「4回転」火付け役 フィギュア・P・チャン(上)

2016/6/4 6:30
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「まるでスラムダンク・コンテスト(バスケットボールでダンクシュートの技を競うイベント)じゃないか!」

2015~16年シーズンも後半戦に入っていた1月、14年ソチ五輪フィギュアスケート男子銀メダルのパトリック・チャン(カナダ)は、4回転ジャンプばかりが注目される現状について、思わずこぼした。

銀メダルに終わったソチ五輪の1カ月後には現役を続ける気持ちになっていた

銀メダルに終わったソチ五輪の1カ月後には現役を続ける気持ちになっていた

「平昌五輪へ、課題見つける」

1試合で4回転ジャンプを3、4回跳ぶのは当たり前、3種類も跳ぶ選手がいる。ソチ五輪後、1シーズン休養しただけでこんなに変貌するとは……。10年バンクーバー五輪後、「男子が4回転を1試合で複数跳ぶのは当然」にした張本人のチャンでさえ音を上げた。

復帰当初、「けっこう自分に期待していた」という。しかし、グランプリ(GP)シリーズの初戦、地元カナダ大会は優勝したものの、次戦は5位、GPファイナルは4位に終わった。ショートプログラム(SP)とフリーがノーミスでそろうことがない。「だんだん現実的になってきた。大きな視野で、18年平昌五輪を見据え、課題を見つけることが目標になった」

それで気持ちが落ち着いたのか、2月、四大陸選手権のフリーで「ジャンプも表現もスピンもすべてのバランスがとれた演技」ができた。1試合で4回転を6回跳ぶSP1位の金博洋(中国)との12点差を逆転優勝。「これがフィギュアスケート」と専門家をうならせた。ただ、それが続かない。4月の世界選手権はシニアデビューした08年大会以来のメダルなし(5位)に終わった。

「こういうこともあるとは思っていた。選手の礼儀として、メディアの前では冷静に笑顔で話したけれど、すごいショックだった。残念だけれど、芸術性よりテクニカルに集中しないといけないということ」。現行の採点基準では、世界一美しいといわれるスケーティングと表現力で補いきれないほどジャンプが弱いのだ、という事実は認めざるを得なかった。

ソチでなし得なかった演技目指す

ソチ五輪を集大成に引退するつもりだった。バンクーバー五輪の翌シーズンから世界選手権を3連覇、誰もがソチの「大本命」と思っていた。ソチではSPトップの羽生結弦がフリーでミスを連発した。チャンは最高でなくても、まあまあの演技をするだけで金メダルを獲得できていた。まさか3つもジャンプでミスするとは。

カナダの呪い――。ブライアン・オーサー、エルビス・ストイコ、数々の本命視されたカナダ男子が五輪の金メダルを逃してきた。これに"大"がつく本命のチャンも続くとは、カナダ人にもショックだった。

今もソチのことになると口は重いが、ソチの1カ月後には現役を続ける気になっていた。「表現から技術までスケートの要素すべてがパッケージとして完成された演技こそ、フィギュアスケート。そういう演技が人の心を動かすんだ」。金メダルをとるためでなく、それを五輪で証明するため、チャンは戻ってきた。

(敬称略)

〔日本経済新聞夕刊5月30日掲載〕

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