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留学生が斬る ここがヘンだよ日本のシューカツ

企業が人材のダイバーシティー(多様化)を重視しはじめ、外国人留学生に対して就活市場での引き合いが強まっている。日本人の就活生にとっては強力なライバルの登場だ。ただ、国内全体の新卒学生の就職率が2016年卒で9割を超えているのに対し、外国人留学生の日本での就職率は3割にとどまるという事実もある。今回、就活探偵団がその真相を探る中で、日本の就活のいびつな構図も見えてきた。

過去10年で最高

法務省によると、14年に学生ビザから就労ビザに切り替えた外国人留学生の数は過去10年で最高となった。人事コンサルタントのディスコの調査では16年度の採用活動で外国人留学生を採用する予定と答えた企業は全体の57%を占めた。売り手市場と言われる今年の就活戦線、向上意識が高く、語学にもたけた外国人留学生は企業の間でも引く手あまただ。まさに「黒船襲来」。現役の日本人の就活生もうかうかしていられない。

早稲田大学国際教養学部に通う韓国系のムン・ミンギョンさん(22)とジョン・ハリンさん(22)はいずれも日本に拠点を置く外資系企業への就職活動を始めたばかり。2人とも日本語、英語、韓国語を使いこなし、ムンさんは既に広告系コンサル会社への内定を取り付けているという。「自分のポテンシャルを出せる会社で仕事をしたい」(ムンさん)「日本を中心に考えているが、香港やシンガポールの会社も視野に入れたい」(ジョンさん)と、今後も積極的に就活を続けていく考えだ。

スウェーデン出身で大阪大4年のラムステット・アントーニアさん(24)は幼い頃から日本のアニメや漫画に興味を持ち、母国では日本文化会の会長も務めた根っからの日本通だ。現在は就職活動の真っ最中で、日本語やスウェーデン語に加え、英語やドイツ語まで使いこなす。「国際的な懸け橋になりたい」と自慢の語学力を駆使して、大企業から中小企業まで幅広く活動している。

曾オスティンさん(24)の場合、高校卒業後、兵役を終えるまでシンガポールで育った。中学校時代から日本語を勉強し、日本に強い興味を持っていたことから来日し、現在は東大の4年生だ。3年生の時に友人の紹介でインターンした人材系ベンチャーが気に入り、就活は早々に切り上げてその会社から内定をもらった。

留学生の受け入れに積極的なことで知られる立命館アジア太平洋大学(APU)の太田猛事務局次長は「年度にもよるが600人程度の外国人留学生が卒業していて、3分の1は日本で就職する」という。

企業側も留学生のアプローチに応えている。太田氏は、「かつては海外に進出したい企業がピンポイントで採用することが多かったが、今では、日本での営業や経営企画など、通常の日本人と同じ枠で採用されるようになった」と話す。今年4月に新入社員の2割に当たる27人の外国人を採用したデロイトトーマツコンサルティングの和田淳執行役員は「アウェーの環境で戦える精神を持ったグローバル人材を必要としている」と話す。

就活のガラパゴスぶりあらわ

しかし、外国人の採用は全体としては増えているものの、必ずしも広き門ではないことも事実だ。経済産業省などの調査では、留学生の7割が日本での就職を希望しているのに対して、実際に就職できている人は3割にすぎない。最大の理由は日本語という高い壁だ。ビジネスレベルの高い水準の日本語を使いこなすのは簡単ではない。デロイトトーマツの和田氏も「本当に優秀だからと言う理由で外国人を語学力に関係なく採用していた時期もあったが、正直日本語ができないと厳しいという現実があった」と振り返る。

 もっとも、外国人が抱いている違和感は言葉の壁だけではない。今回、就活探偵団は取材の中で、いかに日本の就職活動が日本独特で「ガラパゴス化」しているかを再認識することになった。まず不透明で移ろいやすい選考過程だ。外国人留学生の多くは「そもそも日本の就活の仕組みが理解できない」と不満を漏らしている。

中国の山東省出身で08年に立命館APUに入学した杜銘雨さん(26)は大学卒業後、日本語を使って仕事をしたいと考え、日本で就活に挑んだ。商社やメーカーなど大企業を受けるが、いずれも落とされた。現在では文系でも活用できるという理由で、あるIT(情報技術)系企業で働いている。就活を通して感じたのは「採用する際の明確な基準がない」ことだ。

