最強世代 動かす司令塔 女子バスケット・吉田亜沙美

2016/6/4 3:30
保存
共有
印刷
その他

絶妙のアシストを決めて笑みをこぼす。相手の堅守でパスを出せなくてもやはり笑顔。「代表でやっているとき、本当に楽しそうだねとよくいわれる」。リオデジャネイロで3大会ぶりに五輪の舞台に立つバスケットボール女子日本代表。その司令塔、吉田亜沙美(JX-ENEOS)は試合中、実に表情豊かだ。

オーストラリア戦でシュートを決める吉田=共同

オーストラリア戦でシュートを決める吉田=共同

「各チームのベストメンバーにパスを出せるのが楽しい。誰に出そうかってうれしい悩み」。逸材が一世代に固まった現代表は史上最強といわれる。米女子プロリーグWNBAに挑戦中の渡嘉敷来夢(同)ら20代半ばのスコアラーを差配する28歳の吉田にとっても至福の時間となる。

最強世代でも世界の中で小兵なのは過去と同じ。目指すは走り勝つバスケット。23歳の町田瑠唯(富士通)ら同じポイントガードの後輩は絶え間ないジグザグ走行で守備を乱す。比べると吉田は停止時間が長い。ただスピードが違う。急所へ送るパスの球速。相手ボールのスチールやドリブルの出足の速度。他のガード陣が絶え間なく動き回る猟犬なら、吉田は瞬発力で勝負するネコ科の動物だ。

その違いは吉田の能力の高さとまだ癒えぬ傷痕を示す。2014年、左膝前十字靱帯を断裂。10カ月の休養を経て復帰したが「スタミナはまだ50~70%」。五輪までに全快しないかもしれない。

ただ、長いリハビリはその心も変えた。父と姉も実業団でプレーしたバスケ一家。18歳で社会人入りした後の10年間、Wリーグの優勝を逃したのは1度だけ。エリート街道をふいに踏み外し「試合に出られない選手の気持ちが初めてわかった。みんなこういう気持ちで戦っていたんだなって」。

昨年、初めて代表の主将に就任。生来の人見知りが今では誰より声を出し、味方の得点に真っ先に喜ぶ。

リーダーの自負は時に、パスを出す司令塔の喜びさえ忘れさせる。昨年の五輪予選、ライバル中国との対戦だった。1点を追う日本に残された時間は8秒。ドリブルで仕掛ける吉田。シュートフェイント2発で2人を外し、右手1本でシュート。リオへの道を開く逆転弾となった。

ボールを持ったときからパスの選択肢は頭になかった。「誰かがシュートを外して後悔するくらいなら、全ての責任を自分で背負おうと覚悟を決めていた」

直前、ベンチからサインプレーの指示が出ていたことは後で知った。確かに耳に入ったはずなのに、記憶には残っていなかった。「バスケットをやってきて初めての経験」と笑う。日本のバスケ史上初の五輪メダルに臨む8月。コートの上で全ての音が消える瞬間はまた来るか。

(谷口誠)

 よしだ・あさみ 1987年10月9日、東京都出身。東京成徳大高卒。2005年に日本代表デビュー。13年アジア選手権で43年ぶりの優勝に貢献、自身もベスト5に選ばれた。五輪予選を兼ねた昨年のアジア選手権は主将として連覇。ポジションはポイントガード。165センチ、61キロ。

日経電子版が最長2月末まで無料!
初割は1/24締切!無料期間中の解約OK!

保存
共有
印刷
その他

関連企業・業界 日経会社情報DIGITAL

電子版トップ



[PR]