三セク・南阿蘇鉄道、窮地に 復旧費は売上高の30倍

2016/5/5 6:00
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日本一長い駅名の「南阿蘇水の生まれる里白水高原」駅には人影がなかった(2日、熊本県南阿蘇村)

日本一長い駅名の「南阿蘇水の生まれる里白水高原」駅には人影がなかった(2日、熊本県南阿蘇村)

熊本地震で大きな被害が出た第三セクター鉄道、南阿蘇鉄道(熊本県高森町)が危機に直面している。被害の程度はなお調査中だが、橋やトンネルにも重大な損傷が確認されている。全線復旧には少なくとも30億円程度かかる見込みだ。最近は外国人観光客の利用も多く、沿線住民は「地域の活性化に欠かせない存在。何としても復旧してもらいたい」と切望する。

■曲がった線路、トンネルに亀裂

日本一長い名前で知られる「南阿蘇水の生まれる里白水高原」(同県南阿蘇村)駅の周辺はゴールデンウイークの日中にもかかわらず、しんと静まりかえっていた。駅を出てすぐ眼前に広がる阿蘇の南側の山々は新緑に染まっていたが、その山々も何カ所か土砂崩れが起きて、ところどころ茶色い山肌がむき出しになっていた。

地震で大きくゆがんだ南阿蘇鉄道の線路。奥に露出した山肌は阿蘇大橋崩落の現場付近(2日、熊本県南阿蘇村)

地震で大きくゆがんだ南阿蘇鉄道の線路。奥に露出した山肌は阿蘇大橋崩落の現場付近(2日、熊本県南阿蘇村)

近くの踏切まで数百メートル歩くと、地震の力でぐにゃりと曲がった線路が見えた。遠くには、阿蘇大橋を押し流した土砂崩れ現場も見える。

南阿蘇鉄道は、立野駅(南阿蘇村)と高森駅(高森町)を結ぶ全長17.7キロメートルの鉄道。国鉄高森線として開業し、1986年に三セク化された。先月14日の地震発生後、全区間で運転を見合わせている。三セク化以降、自然災害で長期にわたって全線運休するのは初めてという。

同社の2015年度の売上高は1億1200万円で、大半を運輸収入が占める。経常収支は345万円の赤字。復旧費用は地震直後の概算で30億円だが、今後の調査しだいで大きく膨らむ可能性もあるとしている。同社の数十年分の収入にあたるため公的支援が欠かせないが、今のところ国や県との本格的な協議には入れていない。

立野-長陽間ではトンネルの内壁が剥落している(熊本県南阿蘇村)=南阿蘇鉄道提供

立野-長陽間ではトンネルの内壁が剥落している(熊本県南阿蘇村)=南阿蘇鉄道提供

被害が特に大きかったのは、阿蘇大橋の崩落現場にも近い南阿蘇村の立野―長陽間で、2カ所の橋にひずみが生じたり、2つのトンネルの壁に亀裂が入ったりしている。今後、復旧に向けて専門家による詳細な調査に入るが、その日程もまだ決まっていない。

比較的被害の軽かった中松(同村)―高森間の約7キロについては、復旧工事に着手すれば1カ月程度で済むとみており、この区間だけ先行して運転再開することも検討している。

駅舎も一部で損傷。温泉を併設する「阿蘇下田城ふれあい温泉」駅(同村)では屋根瓦が多数はがれ落ち、ホームの柱がゆがむなどした。ただ駅舎は村が管理しており、修復など今後の対応は村が判断する。幸い車両への被害はなく、10両全てが高森駅に留め置かれている。

山並みの中を走る第三セクター南阿蘇鉄道の車両(2013年7月、熊本県南阿蘇村)=共同

山並みの中を走る第三セクター南阿蘇鉄道の車両(2013年7月、熊本県南阿蘇村)=共同

全国的に外国人観光客が増えるなかで、同社も近年は中国や韓国、台湾などからの団体客を取り込み、収支改善につなげていた。同社が休日中心に運転する観光用のトロッコ列車は人気が高く、由布院など近辺の観光地を周遊するバスツアーに組み込まれていた。福岡市などから自家用車で訪れ、トロッコ列車で往復する家族連れも多かったという。

南阿蘇水の生まれる里白水高原の駅前で飲食店「田舎ごはん きしゃぽっぽ」を経営する渡辺重行さん(59)は「鉄道は村の稼ぎ頭だったので、地震で止まってしまったのは悔しい」と嘆く。

■沿線自治体が代替通学バス

駅を拠点に「村の魅力を発信する方法をみんな考えていた」。駅舎では昨年春から毎週末に古本市が開かれ、近隣の水源地や寺を巡る遊歩道を整備する構想もあったという。「なんとしても復活してもらわんと」と力を込める。

南阿蘇鉄道の運転見合わせや道路寸断で、長期にわたって高校生らの通学手段が絶たれる南阿蘇村と高森町は、連休明けの9日から熊本市などへの無料の通学バスを運行する。高校生、専門学校生、大学生が対象。7月下旬までの予定で、平日に4ルートを1往復ずつ走らせる。

秋以降の対応は決まっていないが「無料で運行を続けるのは難しい」(高森町教委)。熊本市への経路として使う山越えの道路「グリーンロード南阿蘇」では、冬場に霧や路面凍結も頻繁に発生することから、毎日走らせること自体が困難を伴う。夏休み明け以降は「下宿なども考えてほしい」(同教委)としている。

莫大な復旧費用を調達するめどが立たない中で、同社は専用口座を開設し義援金の受け付けを始めた。詳細は同社ホームページ(http://www.mt-torokko.com/)で確認できる。

(西部支社 松木祥介)

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