2019年4月19日(金)

着るセンサーが明かすカーレーサー「驚異の暗黙知」

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2016/5/25 6:30
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日経テクノロジーオンライン

レーシングカーのドライバーには、コーナーで大きな横方向の重力加速度(横G)がかかる。その影響で体の半身に血液が偏らないよう、筋肉を収縮させて「耐G行動」を無意識に取っている――。

時速300km超でレーシングカーを操る世界のトップドライバーの"暗黙知"が、徐々にではあるが、明らかになろうとしている。それを実現するのが、"究極のウエアラブルデバイス"ともいえる「衣服型センサー」である。

NTTデータと米国法人のNTT DATAは、NTT物性科学基礎研究所、米国のカーレーシングチームChip Ganassi Racing(Chip Ganassi)の協力の下、2015年6~8月に開催された米国のインディカー・シリーズ(IndyCar Series)で、走行時のドライバーの生体情報を取得する実験を行った。2016年シーズンも、3月から最終の9月まで実験を継続している。

NTTデータがスポンサーを務めるChip Ganassi Racingのレーシングカー「No.10」を運転するTony Kanaan氏

NTTデータがスポンサーを務めるChip Ganassi Racingのレーシングカー「No.10」を運転するTony Kanaan氏

生体情報の計測に採用しているのは、着るだけで連続的に測れる機能素材「hitoe(ヒトエ)」の技術。東レとNTTが共同開発したもので、導電性高分子をニット状のナノファイバーに含浸させた生地である。この技術を使ってセンサーを作成し、アンダーシャツに取り付けて計測できるようにした。

モータースポーツでは、これまでにもF1などでドライバーの心拍数を実験的に計測する取り組みはあったが、インディカー・シリーズでは腕時計型センサーや心拍計などの装着は認められていない。また、腕時計型センサーでは心臓までの距離が離れているため精度に課題があった。hitoeの技術を使えば、心拍数などをより高精度に計測できるという。

■目指すはトレーニング法の開発

スタートから30秒で時速200km、1分で時速320kmに到達し、最高時速は約378km。インディカー・シリーズは、「フォーミュラカー」を使用する北米最高峰のモータースポーツである。

レーシングカーのコクピットに収まってしまうと外からは分かりにくいが、インディカーは過酷なスポーツで、ドライバーには非常に高い身体能力が要求される。

今回の実験の目的は大きく2つある。1つは、ドライバーの優れた能力を見える化すること。これによって「ベテランドライバーとルーキーの筋肉の使い方の違い」を明らかにし、スキルの向上や事故・ケガの防止、新しいトレーニング方法の開発などに役立てる。「ドライバーが持つ暗黙知を可視化したい」(NTTデータ技術開発本部 エボリューショナルITセンタ デバイス協調技術担当の渡辺真太郎部長)

もう1つは、hitoeの技術が過酷な環境下でどこまで使えるのかを検証することだ。高速走行するレーシングカーでは、大きな振動がドライバーに伝わる。これによってセンサーの電極と体の密着度合いが低下する。さらに、ドライバーのかく大量の汗も"難敵"で、水分によって電流のリーク(漏れ)が発生する。いずれもノイズ源となる。「インディカーで使えれば、どんなスポーツにも適用できる可能性がある」(同)

実験に協力しているのは、NTTデータがスポンサーを務めるChip Ganassiのレーシングカーを運転するTony Kanaan氏。インディカー・シリーズで最も著名な「インディ500」を2013年に制したトップドライバーである。

同氏は、ドライバーに要求されるスキルや身体能力が関係者以外にはなかなか伝わらないことにじくじたる思いを抱いており、hitoeを使ったNTTデータからの実験の提案に快諾したという。

■耐熱素材で特別仕様のセンサー

今回の実験の肝は、レース走行中のドライバーの生体情報(心拍数、胸部の筋電)と車両のデータ(速度、加速度、車体の傾き、ステアリング角度など)を組み合わせてデータを分析する点にある。レーシングカーの走行状態とドライバーの身体状態の相関が明らかになる。

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