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CTOの役割「研究開発本部長とは違う」 コマツ会長

CTO30会議(1)

日経BPクリーンテック研究所

建設機械大手のコマツは、「KOMTRAX(コムトラックス)」で建機に新しい付加価値を加えた。そのおかげもあってコマツは、リーマンショック後も中国の公共投資を追い風としつつ、業績をいち早く回復させた。同社は2年ほど前にCTO(最高技術責任者)を設置し、KOMTRAXに続く新しいイノベーションを仕掛けている。日経BP社が主催する、次世代CTOが集い議論するフォーラム「CTO30会議」。ここで講演したコマツの野路國夫会長に、CTOを設置した背景やCTOの役割について聞いた。

――CTOを設置した背景を教えてください。

コマツの野路國夫会長(撮影:新関雅士)

野路これからの事業を展望する際、技術開発をどうするべきか総合的に考える人が必要だと思い、CTOを置きました。CTOは研究開発本部長と同じと考える人が多いかもしれませんが、この仕事は研究開発本部長が兼務できるものではありません。研究開発本部長は足元の業務が忙しく、それどころではないからです。社長の右腕として、しっかりと将来の技術を見ている人が、別に必要だったのです。

――技術開発に大きな変化があったということでしょうか。

野路 企業を取り巻く環境に大きな変化がありました。必要な技術の幅が広がったということです。建機に関わる技術だけでなく、それを遠隔制御するソフトウエア技術、通信でつなぐネットワーク技術、GPS(全地球測位システム)をはじめとする位置測位など、複数の分野にまたがっています。誰でも運転できる建機を開発しようとしたら、いろんな分野の技術が必要です。

従来は建機のハードウエアなどにまつわる基礎研究はすべて自社で行っていました。しかし、領域が増えたことで、とても1社でカバーしきれない状況になりました。そこで産学連携で広がった研究領域をカバーしようと思ったのです。

一方、大学の方はというと、学生に元気がないことにも気がつきました。博士号まで取る学生が減ってしまい、同時に海外へ留学する学生も減っていました。若い人にやる気を起こさせるような国にしないと日本は元気にならない。その点、欧米は大学に多額の資金を投入して研究開発をしています。だから博士(ドクター)を目指す人も多い。研究する環境が大学に整っているのですね。

そこでコマツは、自社に残す基礎研究を鋳造やギアなどに絞って、その他は大学と共同研究することにしました。そうすれば、研究の範囲が広がり、大学も元気になります。幸い、コマツはそれまでにも大阪大学との共同研究で成果を挙げていたので、社内でも大学と組むことに抵抗はありませんでした。

――大学と連携する上で、満たすべき条件はありますか。

野路 大きく二つあります。一つは、学際であることです。これからのビジネスには、いろいろなことを組み合わせて新しい価値を生み出すことが必要になります。建機だけを開発していても顧客に新しい価値を提供し続けられない時代です。

先ほど話しましたようにソフトウエアや通信技術までカバーする必要がありますし、病人が出たら辺境の工事現場から病院へ連絡ができるといった現場の環境改善まで考える必要があります。つまり、それぞれの分野の研究者が必要なのです。縦割りで一つの学部だけで閉じているような大学ではダメです。

もう一つは、海外から来た学生がいることです。国際色が豊かなほどいい。異なる文化を持つ人と知り合うことで、視野が広がります。研究者は、広い視野を持った幅のある人材に育てるべきです。コマツにも米国の大学に留学する社員がいますが、帰って来ると非常に成長しています。学問以外のことも学んで帰ってきてくれます。

自社で研究する技術、大学と共同研究する技術、あるいは他社と提携して得る技術など、技術を揃えることがCTOの役割の一つです。

――技術を揃える上でCTOに必要なことは何ですか。

野路 技術の目利きが最も必要です。新しい技術を見て、使える技術かどうかを判断する力です。そのためには技術に関する幅広い知識が必要になります。だからコマツでは、CTOに研究開発本部長を経験した人がなります。技術だけを研究してきたのでは不十分で、開発を手掛けた経験が必要になります。技術は製品やサービスに応用されて、初めて意味があります。しかし、開発経験がないとその技術が製品やサービスにとって必要かどうか分かりません。

――CTO室も設置しましたが、その役割は何ですか。

「トップが徹底的に議論をすることが重要」と話す野路会長(撮影:新関雅士)

野路CTOに求められているのは新技術の発掘と、その新技術を使ってビジョンを描くことです。ただ、新技術の発掘には人手がかかります。世界中を歩いて技術を探してこなければなりません。そのためのスタッフとして、CTO室を設けました。CTO室は、他にも人や金などの資源の配分や将来を考えて組むべき大学・研究所を選定することも役割です。

――2016年に「CIO」を設置されたそうですが、その目的は何ですか。

野路 CIOの「I」は、インフォメーションという以外にイノベーションの意味もあります。イノベーションは、顧客の価値を最大化することです。

CTOは、将来に向けてビジョンを描きますが、どうしても技術寄りになってしまって顧客の視点が欠けてしまいがちです。そこでCIOが顧客の価値を最大にするためにはどうあるべきか、という視点を加えます。CTOとCIOが協力して、将来のコマツの商品、サービスを描き、そこへ到達するまでのシナリオを作成します。

――描いたシナリオを社内にどう浸透させますか。

野路 社内を納得させるには、実績を上げるしかありません。成功して、実績を作ることで初めて社員はついてきてくれます。形ばかりの組織を作っても社員は動いてはくれません。例えば、コマツは「スマートコンストラクション」という新しい付加価値をサービス化しましたが、それを支える技術はCTOが見つけてきました。こういうことの積み重ねが、CTOに対する信頼につながります。

――新しい価値を作ろうとすると、社内に反対する声が上がることはないでしょうか。例えば、スマートコンストラクションを実現したら顧客の効率が上がって、かえって建機が売れなくなるとか。そうした社内の抵抗勢力を説得するには、どうすればよいでしょうか。

野路 企業のトップが徹底的に議論することです。目先のことばかり考えずに将来のことを考えて判断しなければなりません。もし黙って既存の事業だけを続けていたら、いずれは新興勢力がやってきて、根底からビジネスをひっくり返してしまうかもしれない。いい例が「ガラケー(フィーチャーフォン)」です。ガラケーにこだわっていた日本企業は、ある日突然、そのほとんどをスマートフォン(スマホ)に置き換えられてしまいました。カーナビもそうです。

誰かほかの人が新しいことをやってしまうのであれば、自分でやったほうがいい。そうした自分たちの事業の将来のことをトコトン突き詰めて議論していないから抵抗勢力を説得できないのです。黙っていたら事業をすべて取られてしまうという危機意識を、トップは持っていることが重要です。

そこまで考えてから、減ってしまう建機のビジネスをどう補うか、議論すればいい。1台当たりの付加価値を上げるのか、システム全体で販売することで売り上げを増やすのか、そこでも議論を重ねる必要があります。

――やはり、トップが重要ということですね。

野路 トップ、特に社長が聞く耳を持つことが大事です。下からの提案に対して「それでいくらもうかる?」と聞き返す社長が多いですが、これは駄目です。社長が考えて、技術のことまで勉強して、将来のためにやっておくべきことか判断できないといけません。

(日経BPクリーンテック研究所 菊池珠夫)

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