2018年11月18日(日)

元経産官僚が一石を投じる「第3のクルマ」

2016/6/1 17:52
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電気自動車(EV)メーカー、rimOnO(リモノ、東京・中央)は1日、開発を進める超小型車両「rimOnO」の試験走行を経済産業省の敷地内で実施した。新型車は大人2人がやっと乗れるサイズ。鮮やかな青色が目を引き、どこか愛嬌(あいきょう)がある。集まった経産省の職員らも物珍しげに試験走行を眺めていた。ほのぼのとしたムードとは対照的に、伊藤慎介社長の闘争心にエンジンがかかった。それもそのはず。伊藤社長は2年前まで経産官僚。15年間勤めた古巣でのパフォーマンスは、技術革新でくすぶる日本の官民に対する挑戦状でもある。

「こんなことやる役人いないでしょ」。車体と同じ色のTシャツを着た伊藤社長は、満面の笑みでハンドルを握った。車体は長さが2.2メートル、幅1.0メートルとほぼ畳1枚分。約300キログラムと軽い。一般的なクルマの3割ほど。速度は45キロメートルまで出る。ボディーは防水機能がある布生地とクッションで覆われている。ソファのような感触、着せ替えも可能だ。「会議室の机上の議論ではなくアイデアをかたちにし、政策提言するのが今の私の仕事」と、伊藤社長は力を込めた。

経産省の職員らも代わる代わる後部座席に試乗した。元同僚でクリエイティブ産業課の小林佳菜総括係長は「伊藤さんが役所を飛び出してまでつくったクルマ、そんな彼の背中を追いかけたい」と話した。

14年7月。伊藤社長は経産省を驚くほどあっさり辞めた。現在はビジネスパートナーの根津孝太取締役との通話サービス「スカイプ」でのやり取りがきっかけだった。根津取締役はデザイン会社znug design(ツナグデザイン)の代表で、斬新なデザインの電動バイク「zecOO(ゼクウ)」(888万円、税別)の開発者だ。

「バイクもいいけど、かわいいクルマでもやらない?」。「やってもいいけど、やるなら本気でやらなきゃ」――。2人の間でこんなやり取りがあったという。

根津取締役は2005年まで元トヨタ自動車のデザイナーだった。大きな組織に縛られず、尖ったものづくりに挑んできた「先輩」でもある。経産省のワーキンググループを通じて接点があり、政策づくりで意見を交わしてきた。「最初は面倒だなと感じたが、話を聞いているうちに動かされた」(根津取締役)と伊藤社長の熱意にほだされ、二人三脚のクルマづくりをスタートさせた。

伊藤社長のベンチャー精神をかきたてる発火点は何か。経産省時代にはスマートハウス、民間航空機などの大型プロジェクトを旗振りをしてきた。一方、米国に目を向けるとユニコーン企業(非上場で企業価値10億ドル超のベンチャー)が次々と生まれ、アジアでは家電業界を中心に新興勢力が猛烈に勢いづく。そんな状況を肌で感じながら、「国の力を使ってだけではイノベーションを起こせない」と限界を感じていった。

米EVメーカー、テスラ・モーターズのようなメガベンチャーを生み出す。自動車にこだわるわけでないが、こんな着想が起業の根底にある。「日本では自動車業界は揺るがないとされるが、幻想にすぎない。電機業界では事実、海外勢にあっという間に抜かれた」(伊藤社長)

もっとも、2年足らずの開発プロセスで、改めて身に染みたのは日本のものづくりの強さ。「個人デザイナーであっても、中小企業と組めばクルマができてしまうのは衝撃」(伊藤社長)。いわゆる下請け的な存在の企業の協力を得ながら試作車をかたちづくった。

外部の企業の資産をうまく引き出す「オープンイノベーション」も実現した。三井化学、帝人フロンティア、ローランドなどの大手メーカが型破りのプロジェクトに引かれて参加した。「大企業が苦手なオープンイノベーション。我々が本気だからこそ、垣根を越えて協力者が集まる」(根津取締役)。rimOnOは設計、デザインに専念し、製造、販売、保守を外部委託する。カーシェアサービス、営業車などの利用も想定する。アパレルメーカーと組んだ外装、地域限定モデルなどアイデアを広げる考え。市販モデル40万円前後の価格をめざす。

車両の完成度は高いが、実は公道を簡単に走れるわけでない。国内での自動車の規格といえば、乗用車と軽自動車。超小型モビリティーと呼ばれるこうした車両は第3のクルマになるが、扱いがあいまいで、日本では限られたエリアしか走れない。例えば、セグウェイが日本で気軽に乗れないのもこうした理由がある。13年4月~16年3月に国土交通省が実証実験に取り組んだが、しっかりした制度設計は中途半端なままだ。

欧州では原付バイクの免許でこうした車両に14歳から乗れる。「過疎地での高齢者の足、通勤、通学などにお手軽につかってほしい」(伊藤社長)。rimOnOをきっかけにして、国内でも同じようなルールの整備を狙う。

ドローン、配車アプリ、空き部屋仲介……。新しい技術やサービスが次々と生まれるなか、規制やルールのあり方が問われている。遅ればせながら始まった議論では、既存の事業者らが反発する例も多い。湧き起こるイノベーションに、行政が主導する制度づくりが追いついてないという声も技術者から聞こえる。

1日、たまたま経産省を訪れた国内自動車メーカーの元トップが、駐車スペースに置いてあったrimOnOを見つけて試乗した。「面白いプロジェクトだよね。知ってたよ」。伊藤社長にとっては最大のエール。役所を飛び出して2年。かわいいクルマが投げかけるぎらぎらしたメッセージは確実に伝わりつつある。(映像報道部 森園泰寛)

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