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現行耐震基準の盲点、配慮不足や施工ミスが倒壊招く

熊本大地震の教訓(5)

日経アーキテクチュア

「2000年基準」に沿って建てられた住宅でも、最大17棟が全壊・倒壊――。日本建築学会が2016年5月14日に開催した、熊本地震の被害調査速報会で特に注目を集めたのは、現行の木造住宅の仕様規定に対応した住宅にも大きな被害がおよんだ事実である。

現行の木造住宅の仕様規定、いわゆる2000年基準に沿って建設したとみられる400 ~500棟の住宅のうち、生存空間がなくなるほどつぶれた(以下「倒壊」)ものが4 ~9棟、建物が大きく傾いて構造体に大きな被害が生じているもの(以下「全壊」)が6~8棟、合わせて最大17棟が全壊・倒壊していることが分かった。

そう報告したのは、京都大学生存圏研究所の五十田博教授だ。五十田教授は「建築基準法は人の命を守ることを前提としている。現行の基準で倒壊した住宅が出たことは重く受け止める必要がある」と話す。

熊本地震の発生を受けて日本建築学会九州支部は「熊本地震災害調査委員会」(委員長:高山峯夫・福岡大学教授)を立ち上げ、災害調査を行ってきた(図1)。

構造種別ごとに被害を調査。被害の大きかった熊本県益城(ましき)町では木造住宅も含め、悉皆(しっかい)調査を実施した。木造の被害調査を担当した五十田教授ら木質構造災害ワーキンググループは、益城町の役場周辺などで木造住宅について被害調査を行った。

外観調査で被災のレベルをチェックしたうえで柱や壁、基礎などの状態を確認。築年数の聞き取り調査や図面収集も可能な限り行った。

現行基準の"落とし穴"

2000年基準で建てられたにもかかわらず、損傷が激しかった住宅には、何らかの設計の配慮不足や施工のミスが見られたという。

設計では壁の位置や量に配慮が足りていなかった。例えば、1階と2階で耐力壁の位置がそろっていなかったり、1階の壁量が2階に比べて少なかったりするプランが数棟見られた(図2)。

ほかにも、2階に大きなベランダがついているものや外壁に重い仕上げ材を使っているものなど、建物全体の固定荷重が大きい住宅の被害が大きかった(図3)。

建基法施行令では1階の壁量バランスについては規定があるが、上下階で壁の位置をそろえるなど垂直方向の壁配置については規定がない。このため、建基法違反とは言い切れない。

五十田教授はこのほか、筋かいの使い方にも配慮不足があったとみている。その例が「2P筋かい」だ(図4)。

断面寸法が45×90で長さ(間柱寸法)が2スパン(1820mm)の筋かいの破断が目立った。2スパンの筋かいは1スパン(910mm)の筋かいを2つ隣り合わせで配置したときと同じ壁倍率の2が与えられているが、実際の強度は1.6倍程度にしかなっていない可能性がある、と五十田教授は指摘する。

施工ミスが疑われた例もあった。金物の施工の不備だ。2000年基準では筋かいと柱を緊結する金物と、それに対応する釘が決まっている。しかし今回、全壊した住宅の中には釘が規定より10mm以上短いものが見られた。

筋かい端部の金物がない住宅、金物を間柱に付けている住宅、ホールダウン金物が少ないと思われる住宅なども見つかった。

五十田教授は「1つひとつの配慮不足は耐震性能上さほど大きな問題になるとは言えないかもしれない。しかし、今回の地震は比較的大きかったので、壁量を現行基準ぎりぎりで設計した住宅では、それらの影響も無視できなかったのではないだろうか。まずは、構造計画の基本を押さえた正しい設計、施工のあり方を徹底すべきだ」と話す。

旧耐震基準にも甚大な被害

1981年から2000年までに建てられた新耐震基準の住宅でも、設計上の配慮不足で典型例が見られた。

例えば、筋かいの配置バランスが悪いパターンだ。筋かいの斜材の向きは左右で数がそろっていたほうがよいが、建基法には規定がない。

調査では、1981年以前の旧耐震基準で建てられた木造住宅の耐震補強が進んでいない実態も浮かび上がった。益城町は古い木造住宅が多い。重い瓦屋根に比べて壁の量が圧倒的に少ないとみられる住宅が多く倒壊していた。

旧耐震基準で建てられた住宅のなかには、接合部に金物が使われず、柱と基礎梁がほぞで接合されただけの住宅で、柱が抜けて1階が倒壊していたものも多くあった(図5、図6)。

腐朽や蟻害によって耐震性能が低下した例も多い。仕上げをリフォームした形跡はあっても、必要な耐震補強が施されていないままの住宅が多く被災していた(図7)。

「旧耐震基準の住宅の被害が甚大なのは言うまでもない。今回の被害を見ると、耐震に対する意識が十分に浸透していない地域だったように見受けられる。過去の地震が少なかったからといって『地震は来ないから大丈夫』と考えるのは非常に危険だ」(五十田教授)

一方、益城町で被害の大きい地区のなかでも、壁量を現行基準の約2倍にしている住宅は、軽微な被害で済んでいたという。五十田教授らは今後、2000年以前と以降の住宅で被害が少なかった住宅のプランなどを調べ、倒壊の原因をより詳しく調べていく方針だ。

(日経アーキテクチュア 橋本かをり)

[ムック『検証 熊本大地震』の記事を再構成]

[参考]日経BP社は2016年6月14日、ムック「検証 熊本大地震」を発行した。熊本地震の「本震」を現地で体験した3人の記者のリポートを軸に、日経グループの専門3誌のネットワークで地震や建築の専門家を取材。阪神・淡路大震災や東日本大震災など、過去の大地震との比較を交えつつ、前例のない「波状的地震」が突き付けた都市と建築の課題を明らかにした。電子書籍も発行

検証 熊本大地震

著者:日経アーキテクチュア、日経ホームビルダー、日経コンストラクション
出版 :日経BP社
価格 : 2,808円 (税込み)

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