あるプラント大手のリクルーター面接を受けた時には、学生時代の課外活動について聞かれて面食らったという。「オーケストラでバイオリンを弾いていたが、それがどう関係あるのか分からなかった」。たしかに日本の採用では、学業成績よりもその他の活動での定性的な評価が重視される傾向がある。学生側も、バイオリンをやっていたことを喜んでアピールするだろう。だが、留学生が期待しているのは、学業成績で平等に評価されることのようだ。

シンガポール出身の曾オスティンさんも「大学の成績が採用に関係ないから学業を放棄して就活に走ってしまう」と手厳しい。大学の成績があまり重視されないことに違和感を覚える外国人は多い。日本の就活生も同じような矛盾を感じたことはないだろうか。学業の邪魔にならないようにと、経団連が毎年のようにスケジュールを二転三転させて混乱しているが、そもそも評価の基準を変えないかぎり、学業優先は実現しないのかもしれない。

英語に訳せない「総合職」

入社後のキャリアや処遇についての考え方についても日本企業と外国人留学生の食い違いが目立つ。「最終的には母国に帰って活躍したい」という考えを持つ外国人は、短期的な成果やキャリア形成を求めがちだ。対照的に、日本には「総合職」という象徴的かつ、英語には訳せない独特な言葉がある。日本企業の多くは理系・文系という違いがある程度で、たいがいは職種に関係なく採用し、配属先も本人の希望通りとはいかない。

これは長い期間をかけて様々な職種を経験しながら育成するという日本ならではの考えの裏返しでもある。ただし「3年は泥臭い下働きをしてもらう」(大手総合商社)といった文化は現在も残っている。ある留学生は飲食チェーンへの内々定をほのめかされたが、入社後にはウエーターとして2~3年の現場経験を積まなければならないことが分かった。母国に帰るかもしれない留学生にとって、「履歴書に書ける経歴がウエーターはあるまじき状態」と、あきらめざるを得なかった。

「体育会系が有利」「入社したら激しい飲み会を強要される」といった不確定な情報が飛び交うことも外国人留学生にとっては不安のタネになっているようだ。立命館APUの太田氏は、「企業名をあまり知らず、企業情報が少ない。そのため就職活動での情報は既に日本で働いている大学の先輩や同胞からの口コミが最大の情報源で、偏ってしまうこともある」と解説する。毎年のように就活スケジュールが変わる近年はなおさらで、情報の交錯は日本人就活生にとってもアタマの痛い問題だ。

 そもそも、大学在学中の少なくない期間を就活のためだけに振り向け、大手企業がこぞって採用活動し、学生は数十社も受ける。企業側はキャリアや実務能力に関係なく新卒学生を大量に採用するという大きな仕組みこそ日本独自のものだ。そのルーツは諸説あるが、どうやら戦前までさかのぼるほど歴史は長い。経団連は「事業運営に必要な労働力、特に若い労働力を安定的に確保する仕組み」と説明するが、留学生の中には「皆が一斉にリクルートスーツを着て就活をする姿が気味が悪い」との指摘もある。

「実力ベースでは外国人」

長い歴史の中で培われてきた日本の就活の仕組みだが、通年採用への切り替えなど一部では変化の兆しも見えている。ある人事採用担当者は「一般的に日本人学生のレベルは下がっている中で、実力ベースでは外国人を採用したくなるのは必然」と漏らす。

逆に言えば、優秀な留学生が日本の「シューカツ」に愛想をつかし、帰国してしまえば、日本企業にとっての損失にもなる。ベンチャーに就職を決めた東大の曾オスティンさんは、就活の過程で、大手企業の採用方針にいくつも疑問を感じたという。「留学生は国に戻る、という選択肢も持っている。就活がつらいから断念する人も多い」と話す。

外国人採用が増えれば増えるほど、日本企業の採用活動も変化を迫られることになる。それこそが本当の意味での「黒船」かもしれない。日本人就活生も売り手市場に甘えて変化の波を傍観しているだけでは、取り残されてしまいかねない。

(北爪匡、夏目祐介、結城立浩)

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