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「2000年基準」も3~4割大被害、筋かい破断など多発

検証・熊本地震住宅倒壊(中)

日経ホームビルダー

「2000年基準」になってから完成した木造住宅が、これほど大きな被害を受けた様子は、過去の大地震で見たことがない──。

被災地に入った複数の研究者や実務者から、こうした声を聞いた。2000年基準とは、接合部の接合方法や耐力壁のバランスなどの規定が厳格化された告示が加わった2000年以降の新耐震基準のことだ。工学院大学名誉教授の宮澤健二氏らが益城町の宮園、辻の城、惣領の各地区で計205棟を調査した結果では、2000年基準の住宅が1割あり、そのうちの3~4割が倒壊・大破していた。

2000年以降に完成した木造住宅の被害で最も衝撃的なのは、性能表示制度の「耐震等級2」で設計していた住宅Aだ。本震で1層崩壊した。

耐震等級2で設計した住宅Aと2000年基準の住宅Bにおける被害の様子。Aは南西側に倒れ1層崩壊した。Bは西側に傾いて隣家との間にある塀にぶつかっており、崩壊は免れた(写真:宮澤健二)
Aの駆体の北東側の被害。柱が引き抜け、南西側にずれている(写真:耐震研究会)
北東の出隅から60cm離れた箇所の通し柱の被害。ホールダウン金物のアンカーボルトが基礎に固定された状態で、柱が引き抜けている。ホールダウン金物は折れ曲がっている(写真:宮澤健二)

耐震等級2は、2000年基準の1.25倍の強さに相当する。ただ、Aは熊本における地域係数0.9をみて1.12倍としていた。

Aの躯体(くたい)の北東側部分では、土台や桁から引き抜けた柱が多数見つかった。南西側に倒れる際に引き抜けたと考えられる。

盛り土の造成地に建つAには見逃せない点がもう一つある。地盤調査で地盤補強が必要と判定されたため、長さ約5.5mの鋼管杭を地盤に施工していたのだ。Aの隣のBも盛り土に建つが、地盤改良はしていない。

盛り土した宅地に建つ住宅AとBを北側から見る。A(中央)の被害が著しい。Aの左側に建つ2008年に完成した軽量鉄骨造の住宅は、目視で被害を確認できなかった(写真:宮澤健二)

Aを手掛けた住宅会社は、耐震等級2の住宅を益城町内の別の場所でも建てており、その住宅には被害がないという。住宅会社3社にもヒアリングしたが、住宅A以外に耐震等級2以上の住宅の被害は確認できなかった。

Aの被害については、京都大学生存圏研究所教授の五十田博氏や建築研究所の研究者などが原因究明に取り組んでいる。五十田氏は、「杭で補強した地盤に建つ剛性を高めた住宅に今回の地震動を入力すると、どのような応答が見られるのかを詳しく調べたい」と話している。

筋かいの粘りのなさが露呈

益城町で見られた2000年基準の住宅の被害で顕著だったのは、「筋かい(柱と柱の間に斜めに入れる部材)」の破壊だ。例えば、2007年完成の住宅Bは筋かいの損傷などにより全体が西側に大きく傾いている。

Bの室内側の片筋かいが、中間で折れている様子(写真:宮澤健二)
筋かい端部の被害の様子。金物と筋かいを留めているクギが抜けて、筋かいが引き抜けている(写真:宮澤健二)

Bを調査した耐震研究会(東京都世田谷区)によると、南側の長手方向の4カ所の筋かいが、中間で破壊していたり、壊れて端部金物から抜け出したりしていた。「接合部が粘るより先に、筋かい材が破壊するのは危ない壊れ方だ。筋かい材の品質確保と柱頭柱脚の引き抜きの設計方法を含め、靭性(じんせい)確保の方法の検討が必要だ」と宮澤さんは話す。

実は、粘り強さを示す終局耐力を盛り込んだ2000年からの耐力壁の評価方法で筋かいを評価すると、告示の壁倍率を下回ることがある。東京都市大学教授の大橋好光氏は「筋かいはサイディングや石こうボードに挟まれる形で使用すれば、押さえ効果で多少の耐力増が期待できることなどから、告示の見直しは行われなかった。地震で面材が破損して押さえ効果がなくなったために破壊しやすくなった恐れがある」と指摘する。

2000年基準の住宅に被害が生じたことに関連して、識者が注目している問題は以下の2点だ。

一つは、基準ぎりぎりで設計している住宅の問題だ。

過去の震動実験では、基準ぎりぎりの耐震性能を満たす住宅は、基準の想定を上回る、阪神・淡路大震災で観測されたJMA神戸波で倒壊する場合のあることが確認されている。今回のような基準の想定を上回る地震動ならば、倒壊するリスクが高いことを認識する必要がある。

