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創立7年で独1部昇格 RBライプチヒの野心

スポーツライター 木崎伸也

ドイツでは大企業やパトロンの資金によって急激に強くなったクラブを「プラスチッククラブ」と呼んでいる。プラスチックのように人工的に作られた、という意味だ。

サッカーのドイツ1部リーグには今、それが3つ存在する。バイエル社をスポンサーに持つバイエル・レバークーゼン、フォルクスワーゲンの全額出資子会社のVfLウォルフスブルク、SAPの創業者ディトマール・ホップ氏の資金援助を受けるTSGホッフェンハイムだ。豊富な資金でスターをかき集め、他クラブのサポーターからしたらおもしろくなく、それゆえに皮肉をこめて「プラスチッククラブ」と揶揄(やゆ)されている。

そして来季、新たなクラブがそこへ仲間入りを果たそうとしている。飲料メーカー、レッドブルが創設した新興クラブ、RBライプチヒだ。今季2部で2位になり、クラブ初の1部昇格を達成。人口約54万人の旧東ドイツの古都に、バイエルンやドルトムントがやってくることになった。

商品名連想させる絶妙のネーミング

RBライプチヒが生まれたのは2009年春のことだ。ライプチヒには06年ワールドカップ(W杯)のために建設された「ツェントラルシュタディオン」(現レッドブル・アレナ)があったものの、ほとんど活用されていなかった。

そこにレッドブルは目をつけた。5部にはリーグライセンスの厳しい規約がないという盲点を突き、SSVマルクランシュテットの運営権を取得。ドイツでは原則的にクラブ名に企業名を入れることは許されていないため、RasenBallsport(Rasenは芝生という意味)を略して「RB」という名がつけられた。レッドブルという商品名を連想させる絶妙のネーミングである。

ドイツでは一つの企業やオーナーがクラブの決議権の50%以上を持つことを禁止する「50+1ルール」がある。ただし特別条項があり、レバークーゼンやウォルフスブルクのように20年以上クラブを保有した企業は例外的に認められている。ホッフェンハイムも1990年からホップが資金援助しているため問題ない。

RBライプチヒは明らかにそのルールに抵触しており、2部に昇格するうえで問題になった。だが、クラブの社団法人にレッドブルの関係者を入れるという"間接支配"に切り替えて規制を乗り越えた。商品ロゴと酷似しているエンブレムも、少しずつデザインを変えて認めさせた。

強引なやり方に地元でも反発があったが、12年夏を境に空気が変わり始める。名将ラルフ・ラングニック氏をスポーツディレクターに招き、「イノベーションに取り組む挑戦者」というブランドイメージを打ち出したのだ。

13年に4部から3部に上がり、さらに翌年3部から2部へ連続昇格。昨季こそ2部で足踏みしたが(年間5位)、ついに今季昇格を果たした。レッドブル社の創業者ディートリッヒ・マテシッツ氏はクラブを創立したとき、「8年間で1部」を目標に掲げた。その計画よりも1年早い、1部への到達となった。

やはり結果を出せば人は集まる。観客数は11年から6070人→6746人→1万1431人→2万4293人→2万5966人と急増。ついに昨年、古豪ディナモ・ドレスデンを抜いてザクセン地方で観客数が一番になった。

プラスチッククラブには「伝統」がないが、「しがらみ」がないという良さがある。3500万ユーロ(約43億2000万円)をかけて15年にトレーニングセンターを建設し、いろいろな新しい試みを実行している。

まずライプチヒの一流ホテル・シュタイゲンベルガーで働いていた人気シェフのトーマス・リンケ氏を、専属コックとして引き抜いた。ラングニック氏はシャルケ時代にバーンアウト(燃え尽き症候群)にかかった経験があり、「原因は偏った食事にあった」と自己分析。それ以来、食事に徹底的にこだわるようになり、選手たちに最高の味と栄養を用意するために人気料理人を呼び寄せたのだ。トレーニングセンターには育成年代の寄宿舎もあるため、彼を責任者に計8人のコックと7人のスタッフが働いている。

料理のコンセプトは最高のパフォーマンスを引き出すこと。砂糖は一切使用せず、キシロースやガラクトースを使う。子供に人気のパンにつけるチョコクリームは禁止で、代わりにヘーゼルナッツクリームにチアシード油を加えたものを用意。消化を助けるためにオオバコ種皮パウダーも提供している。

小麦に関しては精白したものは排除し、すべて全粒粉のものに切り替えた。ビュッフェにはグルテンフリーの食事がずらりと並ぶ。

昼と夜に果糖や炭水化物をなるべく取らないようにアドバイスしており、主力のオルバン、ケディラ、イルザンカーは一切炭水化物を口にしなくなった。彼らは「かつてないほど調子がいい」と効果を感じている。

育成アカデミーでは体重の管理を徹底しており、長期休暇後に増えていいのは1キロまで。それを上回ったら500グラムごとに5ユーロの罰金が科される。ただし責任が大きい分、育成年代からきっちり報酬が与えられ、すでに14歳で月に1000ユーロが支給される。旧東ドイツ地区ではトップクラスの額だ。トレーニングセンターには保護者用のカフェも併設されている。

だが、決してスター候補生を甘やかすわけではない。練習がある日は午後8時(休みの日は午後10時)消灯がルールとなっており、タトゥー(入れ墨)は禁止。髪形にも指導がなされる。また、契約時に個人の肖像権もすべてチームに帰属される。

当然ながら戦術指導にも余念がない。「ボールを失ったら5秒以内で奪い返し、そこから10秒以内にシュートを打つ」ということが練習から徹底され、90分ノンストップの激しいサッカーが体に刷り込まれる。スタッフ強化にも力を入れ、育成の名門シュツットガルトから名コーチたちを続々と引き抜いている。

スタジアムにあるプレスルームのドリンクコーナー

2部で準優勝した今季、ラングニック氏がスポーツディレクターと監督を兼任していたが、来季に向けてインゴルシュタットからハーゼンヒュッテル監督を150万ユーロで引き抜くことに成功した。これからラングニック氏は「より長期的な成長戦略を練る」ために、スポーツディレクターに専念する。

「可能性のあるタレント見つけ投資」

ラングニック氏は来季の構想をこう語る。

「私たちが獲得を狙うのは24歳以下の選手だ。可能性のあるタレントを見つけて投資する。その哲学によって上を目指していきたい」

夢物語ではない。すでにラングニック氏はホッフェンハイムを2部から1部に上げた08年に、バイエルンを抑えて「秋の王者」(前期王者)になった実績がある。

赤い雄牛の猛突進は、ドイツ1部を揺さぶるのか。どんな結果になろうと、4番目のプラスチッククラブが話題を振りまくことは間違いない。

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