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「除湿=省エネ」はウソ 冷房よりも電気食う理由

夏に備える家づくり(4)

日経アーキテクチュア

とにかく日本人にはエアコンで冷房することに拒絶反応が強い。温度を下げる代わりに夏を快適に過ごす方法として、最近では「除湿」が大流行している。冷房に比べて空気を冷やさないから「省エネ・エコ」と信じられている夏最大の"常識"は本当なのか。住宅の省エネルギー性能を客観的に調査・分析している東京大学准教授の前真之氏に、検証してもらう。

人間は運動時に大量の代謝熱を放出する際、発汗機能を使って体を冷やす。だから、汗が速やかに乾いてくれる乾燥した気候を好む。一方で、室内でデスクワークする程度の活動量では大した放熱は必要ない。よって発汗蒸散の割合は少なくなり、主要な放熱は周辺空気への「対流」と周辺壁への「放射」によって行われることになる。

気温を下げて対流を増やすか、湿度を下げて発汗蒸散を増やすか。どちらが快適でお得なのか。人間の快適性に関するモデル 「PMV(熱収支)・PPD(不満者率)」を使って説明しよう。

一般的な冷房の設定温度 26℃・27℃・28℃について、PPDが10%を超えない快適な範囲で、許容できる上限の相対湿度をピックアップした(図1)。外気の絶対湿度を超えない制限をつけ加えると、それぞれ快適範囲の相対湿度は70%・50%・20% となる。

図1 同じ快適性の温度と湿度3条件をピックアップ。不満者率PPDが10%未満となる範囲(青枠内)で、温度28℃・27℃・26℃から上限の相対湿度を選んだ。28℃では20%、27℃では50%・26℃では70%とした。26℃では100%としてもよかったのだが、そうすると外気より絶対湿度が高くなってしまうので70%にとどめた

「エンタルピー」は顕熱・潜熱の2 種類

夏の蒸し暑い外気を快適な状態まで冷却・除湿するにはどれだけの熱を取り除く必要があるのだろうか。空気が持っている熱量を「エンタルピー」といい、空気分だけの「顕熱」と水蒸気分の「潜熱」の2 種類がある。冷房は主に前者の顕熱を取り除き、除湿は後者の潜熱を取り除く。

東京の8月の年最高気温期間平均は30.8℃、絶対湿度は15.8gである。相対湿度は56.5%であり、エンタルピーは顕熱31.0kJ(キロジュール)、潜熱40.5kJ、合計71.4kJ である。これを前述の快適範囲の「28℃ 20%」「27℃ 50%」「26℃ 70%」で計算すると、取り除くべき熱量が計算できる。

図2を見ると、一番温度が高い「28℃ 20%」の場合に、実は一番大量のエンタルピーを除去しなければならないことが分かる。高い温度で済ませるための除湿が、逆に膨大な熱負荷の原因となってしまっているのである。

図2 快適性が同じなら、温度が低い空気の方がお得。夏期を想定して、着衣量0.5クロ・活動量1.1メット・気流0.15m/s・放射温度は乾球温度と同じとして算出した。28℃ 20%・27℃ 50%・26℃ 70%はいずれもPPDが10%以内と十分に快適な条件であるが、温度と湿度の違いにより放熱ルートが異なってくる。夏の湿った空気では水蒸気による潜熱の割合が大きく、湿度を下げようとすると膨大な潜熱エンタルピーを除去しなければならなくなる

夏の炎天下、1時間の電気代

大して活動せず大量に発汗しない室内であれば、湿度よりも温度を調整する(=対流・放射放熱を調整する)方が快適性には効果的だ。しかも、除去すべき熱量も少なくお得ということに気付けば、夏最大の"ミステリー"は解決に近づいてくる。

もちろん、エアコンが処理すべき熱量は換気や漏気負荷だけでなく、高温の外気から壁を貫通して室内に侵入する「貫流負荷」も含まれる。日射がない場合は室内外温度差が冷房では小さいのであまり大きくないが、日射があればSAT(相当外気温度)は上昇する。エアコンの効率は、とりあえず冷房も除湿も同じ「COP=5」と仮定して計算してみよう(図3)。COP(エネルギー消費効率)は、電力1kWを使って何kWの冷房・暖房効果が得られるかを示す。

図3 夏の東京の炎天下を想定して、快適に過ごすために冷房・除湿で除去すべき熱エンタルピーを計算した。建物は断熱等級3からHEAT20 G2までの4段階とした。1時間当たりの換気回数は漏気や熱交換換気を考えて、隙間だらけの2回から、高気密+全熱交換換気相当の0.2回/hまで4段階で変更した

