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[FT]人工知能の業務ソフトが生産性革命を生む

Financial Times

地味な業務ソフトの世界が生産性革命の入り口に立ったのかもしれない。

起業家らは、「頭の悪い」ソフトに膨大なデータと人工知能(AI)を組み入れることで、販売や人事など企業の基本的な管理業務を完全に変えることができると信じている。

マイクロソフトが今週発表した260億ドルでのリンクトイン買収にも、その期待が一つの要因として絡んでいる。買収発表を受けてソフト業界では、画期的だがリスクも伴う出方の影響を見極めようとする動きが競合他社に広がった。

「データは通貨」

「データは業務ソフトと個人用ソフトの新しい通貨だ」と語るのは、企業の販売業務向けにビッグデータとAIの活用を提供する新興企業、インサイドセールスのデーブ・エルキントン最高経営責任者(CEO)だ。ビジネス向け交流サイト(SNS)のリンクトイン買収のカギとなったのは、同社が「世界のビジネスデータのなかで最も独占性の高い集合体の一つにアクセスを持っている」ことだという。

マイクロソフトのリンクトイン買収は「アルゴリズム」の会社の買収としては過去最大規模だと、米調査会社ガートナーのアナリスト、ブライアン・ブラウ氏は言う。

この事業分野は顧客に価値を生むビッグデータと高度な分析に依拠し、ヘルスケアなどの業界で重要性を増していると、ブラウ氏は指摘する。

マイクロソフトは4億人超のビジネスマンや求職者のプロフィルを獲得したことで、ソフト製品に新たな知識を積み重ねたい考えだ。働く人々のバックグラウンドやつながりに関する生のデータを掘り起こし、企業の業務を効率化する新しい方法を見つけ出すことを狙う。

マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは買収発表でこう述べた。「価値の創出という中核能力は、大規模な機械学習とAIの力から生まれる。次の技術革新の波の本質はそこにある。しかし、それができるためにはデータが必要で、プロフェッショナルなネットワークに関してはリンクトインがそれを代表している」

リンクトインのデータベースの価値の大部分は、「自動維持」の仕組みになっていることから生まれていると、ブラウ氏は言う。ユーザーが自分の情報を入力し、ユーザー自身のつながりが情報の正しさの検証に寄与する。

しかし、その価値には限界がある。リンクトインのメンバーは自選であり、特に米国と西欧以外では会員の属性に大きなばらつきがある。パソコンとサーバーソフトという中核事業の外に将来を見いだそうとするマイクロソフトは、オンライン版のビジネスソフト「オフィス365」などのクラウドベースのソフトと、業務ソフトのパッケージ「ダイナミクス」を戦略の中心に据えた。

だが、ダイナミクスは業務ソフト市場でトップに立てずにいる。このことが昨年、業界首位のセールスフォース・ドットコムの買収をマイクロソフトが検討する一要因となった。

セールスフォースに照準

そのマイクロソフトは今、自社のソフトに新たなレベルの知能を組み入れてセールスフォースを出し抜こうと考えている。その手始めは、業務ソフトのなかで最大級の市場規模を持ち、現状ではセールスフォースが支配している営業支援ソフトだ。

リンクトインのジェフ・ワイナーCEOは今週、営業支援ソフトに自社のデータをどのように生かせるかを説明する上で、データの大部分が固有のものであるという点を強調した。

マイクロソフトは、その他の業務ソフトにもデータを活用する計画だ。リンクトインのデータと自社のAIを使い、企業組織の機能の仕方について新しい知見を得ることを狙う。

マイクロソフトのアルゴリズムは、個々人の仕事内容やスケジュール、関心事項をつかみ、それと関連する情報をリンクトインのネットワーク上で見つけ出すことにも使えると、ナデラ氏は語っている。

しかし、マイクロソフトがそのデータを利用すると同時に、リンクトインのビジネス向けSNSとしての信頼性を維持し、会員が自分の個人情報を更新する状態を保っていくには、慎重な綱渡りが求められるとアナリストらは指摘する。

他社のデータアクセスを制限することにかけて、リンクトインは「最も守りが固い」会社の一つだと、インサイドセールスのエルキントン氏は話す。したがって、リンクトインのサービスをソフトに統合することができれば、マイクロソフトは他のソフト会社には得られない知見を得ることができる。

しかし、リンクトインが個人会員を引き付け続けるように一定のオープンさを維持する必要もあると、ブラウ氏はクギを刺す。

リンクトインの会員は、たとえマイクロソフトのような規模であれ一企業の製品に自分の情報がつなげられることよりも、オンラインで自分の情報が広く見られることを望むはずだと、ブラウ氏は言う。

リンクトイン買収が業務ソフト業界に及ぼす影響は、はっきりするまでに時間がかかる。だが、データとAIに新たな焦点を絞っているのがマイクロソフトだけでないことは、すでに明白だ。

例えば、セールスフォースは6年前の買収の結果として、営業活動に役立ちうる情報を提供する膨大なデータベース「データ・ドットコム」を持っている。また、自社のサービスを通じて蓄積された大量のビジネスデータの分析を深めるために、AI関連企業の買収も重ねている。直近の買収は高度なディープラーニング(深層学習)を手がける新興企業、メタマインドだ。

By Richard Waters

(2016年6月16日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

(c) The Financial Times Limited 2016. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

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