2001年に完成した住宅Cは、柱頭柱脚金物で接合していた柱が引き抜けて崩壊した。25 kN(ニュートン)のホールダウン金物のアンカーボルトが切れていた。

1層崩壊して1階の柱などが引き抜けたり折れたりしている住宅Cの外観。ALC板を外装材に張っている(写真:日経ホームビルダー)
アンカーボルトが破断した25kNのホールダウン金物の様子。この柱は折れずに引き抜けた。この住宅は盛り土した宅地に建っている(写真:宮澤健二)

これほど大きな引き抜き力が生じた原因として大橋氏が推測するのは、外装材に重いALC版を使うことを考慮しないで壁量計算していたのではないかということだ。壁量計算では外装材の種類を問わないので、基準ぎりぎりの耐震性能しかなかった可能性がある。

住宅AやBで、引っ掛け金物で取り付けていたサイディングが落下していることにも着目したい。サイディングが落下したことで、地震時に面材としての余力や筋かいの押さえ効果がなくなり、基準ぎりぎりの耐震性能になっていた可能性がある。

「連続する地震動に対処するなら、建築基準法施行令の必要壁量を2000年基準の1.2~1.5倍にする必要がある。しかし、同基準の住宅の倒壊はほとんど本震だけによるものだったので、必要壁量の改定よりも、まずは設計図書をしっかり描くことが大切だ。同施行令46条は地盤が軟弱な区域に建てる場合は、必要壁量を1.5倍にすることを定めているので、それを実効性のある制度に改正すべきだ」。宮澤さんはこう指摘している。

さらに、五十田氏は「2000年基準ぎりぎりの耐震性能で設計するのではなく、余裕を持たせることが重要だ」と話す。

もう一つは、告示やN値計算に適合しない不適切な金物選定や耐力壁の施工が散見された問題だ。

2007年に完成した住宅Dは、切り欠きのあるたすき掛け筋かいが、変形していた。2006年に完成した住宅Eは、柱が金物ごと多数引き抜けて倒壊した。基礎は健全な状態のままなので、引き抜き力が基礎に伝達していなかったと考えられる。Eを調べたエムズ構造設計(新潟市)社長の佐藤実さんは、「N値計算をすると15 kNの引き抜き力が掛かる場所に10 kNの座付きボルトが付いていた」と話す。

大きな残留変形が生じていた住宅D。上は、Dの和室に施工されていた、たすき掛けの筋かいが破損した状況。片側を切り欠いて施工していたので、耐力は切り欠いていない方の片筋かい分しか見込めない。Dでは図面と異なると思われる接合金物が施工されている箇所も見つかった(写真:宮澤健二)
2006年に完成して、今回の地震で1層崩壊した住宅Eの柱脚まわり。土台から10kNの座付きボルトが引き抜けている。エムズ構造設計がN値計算すると、15kNの引き抜き力が掛かる場所に設置されていた。右はEの基礎。健全な状態なので、引き抜き力が基礎に伝わっていない恐れがある(写真:エムズ構造設計)

接合部の強化も課題

1981年以降で2000年基準導入前に完成した新耐震基準の住宅被害について、宮澤さんらが行った調査では、約100棟のうちの6~7割が倒壊・大破だった。

(資料:日経ホームビルダー)

その時期の新耐震基準には接合部と壁の配置バランスに関する具体的な規定がなく、対応は設計者や施工者によって異なる。1層崩壊した住宅FとGの隅柱の柱脚は、ホールダウン金物を確認できなかった。住宅Hは地震前を見ると、道路側の壁が少なかった。

住宅Fは、1階の柱が引き抜けて1層崩壊している。出隅の柱は、金物を使わず柱勝ちで取り付けていた。土台の左側だけに角金物を付けていた跡が残っていた (写真:日経ホームビルダー)
前震で1層崩壊した在来軸組工法のアパート。長手方向に約3.6m移動し、傾いている。隅柱は土台から引き抜けている。ホールダウン金物は確認できなかった(写真:日経ホームビルダー)
在来軸組工法の住宅Hは、1階が崩壊している。前震前には、道路側の1階に掃き出し窓とサンルームが設置されていた。道路側の耐力壁が少ないことで大きな変形を招き、倒壊につながった可能性がある。山形プレートなどは取り付けられていたが、隅柱にホールダウン金物は確認できなかった(写真:日経ホームビルダー)

以前、日本木造住宅耐震補強事業者協同組合が2000年基準導入前の新耐震基準の住宅約1万棟の接合部ついて調べたところ、65%の住宅がクギ留め程度だった。1996~2000年に完成した住宅に絞っても、山形プレートなどを使用していたのは50%強にとどまる。

新耐震基準の住宅でも接合部の耐震補強などが必要な建物があり、その対策が急がれる。

(日経ホームビルダー熊本地震取材班)

[日経ホームビルダー2016年6月号の記事を再構成]

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