」の日米比較(出所:ロイターナレッジThomsononeデータを基にドリームインキュベータが作成)

対して米国は、28社の7100億米ドル(71兆円)。それが、2013年までの23年間で、逆転され大きく水をあけられた。日本の兆円級企業は100社となり、時価総額は273兆円。これに対して米国では、兆円級企業の数が426社と約15倍に、時価総額は17兆5400億米ドル(1754兆円)と約25倍になった。米国と日本の圧倒的な成長力の違いが分かる。

中でも顕著なのはベンチャー企業の成長力だ。1990年以降に上場して兆円級に成長した企業は、米国で121社。日本ではソフトバンク、ヤフー楽天の3社だけである。

米国はベンチャー企業ばかりでなく古参企業も成長している。ここで古参企業とは、1990年時点で上場していた企業を指す。日本の兆円級の古参企業の時価総額は、1990年は112兆円で2013年は257兆円。2.3倍の伸びにとどまる。その間に米国は7100億米ドル(71兆円)から13兆6500億米ドル(1365兆円)と19.2倍に拡大した。

時代に合わせて事業領域を変化させるGE

なぜ、日本と米国でこれほど大きな差が開いたのか。「実は、その背景に優れたCTOの存在がある」(竹内氏)。一例が米ゼネラル・エレクトリック(GE)。同社の事業領域の変遷を見ると、2003年から2015年の12年間に大きく変化していることが分かる(図2)。

図2 GEの事業ポートフォリオの変遷(出所:GEのアニュアルレポートなどからドリームインキュベータが作成)

2003年は金融が大きな比率を占め、家電もある程度の比率を占めていた。2006年には、金融の比率が低下し、代わりにエネルギーや産業分野が増えている。2015年になると、エネルギーの比率がさらに高まり、産業に続いて医療分野も増えている。加えてIoT(モノのインターネット化)を製品に組み合わせ、「インダストリアル・インターネット」を実現した。これにより、例えば航空業界に向けて、優れたエンジンではなく、最適化された飛行を提供する企業へと進化した。

このように時代に合わせて、提供する価値を変化させて成長を続けられたのは、CTOのマーク・リトル氏が技術の知識をベースに将来を予測しているからだ、と竹内氏は強調する。

ベンチャーでも同様だ。例えば、「画期的なEV(電気自動車)を開発したテスラモーターズでは、圧倒的な存在感を示すCEO(最高経営責任者)のイーロン・マスク氏を、CTOのジェービー・ストローベル氏が技術面から支えている」(竹内氏)。EV搭載のソフトウエアをワイヤレスでアップデートしたり、Gigafactory(ギガファクトリー)で搭載する電池のコストを大幅に下げたり、コストを下げた蓄電池を家庭用にも提供して電力網までビジネス領域に取り込んだりと、テスラモーターズは業界の常識を超えた構想を次々と打ち出している。こうした時代のニーズを先取りして、新しい価値を提供し続けるには、将来を見通せるCTOの存在が欠かせない。

CTOの役割はエンジニアとは違う。技術的な知識を持っていることは同様だが、エンジニアは現在手掛けている技術をどうやって伸ばすか、どんな商品を開発できるかと発想する。CTOの発想は全く逆だ。「20年後の世の中に求められるものは何か。そこから考えて、どんな構成技術が必要か。そのうちのどの技術を自社の強みにするか」というように、すべて10年、20年先の未来像からのバックキャストで決める。CTOは技術だけ見ていては不十分ということだ。

CTOを4つのタイプに分類

アントレプレナー型、技術マネジメント型、技術ユーザー型、技術スペシャリスト型―――。一見同じようではあるが、欧米企業のCTOにどのような人がいるかを調べると、一様ではないことが分かる。業種などにより「大別して4タイプに分類できる」とドリームインキュベータの石原氏は分析する(図3)。具体的には次の通りだ。

図3 CTOの4つのタイプ(出所:ドリームインキュベータが作成)

1.アントレプレナー型

技術がすぐにビジネスに直結しているIT(情報技術)分野に多い。米オラクルや米グーグルが例として挙がる。もともと研究者であるため、技術は十分に分かっている。研究してきた技術を実社会に導入するために起業したケースが典型例である。

2.技術マネジメント型

技術の進化は速いが、それがビジネスに結びつくまでに時間がかかる電機分野、化学分野、機械分野に多い。技術を事業化するまでの長い間、マネジメント能力が求められる。米デュポン、独シーメンス、独ボッシュなどが例として挙がる。日本でも多いのは、この技術マネジメント型である。

3.技術ユーザー型

既存の技術をいかにビジネス化するかが求められる。業界としては流通や小売りである。米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)や米フェデックスなどである。

4.技術スペシャリスト型

長期的な視点で開発を続ける医薬品や航空宇宙産業などが当てはまる。生粋の研究者が多く、技術の本質を理解していることが求められ、必ずしもビジネスに長けている必要はない。

日本の場合は自動車産業と電機産業の企業が多いため、2の技術マネジメント型が多くを占めそうだ。ただし、「近年は技術の進化が速まり、技術がビジネスになるタイミングが早まる傾向にある。アントレプレナー型に近い能力を求められる方向にシフトしている」(石原氏)と見てよさそうだ。

石原氏は、日本企業が参考にするべき事例としてデュポンを挙げる。「デュポンは事業領域を大きく変更させて時代に対応してきた」(石原氏)からだ。まず長期の社会ニーズに基づき戦略的に次のターゲット市場を決定する。そのターゲット市場に向けて、投資する事業とカットする事業を選別する。このターゲット市場の決定には、将来を見通すCTOの役割が欠かせない。

将来ビジョンから事業戦略への落とし込みがカギ

CTOが作成した将来ビジョンは、事業戦略に落とし込み、社内に浸透させなければ意味がない。「社内で浸透させていくうえでの視点は3つある」と石原氏は説く。事業と技術の整合性、将来と現在の整合性、経営層の考えを現場に落とし込む体制である(図4)。この3つのどこかにギャップがあると、企業は新しいビジネスを創出できない。

図4 ビジョンを事業に落とし込むときにギャップが生じやすい3カ所(出所:ドリームインキュベータが作成)

こうしたギャップを生じさせないためのキーパーソンが、やはりCTOだ。将来像を描き、そこでのビジネスの在り方を考える力。CTOには、これが求められる。残念ながら現状では、「日本企業のCTOは、研究開発のトップで、技術ばかり見る人材が担っているケースが多い」(石原氏)。将来の成長に向け、日本企業はCTOの役割を改めて見直す必要がありそうだ。

(日経BPクリーンテック研究所 菊池珠夫)

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