図4に、その結果を示す。断熱・気密が悪く漏気が多い状態では、特に除湿優先の室内28℃ 20% の場合に極端に大きな冷房負荷が発生する。どんどん侵入する湿った外気を除湿するには、大量の熱を除去しなければならないのだ。1 時間73.9 円の電気代はさすがに勘弁だ。

図4 湿度を調整したければ断熱気密・全熱交換換気が必要。いずれも1時間の値。漏気がひどい状態で除湿を行うと、侵入する高湿の外気により膨大な除湿を行わなければならず、エネルギー消費や電気代が増加する。冷却だけで済ませた方が省エネという意外な結果になった

一方で、断熱気密をHEAT20 G2 レベルにまで上げ、漏気もシャットアウト。呼吸に必要な換気(通常は換気回数0.5回/h)も、全熱交換換気で排気の温湿度を回収したとする(換気回数0.2回/h に換算)と、電気代はいずれの場合も1時間20円前後にまで急減する。温度や湿度を論じたければ、まずは断熱気密を徹底し、全熱交換換気の設置も検討すべきことが分かる。そうすればお金の心配なしに、冷房も除湿もお望みのままなのだ。

エアコンの効率にも大きな違い

先の検討では、エアコンの冷却も除湿も同じエネルギー効率(COP=5)として計算した。最近のエアコンでは、冷却だけならこの程度の効率は楽に出せる。問題は除湿の方である。

エアコンは熱を移動させるヒートポンプにより、少ない電気エネルギーで冷却・加熱を行う。その心臓部は、電気モーターで冷媒を圧縮する「コンプレッサー」。圧縮され高温になった冷媒は屋外機の熱交換器に通され、外気に熱を排出する。

こうして温度が下がった冷媒は膨張弁で急激に圧力を下げられ、さらに低温になって屋内機に供給される。この低圧・低温の冷媒が屋内機の熱交換器で空気と熱のやりとりをすることで、冷房・除湿ができている。

除湿を行わない場合、エアコンは空気を少し冷やせばよいだけなので、屋内機はそれほど低温の冷媒を必要としない。屋内機と屋外機での温度差「温度リフト」が小さい状態では、コンプレッサーは楽ができるのでエネルギー効率が高くなる(図5)。

図5 ヒートポンプは高いエネルギー効率を誇る素晴らしい技術だが、つくる温度によって効率は大きく異なる。用が足りる範囲でできるだけ高温側と低温側の「温度リフト」を小さくすることが、効率的にエアコンを動かすコツである。除湿を積極的にしない「弱冷房」の方が低温で除湿した後に再加熱する「再熱除湿」より高効率な理由はここにある

除湿をするということは結局、氷水の入ったコップの表面に水蒸気が結露することと何も変わらない。空気の水蒸気を「露点温度」以下(実際にはさらに低温)に冷やして結露させなければ、湿気は抜けてくれないのだ。

屋内機に超低温の冷媒を送るためには、コンプレッサーがかなり頑張って冷媒を圧縮しなければならない。そのためにより多くの電気を消費するのでエネルギー効率が落ちるのだ。

ヒートポンプは素晴らしい高効率技術だが、魔法ではない。本来の効率を発揮するためには、冷房・暖房・給湯などの用途ごとに"必要最小限"の温度で済ませることが一番大事なのだ。

前真之(まえ・まさゆき) 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻准教授。博士(工学)。1975年生まれ。1998年東京大学工学部建築学科卒業。2003年東京大学大学院博士課程修了、2004年建築研究所などを経て、2004年10月、東京大学大学院工学系研究科客員助教授に就任。2008年から現職。空調・通風・給湯・自然光利用など幅広く研究テーマとし、真のエコハウスの姿を追い求めている。

(書籍『エコハウスのウソ[増補改訂版]』の記事を再構成)

[参考]「エコハウス」と聞いて思い浮かべる住宅のデザインや暮らし方の多くが、真の省エネにはつながっていない。東京大学で省エネ住宅を研究する気鋭の研究者が、実証データやシミュレーション結果をもとに、一般ユーザーや住宅関係者が信じて疑わない"エコハウスの誤解"をバサバサと切っていく。初版発行後に明らかになった新たな知見や、2020年の「省エネ基準義務化」などについて大幅に加筆した。

エコハウスのウソ[増補改訂版]

著者:前 真之
出版:日経BP社
価格:2,484円(税込み)

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