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東電トラブルで新電力が悲鳴、電気料金「請求できない」

電力小売りの全面自由化から3カ月弱。電力会社を切り替えた世帯は、全国の約2%にとどまり、「自由化は失敗だ」と揶揄(やゆ)されることすらある。だが、その裏で新電力には新規顧客の獲得に注力できない事態が発生していた。

2016年4月上旬から、「電気料金の請求ができない」という深刻なトラブルに見舞われているのだ。ある大手新電力幹部は、「"地獄の5月"を過ごしたが、6月に入っても状況は変わっていない」とうなだれる。

原因は、東京電力パワーグリッド(PG)のシステムトラブル。電力自由化を迎え、消費者は電力会社を選べるようになった。ただ、それは小売り分野に限った話。電力網の維持管理や、各世帯にセットされた電力メーターによる検針業務は、大手電力会社の送配電部門が引き続き担当している。東電PGは東電の送配電部門として4月に分社化された。

小売電気事業者(新電力)は毎月、東電PGが検針した顧客ごとの月間使用電力量データを東電PGから受け取り、これを元に電気料金を計算し、請求書を発行する。ところが、待てど暮らせど東電PGから使用量データが届かない。データが来なければ、新電力は消費者に請求のしようがない。

既にインターネット上では、「電気料金の請求が来ない。いいかげんな新電力と契約してしまった」といったネガティブ情報が流れ始めている。

通知遅れは4月上旬から

通知遅延が出始めたのは、4月上旬からだ。通常であれば、顧客ごとの1カ月間の使用電力量の値を検針日から数日のうちに東電PGが新電力に通知する決まりになっている。ただ、当初は通知対象となる新電力の顧客数が少なかったため、影響は限定的だった。

ところが、5月に入ると自由化の開始に合わせて新電力と契約した顧客の検針分が増加。これに伴い、通知遅延も急増した。新電力の料金請求チームは、顧客からのクレーム対応と業務量の増加で連日連夜の残業が続いている。「派遣社員が辞めてしまった新電力もある」(関係者)。"地獄の5月"という表現が出てきたのは、こうした現場の惨状からだ。

損害賠償や遅延損害金の支払いを迫られる新電力も出てきた。例えば、ビルや倉庫のオーナーなどの法人顧客の場合、新電力からの電気料金の請求を受けて、テナントに再請求するケースがある。契約条件によっては、請求遅れが原因で、テナントから電気料金を回収できないビル・倉庫オーナーもいるためだ。また、請求日程が明確に決まっている自治体が顧客の場合、請求遅れが遅延損害金の対象になることもある。

低圧の顧客数が多い事業者の場合、請求業務はシステムで一括処理するのが通例。需要家ごとの個別対応は難しく、「全データがそろってから一斉に請求するしかない」(関係者)。こうした事情から、「遅れが生じた4月分と5月分をまとめて請求するつもりだったが、5月分のデータがそろわなければ、6月も請求業務に入れない」という。

通知遅れ2万5000件

さらに深刻なのは、企業規模の小さな事業者だ。「請求できないので入金がない。だが、電源費用などの支払いは通常通りなので、資金繰りが厳しくなってきた」(新電力幹部)。

遅延が発生しているのは、東電エリアの約2700万件のうち、全面自由化に合わせて開発した新たな託送業務システムが対象とする約60万8000件(5月30日時点)。そのうち高圧・低圧合わせて、約2万5000件で通知に遅れが出た。全体の約4.2%にあたる。

6月に入り、5月分の請求業務も始まったが、「先月と全く同じ状況。確定使用量の通知遅延は、ほぼ同じ件数で今月も起きている」と、ある新電力幹部はうなだれる。

背景に東電の「スマートメーター設置遅れ問題」

東電PGは、使用量データの通知遅れの原因を「システムトラブル」としている。システムトラブルと聞くと、システムの機能面や性能面の不具合がもたらしたという印象を受ける。だが厳密には、システム以前の問題だ。

自由化に合わせて新電力に契約を切り替えた世帯は、従来の機械式メーターからスマートメーターへの切り替え工事を行っている。ところが、短期間に切り替えを申し込む顧客が集中し、切り替え工事の際に、使用量データを取るのに必要なメーター情報や契約者情報のシステムへの登録が追いつかなくなったことが引き金となった。

東電PGは現在、様々な対応策を講じており、「一定の成果が出始めている」(同社)と説明している。ただ、東電PGが提示している対応策が、新電力にとって万全かと言えばそうではない。ある大手新電力は、「想定しているデータ形式と異なる形式でデータを渡すと言われているが、それでは当社の請求システムを動かせない」と明かす。

「6月中には4、5月分の遅延を解消し、6月分は通常通りのスケジュールで使用量データを通知したい」とする東電PG。ただ、順調に正常化へ向かうかどうかは不透明だ。

東電の情報開示姿勢に疑問

「短期間で電力システム改革を進める中で起きたこと。東電PGもある意味、被害者だ」。請求遅れに苦しみながらも、一定の理解を示す新電力は少なくない。だが、 東電PGの対応には、首をかしげたくなる面もある。最たるものが、情報公開のスピード感だ。

東電PGが通知遅延を正式に公表したのは、経済産業省から最初の報告徴収を受けた5月20日。問題が顕在化してから1カ月半近く経ってからだ。

東電PGは、「BtoB事業を手がけているので、顧客である事業者には早くから状況を説明し、お詫びしてきた」と言うが、その先にいるエンドユーザーに意識が及ぶのに、なぜこれほど長い時間を必要としたのだろうか。

請求遅れで憤り、困惑する顧客と、情報公開に消極的な東電PG。板ばさみになった小売電気事業者の苦悩は想像に難くない。

実際、新電力大手各社は東電PGを待たず、動き出した。5月16日にF-Power(東京・港)、同19日に最大手のエネット(東京・港)と丸紅新電力(東京・千代田)が、「東電PGの通知遅延によって電気料金の請求が遅れている」というお詫びを、ホームページに掲載した。

ある事業者幹部は、「大手電力の送配電部門は絶対的な存在。協議やクレームが通る相手ではない」と諦め顔だ。だが、適切な情報公開と責任の所在を明らかにすることは、電力システム改革を成功に導くための絶対条件であるはずだ。

(日経エネルギーNext 山根小雪、ジャーナリスト 栗原雅)

[日経エネルギーNext 2016年7月号の記事を再構成]

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