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メッシ、代表引退表明 南米選手権終幕後に激震

サッカージャーナリスト 沢田啓明

6月3日から南米10カ国、北中米6カ国の計16カ国の代表を集めて全米10都市で行われたサッカーの南米選手権(コパ・アメリカ)100周年記念大会は、意外な幕切れとなった。この大会の1次リーグで対戦したアルゼンチンとチリ(このときはエース、メッシ=バルセロナ=を故障で欠いていたにもかかわらずアルゼンチンが2-1で勝利)が再び顔を合わせ、攻撃陣が絶好調だった両チームが延長まで戦ってスコアレスドロー。PK戦でチリが4-2で勝ち、昨年に続いてこの大会を連覇したのである。

試合後、さらなる激震が走った。PK戦でキックを失敗して悔し涙を流したメッシが「過去(2007年、昨年、今年のコパ・アメリカと14年ワールドカップ=W杯)国際大会で4度も決勝を戦ったのに、どうしても優勝できない。代表での自分の役割は終わったと思う」と語り、代表からの引退を示唆したのである。さらに他の主力選手も代表から身を引くという情報がある(ただし今後、メッシが発言を撤回する可能性もありそうだ)。

チリとアルゼンチン、圧倒的な強さ

ともあれ、大会を振り返ってみよう。

圧倒的な強さを発揮したのが決勝に勝ち残った2カ国だった。チリは昨年の自国開催の大会で悲願の初優勝を遂げ、それが選手たちにとって大きな自信となっている。プレースタイルは独特だ。決して大柄ではないが、基本技術がしっかりしており、豊富な運動量をベースにコンパクトな布陣で選手全員が攻守両面で頑張り続けるスタイルが浸透している。その一方で、MFビダル(バイエルン・ミュンヘン)、FWサンチェス(アーセナル)、CBメデル(インテル)ら欧州ビッグクラブで活躍する高い個人能力を備えた選手もいる。

今年1月末にアルゼンチン人のサンパオリ監督が脱税疑惑で辞任し、やはりアルゼンチン人のピッシ氏が招かれたが、就任後のW杯南米予選では1勝1敗だった。しかし、このコパ・アメリカでは1次リーグ初戦でアルゼンチンに敗れたものの、ボリビア、パナマを下して波に乗った。

圧巻だったのは準々決勝のメキシコ戦。似たタイプのチーム同士の対戦で接戦が予想されていたが、プレッシング、攻守の切り替え、決定力などすべての点でメキシコを上回って7-0と圧勝。試合後、メキシコのグアルダード主将(PSV)が「これほどひどい負け方をしたのは初めて。国民に申し訳ない」と顔面蒼白(そうはく)で謝罪したほどだった。

準決勝のコロンビア戦でも序盤に人数をかけた攻撃で2点を先取すると、その後も主導権を握り続けて快勝した。決勝ではアルゼンチンに先に決定機をつくられ、退場者を出して数的不利になるなど苦戦したが、驚異的な粘りで食い下がり、無尽蔵のスタミナを発揮して形勢を盛り返したことが栄冠につながった。

アルゼンチンは実力ではナンバーワンだった。守備でマスチェラーノ(バルセロナ)、攻撃でメッシという絶対的な選手がおり、ほかにもイタリア・セリエAの得点王イグアイン(ナポリ)、MFディマリア(パリ・サンジェルマン)ら世界トップクラスの選手がそろう。華麗なパスワークで中盤を支配し、ほとんどの試合で相手に攻める時間を与えなかった。

メッシは開幕直後は故障でプレーできず、ピッチに立ったのは1次リーグ第2戦(対パナマ)の後半途中から。それでも30分足らずの出場時間でハットトリックを達成し、桁違いの実力を見せつけて観衆を熱狂させた。

アルゼンチンはボリビア、ベネズエラにも大勝。準決勝の米国戦では、試合開始早々にメッシの絶妙の浮き球をFWラベッシ(パリ・サンジェルマン)が頭で決めて先制すると、メッシの見事なFKで加点した。後半にもイグアインが2得点をあげ、米国に1本もシュートを打たせず4-0と完勝。米国のクリンスマン監督に「サッカーのレッスンを受けた」と脱帽させた。

決勝でも前半は優勢だったのだが、後半と延長はチリ選手の運動量と気迫にやや押され、頼みのメッシもボールを持つたびに複数のチリ選手からチャージを受けて不発だった。

とはいえ、決定機はアルゼンチンの方が多く、決して悪い内容ではなかった。個人的には今後、メッシが代表引退の意思を覆し、9月に再開されるW杯南米予選に臨んでほしいと思っている。

ブラジル、選手の個人能力に頼るだけ

この大会で最も期待を裏切ったのはブラジルだ。1次リーグ第3戦(ペルー戦)で相手FWが手を使ってボールをゴールに押し込んだように見えたプレーを主審が得点として認めた不運があったとはいえ、1勝1分け1敗で1次リーグ敗退の屈辱を味わった。攻守両面でチーム戦術が確立されておらず、選手の個人能力に頼るだけ。敗退後、ドゥンガ監督が解任され、12年クラブW杯優勝の実績を持つチチ氏(コリンチャンス前監督)が新監督に就任した。彼はブラジル人監督には珍しい戦術家でリーダーシップもあり、国民は大きな期待を寄せている。

18年W杯南米予選で第6節を終えた時点で首位に立っているウルグアイはエース、スアレス(バルセロナ)が故障で欠場したのが響き、1次リーグであっさり敗退した。選手層が薄いのが弱点だが、それは人口約340万人という小国ゆえの宿命でもある。

14年W杯でともにベスト16に進んだ米国、メキシコは地元観衆らからの熱烈な声援を受けて奮闘したが、南米の高い壁に跳ね返されてそれぞれベスト4、ベスト8にとどまった。それでも、世界トップレベルの強豪と真剣勝負して彼らとの差を体感したことは、2年後のW杯を目指すうえで貴重な経験となったはずだ。

南米勢同士の対戦となった決勝戦が8万2千人を超える観衆で超満員となり、1試合当たりの平均入場者が4万6千人を超えるなど大会は興行面でも成功した。特にアクシデントはなく、アメリカ大陸全体を巻き込むサッカーの祭典として大いに盛り上がった。

とはいえ、その置き土産が天才メッシの代表引退であってほしくはない。それは世界中のサッカーファンの思いでもあるはずだ。

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