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新耐震基準も倒壊多数 「2回の震度7」想定外の破壊力

検証・熊本地震住宅倒壊(上)

日経ホームビルダー

2回の大きな地震動が深刻な被害をもたらした「2016年熊本地震」。住宅の被害棟数は2016年5月10日時点で7万棟超にもなる。過去の大地震と比べて特徴的なのは、「新耐震基準」導入以降に建てられた比較的新しい住宅の被害が目立つこと。また、川沿いや盛り土の造成地では地盤の変状によって多数の住宅が倒壊・大破した。現地取材や識者の分析結果などから、既存住宅の耐震性能の課題をあぶり出す。

熊本市の東側に隣接する益城町では、震度7の地震動を2回観測した。前震で一部の地域に大きな被害をもたらしたが、さらに深刻な事態にしたのは、その二十数時間後に襲った本震だ。

「前震では特に問題なかったが、本震で一気に倒壊してしまった」「前震の被害は修理で何とかなりそうな程度だったが、本震後に我が家に戻ってみてもう駄目だと思った」「前震後と本震後で、町の様子ががらりと変わった」――。

同町の住民から、このような話を聞いた。前震に耐えた住宅に戻ったところを本震に襲われ、1階が潰れて死亡した住人もいる。新耐震基準の導入以降に建てられた住宅の倒壊や大破も目立った。

新耐震基準は1981年6月に導入された耐震性能の基準で、建物を設計する際に「震度5強程度の中規模の地震動でほとんど損傷しない」「震度6強から7程度の大規模の地震動で倒壊・崩壊しない」というレベルの性能を検証するよう求めている。

倒壊した住宅が隣家襲う

上の航空写真は、前震後の4月15日に、町役場がある宮園地区の一角を見下ろしたときの様子だ。一部に屋根材のはがれなどが見られるものの、A~Eの5棟については、倒壊や大破といった被害は確認できない。

ところが、これらの5棟はいずれも本震で大きな被害を受けた。1階の壁が西側に傾いて2階の一部が隣家の敷地に倒れ込んだり、地震動の影響で基礎が建物ごと1mほど西側に移動したり、といった被害を確認した。住民によれば、この5棟は20年ほど前、すなわち新耐震基準導入以降に建てられたものだ。

上階に下階が潰される壊れ方は、被災地の木造住宅で目立った壊れ方の一つだ。現地を調査した京都大学大学院教授の林康裕氏は、「活断層による内陸直下型地震の特徴である、継続時間が短く振幅が大きい揺れを受けたときに多い壊れ方だ。阪神大震災や新潟県中越地震でも顕著だった。このタイプの強い揺れは、日本のどこでも発生する可能性がある」と話す。

上の航空写真は、前震後の4月15日に同町馬水地区の一角を見下ろしたときの様子だ。写真下方の住宅I、J、Kはこの時点で倒壊しているが、上方の住宅F、G、Hには特に被害は確認できない。

下の写真2点は、上の写真の住宅GとHについて、本震後の様子を見たものだ。2015年竣工の住宅Gは本震にも持ちこたえたが、隣地に立つ住宅Hが倒壊した影響で外壁の一部が損傷した。

筋かいは粘りが小さい

現地で記者が見た住宅の中には、耐力壁を「筋かい(柱と柱の間に斜めに入れる部材)」だけで構成しているものが多かった。このことに関連して、東京都市大学教授の大橋好光氏は、次のように説明する。

「筋かいは、座屈や端部金物の引っ張りで壊れるが、合板などと比べると粘りが小さい。筋かいが緩んで周期が伸びたところに2回目の大きな地震動を受け、もろさもあって耐えられなかったようだ。合板を組み合わせるなどして粘り強さのある耐力壁が使われていたなら、違った結果になった可能性もある」

大橋氏はまた、労働安全衛生総合研究所の高梨成次氏らと、繰り返し発生する地震の大きさと木造住宅の被害の関係について研究しており、成果をまとめつつある。

同研究では、「本震の5割以下の余震は、建物への影響は比較的小さい」「本震の7割以上の余震は、建物の傾きを増幅させてしまう」――などの知見を得ている。益城町を襲った地震動は後者の条件のより厳しいものといえ、2回目の震度7によって多くの住宅で倒壊などの被害を招いた。

京都大学生存圏研究所教授の五十田博氏は、木造住宅のモデルを用いて前震と本震による変位をシミュレーションした。その結果、前震と本震を入力した場合の最大変位は、本震だけを入力した場合の2倍超という結果になった。2回続けてこのような大きな地震動を受ける場合、現行の耐震基準を何とかクリアできる程度の耐震性能では大きな被害が発生する可能性を示している。

(日経ホームビルダー熊本地震取材班)

[日経ホームビルダー2016年6月号の記事を再構成]

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