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巨人・菅野、「圧倒」掲げ進化 プレミアの敗北感が糧

開幕ダッシュを決めたとはいえ、故障者続出で先発の駒不足が露呈して失速気味の巨人。苦しい台所事情のなか、菅野が文字通りの「一本柱」としてチームを支えている。有無をいわさず打者を抑え込む決意を込め、「圧倒」を掲げる今季。その仰々しいスローガンも何ら違和感のない防御率が1にも満たない快投を続ける進化の源には、己の力不足を知り、球界のエースたちから受けた刺激があった。

捕手・相川「一人だけ別世界にいる感じ」

春季キャンプがそぞろ立ち上がった2月上旬、初めてブルペンに入った菅野の球を受けた捕手の相川が驚いていた。「スピンの量が間違いなく上がっている。スライダーのキレ、曲がりも2、3段階上がり、一人だけ別世界にいる感じ」。オープン戦でも平均で2~3キロは増しただろう150キロ超の速球を連発。持ち味の制球や投球術はそのままに、球威を増した直球は「今年の菅野は相当手ごわい」と他球団に思わせただろう。「抜けたなと思う球でもスピンがかかっていく。球を離れていく感覚が昨年と違う」。本人の想定も超えた直球は、昨季のシーズン後に初めて踏んだ国際舞台「プレミア12」で味わった挫折を糧に手に入れたものだ。

1次ラウンドの米国戦でメジャーリーガーがいない迫力不足の打線から一発も浴びて4回2失点。3位決定戦のメキシコ戦も3回1失点と、「情けない投球だった」と振り返る。だが、それ以上に心を揺さぶったのは、同じユニホームを着た面々だった。160キロの直球を連発し宿敵韓国を2試合ともねじ伏せた大谷(日本ハム)や決勝トーナメントで悠然と失点ゼロを続ける前田(現ドジャース)――。間近で球界のエース格に接し、「チーム(巨人)にいればローテーションの中心にいるが、代表に入れば自分よりも力のある投手がいる」。

大会での自身の不振も「その投手たちを前に自分の力以上のものを願ってみたり、出そうとしたりして力んでしまった」ことにあった。菅野は大会後にそのとき感じた"敗北感"をこう語った。伯父は原辰徳前監督で、自身も同じ東海大相模高から東海大を経てドラフト1位で巨人に入団。まさに野球エリートだが、溺れることなく、自分の立ち位置をてらいなく受け入れられる素直さも、投げる才能と同じくらい恵まれた天分なのだろう。「自分より上の投手はたくさんいるぞと感じてもっともっと高みを目指してやってきた」と絶対的な力を求めて臨んだオフの自主トレは、重みの違うものになった。

自主トレで握力強化を最重点課題に

自主トレ先のハワイでは指先で球をはじく力をつけるための握力強化を最重点課題に据え、新武器として、打者の手元で鋭く沈み込む「ワンシーム」も覚えた。前者は文字通り打者を圧倒する直球の球威を手に入れるため。後者は直球に近い速度で小さく曲がり、日本代表の強化試合でバッテリーを組んだヤクルトの中村が「打ち気にはやる相手を1球で仕留められる球」と評したように、ピンチで打者を引っかけさせてゴロを打たせるため。まさに今季の絶対的な投球の礎となっているもので、その成果はヤクルトとの開幕戦で表れた。

この試合、菅野は空回りしていた。高橋監督の初陣を任された緊張感もあって、敵将の真中監督が「あれだけの投手でもああなるのか、と思うほどに荒れていた」と驚いたほどの制球難。勝ち負けの数が拮抗していた昨季までの菅野なら、恐らく「外れ」の日だったろう。

しかし、終わってみれば7回5安打無失点。二回2死一、三塁、五回2死一、三塁と迎えたピンチでも安易に変化球に頼らない。相対した山田ら強打者を強引ながらも直球でねじ伏せ、「直球で押していける自分がいた」。今季7度の登板のなかでは最悪と思えた出来でもつかんだ1勝は大きかった。はや3完投で、そのうち2度は完封。計57イニングを投げて失点はわずかに6、自責点は5と快進撃は止まりそうもない。

10勝11敗と負けが先行したとはいえ、昨季の防御率1.91は自己最高でリーグ2位。十分胸を張っていい数字だが、プロ3年目に入りまとまりを増す一方で、「すごみ」は薄れつつあった。狙って併殺を打たせる術や、状況に応じて選んだ球を狂いなく投げる制球は指折りでも、時にかわそうとする投球があだとなり、策士策に溺れる試合もあった。

「軟投化」は数字にも表れていて、奪三振率は1年目の2013年の7.92から年々下がり、昨季は6.33。だが、絶対的な直球を手にした今季は奪三振率も8.21と5月9日時点で昨季奪三振王の藤浪(阪神)らをしのぐまでに上昇している。反対に与四球率は昨季の2.06から0.31へと大幅に減らした。制球に磨きがかかったというよりも、「昨年なら例えば2死二塁の場面なら2人歩かせても3人で1死を取ればよし、という発想もあった。力が絶対的なものでなかったから」。苦しい場面でもストライクゾーンで勝負できる揺るがぬ自信が球数も減らし、「毎試合9回を投げ切るつもりでやる」という言葉通りの完投にもつながっている。

「巨人のエース」から「球界のエース」へ

プロ4年目に「巨人のエース」から「球界のエース」へと一皮むけようとしている菅野。ただ、向かうところ敵なしというにはまだ壁がある。新たな「平成の名勝負」に推挙したい気持ちにさせるのが、DeNA・筒香とのしのぎあいだ。昨年8月の対戦で九回逆転2ランを浴びた代表のチームメートに、今季も初対戦した試合の七回、同点3ランを浴びた。どちらも手痛い被弾に変わりはないのだが、どんより落ち込んだ昨季に比べると試合後の表情はむしろすがすがしかった。

それもそのはず、「歩かせるかどうか中途半端な気持ち」で置きにいったようなカーブを打たれた昨季とは違う。今季は内角をえぐったカットボールを見事に右翼席に運ばれた。「あのコースを打たれたら仕方がない」と敵ながらあっぱれといったふうで、「勉強になった。次に生かしたい」。大谷、前田らの"同業"だけでなく、「上には上がある」と感じられる打者の存在も、26歳の成長をまた助けるのだろう。

(西堀卓司)

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