フルスイングの余韻(山崎武司)

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球宴で一振り300万円 真夏の夜の楽しい思い出

2016/7/10 6:30
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27年間の現役生活の中でも、一振りで300万円を手に入れたあの夜のことは忘れられない。楽天時代の2008年7月31日、京セラドーム大阪でのオールスター第1戦だ。

あの日、僕とソフトバンクの松中信彦は全パの梨田昌孝監督(現楽天監督)から「きょうは出ないよ」といわれ、スパイクも履かずにベンチでくつろいでいた。ところが1点を追う九回裏、ヒットが続いて思わぬチャンスに。急に「やっぱりいけるか?」という話になり、先に代打で出た松中がタイムリーを打って追いついた。

監督推薦で出場が決まった広島の(左から)中崎、野村、鈴木、菊池=共同

監督推薦で出場が決まった広島の(左から)中崎、野村、鈴木、菊池=共同

続いて起用されたのが僕。こんなにおいしい場面をみすみす逃す手はない。直球に狙いを定めて初球を振ると、打球は前進守備の右翼の頭上を越えた。サヨナラ打で最優秀選手(MVP)に選ばれ、賞金300万円を獲得したのだ。

九回まで休んでおいて一番おいしいところだけ持っていったわけだから、全パのチームメートには当然冷やかされた。一番悔しかったのは全セの金本知憲(現阪神監督)だろう。ダルビッシュ有(現レンジャーズ)から先制ホームランを打った彼は少し前までMVPの最有力候補だったのだから。

6回出場、オールスターと相性良く

今年も間もなく球宴だ。6回出場したオールスターとは相性が良かった。計13試合の成績は打率3割3分3厘、3本塁打、8打点。勝敗は二の次で直球勝負が増えるから普段より打てる確率は高くなる。中日時代の2000年には神戸での第2戦で当時西武の松坂大輔(現ソフトバンク)らからヒット3本を打ち、MVPになった。楽天の本拠地・仙台でホームランを打った07年にもスポンサーの「ガリバー賞」に選ばれ、ポルシェをもらった。打席で捕手の巨人・阿部慎之助から「ホームランを打ってもいいですよ」とささやかれ、直球一本に絞ってスタンドにたたき込んだこともある。福岡、新潟で試合があった10年には息子を連れていき、一緒に飛行機に乗ったのも楽しい思い出だ。

セ・パ交流戦や日本代表の「侍ジャパン」もある最近は変わってきたのかもしれないが、僕が若かった頃、両リーグのスターが一堂に集うオールスターは特別なものだった。監督推薦で初出場したのはプロ入り10年目の1996年。そうそうたるメンバーの中に自分がいるという高揚感、トップレベルの投手と勝負できるワクワクとドキドキでとても緊張したのを覚えている。当時、まだ地味だったパ・リーグの選手にとっては名前を売る絶好の機会でもあり「やったるぞ!」という気迫をひしひしと感じた。お祭りでの活躍は後半戦に向けた弾みにもなる。

ファン投票で選出された日本ハムの大谷(右)と中田=共同

ファン投票で選出された日本ハムの大谷(右)と中田=共同

オールスターは前半戦で活躍した選手へのご褒美だ。出場を重ねるにつれて慣れてはいったが、特別なものであることに変わりなく、ベテランになっても休みたいと思うことはなかった。初めてファン投票で選出された時には監督推薦とは違う重みを感じた。ただ、まれに成績が伴わない選手が人気先行で選ばれてしまうこともあり、これは本人にも気の毒だ。しっかりと活躍した人の中から選出する――。ファンにもこの前提をしっかり守ってもらえたらと思う。

オールスターならではの楽しみのひとつに選手同士の交流もある。全然しゃべらないと思っていた選手が、ちょっと口をきいてみると実は面白いヤツだったりする。一度言葉を交わすとペナントレースに戻っても挨拶にきてくれるようになり、距離感が縮まる。だが96年の前半戦で大乱闘の相手となった巨人のガルベスは別。周りからは「オールスターで話してみろ」といわれたが僕は断固として話しかけなかったし、向こうも近寄ってこなかった。

一人ひとり全く異なる考え方や感覚

40歳近くになって再びホームランを打ち出した楽天時代には「どんな感覚で飛ばしているんですか?」とよく聞かれた。隠す必要もないので正直に話していたが、こうした技術面の意見交換がそのまま本人の参考になることは少ない。僕にとって一番勉強になったのは、同じプロ野球の一流選手でも、考え方や感覚が一人ひとり全く違うというのを知ったことだ。「おかわり」こと西武の中村剛也がもつ打撃のイメージは僕とは全く違うものだった。本人のイメージと、はたから見る姿がかけ離れている選手も少なくない。実はいま、解説をするときにもこうした蓄積が案外役立っている。

(野球評論家)

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