北極海で過去最大の海氷融解、メカニズム明らかに

北極海の海氷が急速に減り続けている。2016年5月に行われた観測では、過去の5月の海氷面積の最小記録を更新した。そしてこの事実が発表された2日後には、北極海での海氷融解がグリーンランドの氷床の融解に拍車をかけていることを示す研究結果が発表された。(参考記事:「海面上昇は予想を上回るペース、NASA」)
海氷面積の記録が発表されたのは6月7日。米国立雪氷データセンター(NSIDC)が人工衛星を使って観測したところ、今年5月の海氷面積は1200万平方キロメートルだった。これは、2004年5月に記録されたこれまでの最小値より約5%小さく、1981~2010年の平均海氷面積と比較すると10%以上減っていた。
「非常に気がかりです」と米ラトガース大学の気候科学者ジェニファー・フランシス氏は言う。「私たちは人類がこれまで経験したことのない、未知の領域にいるのです」
最小記録の更新は、今年に入って1月、2月、4月に続き、これで4度目だ。5月は氷が融解するペースも速く、北極海で1日に失われた海氷の面積は平均6万1000平方キロメートルで、1981~2010年の平均(1日あたり4万6600平方キロメートル)より約30%も多かった。
海氷融解が陸上の氷も解かす
北極海の海氷融解は、地球温暖化に長期的な影響を及ぼす。海氷は、太陽光を反射するという非常に大きな役割を果たしているからだ。いったん海氷が解けてしまうと、北極海の色が濃くなって熱の吸収が促進され、海水温がさらに上昇する。このようなフィードバック現象によって気候変動が加速することを「北極の温暖化増幅」と呼んでいる。
6月9日付けのオンライン科学誌『Nature Communications』に発表された論文によると、こうした北極の温暖化増幅が、グリーンランドの氷床を解かし、さらには海面上昇をも引き起こす可能性もあると論じている。
この論文を執筆した米コロンビア大学地球研究所のマルコ・テデスコ氏が率いる研究チームは、2015年の夏にグリーンランドで起きた氷床の記録的融解について、気象データを分析。その原因は、北半球を取り巻くジェット気流が異常に蛇行していたことにあることを示した。
気候変動が進むと、高緯度地方と低緯度地方の温度差が小さくなり、ジェット気流が弱くなると考えられている。ジェット気流が弱くなると、ふだんより大きく北に蛇行することが知られており、実際、2015年のジェット気流は、これまで観察された中で最も北寄りだった。
ジェット気流が大きく蛇行すると、高気圧や低気圧を長期にわたって同じ地域に停滞させる「ブロッキング」が起きる。北寄りに大きく蛇行したジェット気流によりグリーンランドの上空でブロッキングが生じると、そこに低緯度地方の暖かく湿った空気が入り込み、去年の夏のような高温と氷床の融解が起こるという。
北極温暖化のメカニズムを解く大事なピース
この研究自体は、北極の温暖化増幅と直接関係するものではないが、最近相次いで発表されている気候科学の論文がその関連性を示唆している。例えば、5月2日に発表された論文によると、1850年以降続いている地球温暖化によって、グリーンランド上空でブロッキングが発生する頻度が格段に増加しているという。同じく5月に発表された別の論文では、北極海の海氷融解がブロッキングを多発させており、それには北極の温暖化増幅が関与しているとしている。
ブロッキングと海氷融解に関するこの論文の共同執筆者であるフランシス氏は、「テデスコ氏の論文は、複雑なパズルに重要な1ピースを加えてくれました。このピースがはまり、ようやく全体像が見え始めてきたのです」
グリーンランドの氷床が解け続ければ、海面上昇のみならず世界の海流にも影響を及ぼすだろう。氷が解けてできた冷たい水がグリーンランドのすぐ南に集まると、低温で塩分濃度の高い北大西洋の海水が薄められ、海中深く沈降する速度が遅くなる。これにより地球全体の海に熱を伝える海洋循環のひとつ「大西洋子午面循環(AMOC)」も減速する。
2015年3月に気候変動に関する研究論文誌『Nature Climate Change』に発表された論文によると、気候変動が原因で20世紀に入ってからAMOCはずっと減速しているという。今年の5月に見られたような異常な海氷融解が続けば、将来の気候に深刻な影響を及ぼすことになるのは明らかだ。
(文 Michael Greshko、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2016年6月14日付]
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