/

母の「訓練」、毎日7時間 卓球・伊藤美誠(下)

この夏、一緒に日の丸を背負う福原愛、石川佳純と同じく、伊藤美誠(みま)も卓球好きの母が最初の師だった。「私との訓練に比べたら、今は試合も練習も楽しいはず」。苦笑いで語るのは母の美乃りだ。練習でなく「訓練」という言葉が激烈さを物語る。リビングに卓球台を置いた静岡県磐田市の実家は、まさに卓球漬けの日々を送るために建てた家だった。

一緒にダブルスを戦う大先輩の福原(右)との相性は上々だ=共同

「中途半端は嫌い」「人の成功体験には興味がない」「始めたときから中国に勝てる選手を意識していた」。その言葉が表す通り、母は普通の人ではなかった。練習は幼稚園から帰宅後に毎日7時間。フォアハンド、バックハンド、ストレート、クロスなど打ち方やコースごとに100球連続ラリーを課した。途中で失敗したらゼロからやり直し。日付が変わることも度々だった。

つい3年前、小学校卒業まで続いた母子の鍛錬を、美乃りは体を小さくして振り返る。「娘は大迷惑だったと思う。私も二度とやりたくない。マネしないでください……」。ただ、伊藤は「卓球をやめたくなったことは一度もない」と言う。練習はつらく厳しかったが、母は卓球を楽しむ機会も十分与えてくれた。

週に2回、男子のエース水谷隼の父が代表を務める豊田町スポーツ少年団の練習に参加した。伊藤は年上の中高生や大人と試合をするのが大好きだった。「私との地味な基本練習で美誠はいわば飢えている状態。外に連れて行くと、相手の技術や戦術をどんどん吸収していった」と美乃り。相手の意表を突くプレーは当時から片りんがあったという。

中学からは大阪に拠点を移し、新興の関西卓球アカデミーに加入した。「美誠は自分で納得して動くタイプ」。伝統校や日本協会のエリートアカデミーの実績よりも自由な環境を優先した。伊藤を静岡時代から知る松崎太佑が専属コーチを務めるが、練習メニューは基本的に自分で考える。

伊藤がリオで出場する団体戦は最大でシングルス4試合、ダブルス1試合で争う。日本が重視するのが第3試合で行われるダブルスだ。女子監督の村上恭和は伊藤と福原のペアを半ば公言している。石川もいる中で相手に手の内を明かさないのが定石だが、「実力があればいいわけだから。4年前より強いペアができた」。それは15歳への信頼と言い換えてもいい。

大先輩の福原との相性は上々だ。これまでワールドツアーには3度出場して準優勝、3位が1回ずつ。「美誠は本当に思い切りがいい。トリッキーなプレーがすごく多くて、私も横でびっくりさせられる」と福原。ともにバック面に似た種類のラバーを張り、前陣速攻を得意とするタイプ。4日まで仙台でダブルスの集中合宿を敢行し、練習後は仙台出身の福原の案内で美味を満喫した。年の差12歳ペアの息はさらに良くなったようだ。

4年前のロンドン五輪は現地で観戦した。ワールドツアーとはまるで違う選手たちの集中力、鬼気迫る表情を覚えている。「あと1カ月。早いなと思うけど、早く来てほしいとも思う」。自信があるからこそ、五輪デビューが待ち切れない。=敬称略

(山口大介)

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン