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[FT]伊政党「五つ星運動」の危険な誘惑(社説)

Financial Times

「五つ星運動」は、イタリア政治のあり方を変えると訴えてきた反体制派の政党だ。その五つ星運動が先週末、主要都市のローマとトリノで市長選に勝利し、これまでで最大の成功を収めた。この勝利は、中道左派の首相として困難な局面に立たされているレンツィ氏への一撃だ。レンツィ氏が、この敗北の後に勢力をまとめ上げて必要な経済改革を押し進めるには、新しい機運を見いだす必要がある。

五つ星運動はこれまで創設者でコメディアンのベッペ・グリッロ氏と、その激しい反ユーロと反移民の訴えに支配されていた。しかし最近、グリッロ氏は表舞台から退き、五つ星運動は有権者に新しい顔を見せている。ローマ市長選では同党候補の37歳の弁護士、ビルジニア・ラッジ氏が「永遠の都」の歴史を通じて初の女性市長となった。トリノでもビジネススクール出身の女性候補、キアラ・アッペンディーノ氏が中道左派の有力候補を大差で退けた。レンツィ氏は若き首相だが、イタリアの政財界は今も中高年の男性に支配されている。男性支配の牙城に切り込んだ女性2人の個人的な成功は歓迎されるべきだ。

五つ星運動の躍進は、何年にもわたる景気低迷、賃金の停滞、高失業率を政府に抗議する有権者の決意を反映している部分が大きい。また、今も消えない政治腐敗に対する同党の強い姿勢も支持を集めている。この点は特に、市財政が重い債務を抱え、一部の政治家に犯罪行為の疑いが浮上しているローマで共感を呼んだ。

それでも、五つ星運動が国政レベルで信頼できる政党になるまでにはまだ遠い。その大きな理由として、経済政策が矛盾している。同党はユニバーサル・ベーシック・インカム(普遍的な最低生活保障)を支持しながら、その財源について全く説明を提示していない。また、ユーロ離脱を国民投票にかけると訴えているが、その実施はイタリアと欧州の安定性を大きく揺るがすだろう。財政政策では減税と支出拡大に的を合わせているが、イタリアにそのような余裕はない。政府債務は国内総生産(GDP)の132%に達している。

レンツィ氏敗北なら経済後退の可能性

重要な点は、レンツィ氏が市長選の結果を受けてどう対応するかだ。次の総選挙がまだ2年先であることを考えれば、市長選の結果も差し迫った脅威には感じられないだろう。しかしレンツィ氏は、議会審議の行き詰まり解消を図るための憲法改正の是非を問う国民投票を10月に行う予定だ。レンツィ氏は自らの将来を国民投票の結果に懸け、否決されれば辞任すると述べている。現状況では、そうした結果になることも全くありうるように思える。

レンツィ氏は主導権を取り戻さなければならない。レンツィ氏は、自党の民主党を自分一人で動かしたがっていると批判されている。盟友たちも輝けるようにして、自分は強力なナショナルチームを率いているのだという意識が伝わるようにすべきだ。10月にレンツィ氏が敗北すれば、イタリアが打撃を受けることになる。民主党はレンツィ氏の首相辞任後も当面、政権にとどまれるかもしれない。しかし、党内が新たな勢力争いに陥り、レンツィ氏が掲げた改革路線の経済政策から後退する可能性が高い。

五つ星運動は、これからが真価を問われる時だ。ローマとトリノでの勝利の後、同党はたやすいポピュリズム(大衆迎合主義)の言辞を越えて、イタリアの2つの主要都市を運営する能力があることを示さなければならない。しかしながら、市長選での勝利が党の政策プログラムの欠陥を補うことにはならない。五つ星運動はイタリア政治に新鮮な顔を送り込んだが、イタリアを運営できる状態には程遠い。

(2016年6月21日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

(c) The Financial Times Limited 2016. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

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