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主力選手放出? 「常勝」ヤンキースが悩む事情

スポーツライター 杉浦大介

メジャー屈指の名門ヤンキースが苦戦している。田中将大はエース格としてまずまずの投球を続けているが、チームはア・リーグ東地区5チーム中4位と低迷。8月1日のトレード期限を前に、今年は補強するのではなく、主力選手を放出するのではという推測も飛び交っている。過去23年は常にポストシーズンに進出するか、少なくとも9月までプレーオフが狙える位置にいた強豪は、今夏に解体の道を歩むのだろうか。

田中の前半戦は及第点

「チームが勝ったことは素直にうれしいですけど、今日の登板は迷惑しかかけてないし、気まずさというのはありますね……」

6月29日のレンジャーズ戦では今季ワーストタイの6失点と痛打され、試合後の田中は意気消沈していた。九回裏の猛反撃でヤンキースは9-7と逆転サヨナラ勝ちを飾り、田中の負けは消えた。それでも27歳の右腕の気持ちは晴れなかったに違いない。

もっとも、今季は16試合に登板し、5勝2敗、防御率3.35とここまでの数字は悪くない。この日は打たれたものの、前半最後の登板を終えた時点で通算104回2/3を投げており、投球回数は渡米以降初めてシーズン200イニングを突破するペース。もちろん内容が良くなければ長いイニングは稼げないわけで、エース級先発投手の絶対条件をクリアしていると言ってよい。

中5日の6戦では3勝0敗、防御率1.24、中4日の7戦では1勝2敗、防御率5.28と中4日登板に対する不安こそ消えていない。それでも、右ひじに対する懸念はすでに吹き飛び、及第点の前半戦を過ごしたと評価できるのではないか。

ただ……。ヤンキースのチーム全体を見ると、田中の安定は数少ない好材料にすぎない。7月1日のパドレス戦を終えた時点で39勝40敗と苦戦し、地区首位のオリオールズにすでに8ゲーム差。2席のワイルドカード争いでも8番手にすぎず、プレーオフ進出には黄信号が灯っている。

「最高の野球、プレーできていない」

「まだ自分たちにとって最高のベースボールがプレーできていない。4月に大きな穴にはまってしまい、そこから出ようとしているところだ。これからも良いプレーを継続していく必要がある」

田中の女房役も務めるブライアン・マッキャン捕手はそう語るが、正直、優勝を狙えるチームにはまったく見えないのは事実である。

先発投手陣の中で防御率3点台なのは田中とCC・サバシアだけで、ネイサン・イオバルディは同5.54、マイケル・ピネダは5.24、イバン・ノバは5.32と低迷。打線も低レベルで、チーム総得点328(メジャー23位)、長打率3割9分1厘(同27位)、OPS(出塁率と長打率を足した数値)は同25位といった成績は寂しい限り。レギュラー野手の中に32歳以上の選手が7人もいる高齢チームだけに、今後の伸びしろが大きいとも思えない。

39歳のカルロス・ベルトランは右足ハムストリング、36歳のマーク・テシェイラは右ひざを負傷し、40歳のアレックス・ロドリゲスも打率2割2分3厘と不振のどん底だ。こんな厳しい状況下では、これまでのヤンキースなら8月1日のトレード期限までに全力を挙げて戦力補強に挑みそうなところ。しかし、今季に関しては、逆に主力を放出する側に出るのではないかと予想されているのである。

チャップマン放出なら見返り多い?

今年のチームの最大の強みはデリン・ベタンセス(防御率2.82、38回1/3で69奪三振)、アンドリュー・ミラー(防御率1.30、34回2/3で64奪三振)、アロルディス・チャップマン(防御率3.00、21回で32奪三振)という救援トリオ。この3人は期待通りの仕事を果たしている。しかし、そもそも先発が勝つチャンスを作れないことが多く、強力ブルペンも宝の持ち腐れに終わっている感がある。

そんな中で、残り契約2年のミラー、今年が最終年のチャップマンを放出すれば、多くの見返りが期待できる。ジャイアンツ、ナショナルズ、カブス、レンジャーズ、インディアンスといった上位チームはそれぞれブルペン補強をもくろんでいるだけに、これらのチームから有望な若手を獲得することは可能だろう。

打撃面では自己最高レベルの数字を残しているベルトランを欲しがるチームもあるはず。また、ヤンキースが給料の一部を負担すれば、ブレット・ガードナー、マッキャン、ジャコビー・エルズベリー、チェイス・ヘドリー、イオバルディ、ピネダといった選手たちの獲得に興味を持つチームも出てくるに違いない。ここで一部の主力をトレードし、効果的な再建策を進めれば、今年のプレーオフ進出をのがすことが確実になっても、比較的近い将来に再び上位が狙えるかもしれない。

選手やファンは優勝諦めず

「僕たちは向上している。これからもいろいろなことが起こるだろうけど、より良いベースボールをプレーしていけるはずだ。僕たちは決してあきらめず、最後まで戦い続ける。それこそが必要な事なんだ」

ディディ・グレゴリアス遊撃手がそう語る通り、ヤンキースの選手たち、ほとんどのファンはまだ優勝を諦めていない。9勝17敗というどん底のスタートの後、5月6日以降は30勝22敗。6月も15勝12敗とじり貧の状況なわけではない。

2つめのワイルドカードまでは3ゲーム差。現実的に優勝の可能性を感じさせない陣容ではあっても、現時点でプレーオフが絶望になったわけではなく、それが首脳陣の決断を難しくさせる。"常勝"を義務付けられたヤンキースの遺伝子に、"チーム解体"は含まれていないと語るファン、関係者も依然として存在する。

ただ……。長くニューヨークでヤンキースを取材してきた筆者から見ても、今夏から来季以降をにらんで動くのが得策に思えるのも事実ではある。

29日まで対戦したレンジャーズは、ノマー・マザラ、ルーグネッド・オドーア、ジャリクソン・プロファーといったイキの良い若手を擁していた。同じニューヨークに本拠地を置くメッツも、マット・ハービー、ノア・シンダーガード、ジェイコブ・デグロームといった本格派投手たちを上手に育て上げ、日々、ニューヨーカーを沸かせている。それらのチームに比べ、高齢化したヤンキースの魅力不足は明白だ。

人気衰え、観客動員数もダウン

見どころのなさは観客動員に表れており、1試合平均のホーム観客数3万8114人は昨季比マイナス4%で約1500人のダウン。デレク・ジーター、マリアーノ・リベラらが元気だった2010年の4万6491人と比べると、約8000人も減少している。

14年までの6シーズン中4年でメジャー1位だったアウェーでの観客動員が、今季は同16位というのも象徴的だ。地元でのテレビ視聴率もメッツに抜かれるなど、かつて"銀河系軍団"などと呼ばれたヤンキース人気の凋落(ちょうらく)を示す数字は枚挙にいとまがない。こんな状況下では、抜本的な改革が必要。ベテランの尻をたたいて可能性の高くないワイルドカード進出を目指すより、一時的に勝率が下がっても、よりフレッシュで、魅力のあるチーム作りを望む関係者が増えるのは必然だろう。

"解体"と呼べるほど大掛かりではなくとも、マーケットに出れば人気になりそうなミラー、チャップマン、ベルトランを出せば、有望な選手、ダイナミックな若手が手に入る。そういった方法で好素材、ポテンシャルの高い選手を増やし、近未来に備えていくのが良いのではないか。

「これからトレード期限まで短距離走で、その間に私たちは優勝候補か、そうではないかを見極めていかなければいけない」

痛感せざるを得ないチームの過渡期

レンジャーズとのシリーズ中、ブライアン・キャッシュマン・ゼネラルマネジャー(GM)は微妙な胸の内を話していた。プレーオフ進出の可能性が残る限り、売りに出る決断は簡単ではない。しかし、1990年台後半の黄金期からチーム作りに関わってきたGMは、現在のヤンキースが過渡期にあることを誰よりも痛感しているはずだ。

93年以降は毎年勝率5割以上。新陳代謝の激しい米スポーツ界において、近年のヤンキースの実績はほとんど驚異的なものだった。そして、そのチームが売りに出れば、"歴史的"と呼び得る事件となる。そういった意味で、これからトレード期限までの1カ月間、尻に火がついたヤンキースの戦いぶりと成績に注目が集まる。

ヤンキースは現在アウェー10連戦中。ここで大きく負けが混むようなことがあれば、キャッシュマンの選択はより容易になる。長い目で見ると、そうなった方がチームにとってもより良い事態とすら思えるのだから、皮肉な状況といえるのだろう。

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