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技もパワーも観客魅了 力士は個性で土俵沸かそう

8日に初日を迎える大相撲夏場所(東京・両国国技館)で、学生(関学大)時代から「居反り」などの奇手を繰り出すことで話題だった宇良が新十両に昇進した。体重127キロの小兵には、相撲が単なる力比べではないことを見せてほしい。一方で、力と力のぶつかり合いもまた大相撲の魅力だ。宇良の十両昇進を機に、大相撲の土俵を彩る力士のパワーと技について考えた。

腕力だけなら栃ノ心が一番か

新十両昇進を決め、ポーズをとる宇良=共同

現役力士の中で腕力だけなら栃ノ心が一番強いと思う。まわしを取って引き付けると、巨漢力士でも体が浮き上がってしまうほどだ。寄られたときも相手を引き付け、上半身の力だけで踏ん張ろうとしている。それだけ腕力に自信があるのだろう。

もっとも、上半身を中心に相撲を取るのはいいこととはいえない。栃ノ心の場合、下半身も決して弱くはないように見えるので、もっと足を使って相撲を取ればより上半身の力が生きてくる。膝に故障を抱えるため、どれほど鍛えることができるのかは分からないが、四股やすり足などで下半身をもっと強化すれば、成長の余地がまだまだ残っているようにみえる。

栃ノ心の次にパワーがあるのは照ノ富士だろう。単純な腕力勝負なら栃ノ心に分がありそうだが、照ノ富士の場合は自分より小さく素早い相手にもしっかりとついていける足がある。体が大きいのに小兵が相手でも動き負けない。だから、上半身の強さを相撲につなげることができている。

ただ、照ノ富士も時々、上半身のパワーに頼った強引な相撲をみせることがある。寄られると反り返るような姿勢のまま無理な投げを打ってしのごうとする。あれは見ていて危なっかしい。

押されたり下がったりしながら投げると、自分の体重だけではなく相手の体重まで片足にかかってしまう。さらに、投げというのは体をひねる動作だ。ひねった片足に力士2人分の体重が加われば、当然、大きなケガにつながる。実際、照ノ富士が昨年秋場所の稀勢の里戦で負った膝のケガは、まさにそういう強引な投げが招いたものだった。

春場所で琴奨菊(右)に寄り切られた栃ノ心。もっと足を使って相撲を取れば上半身の力も生きる=共同

強すぎる腕力はもろ刃の剣

強すぎる腕力はもろ刃の剣だ。私もパワー頼みの相撲で何度も痛い目に遭ってきた。1997年夏場所の貴ノ浪戦で下がりながら投げを打ったとき、バリバリという音がして股関節の筋が裂けてしまった。2002年九州場所の土佐ノ海戦でも力任せに投げようとしたところで上腕二頭筋がポンとはじけて、肉離れを起こした。人に「パワーが強すぎて、体が耐えられないのだろう」といわれたこともある。

投げ技で多くの対戦相手にケガをさせてしまったのも苦い思い出だ。小手投げを打った瞬間に相手の腕がバキバキと音をたて、靱帯などが切れている感触が自分の腕にも伝わってきたことがあった。勝負の世界なので仕方がないとはいえ、相手に大ケガをさせてしまうたびに「またやってしまった」と落ち込んだ。自分が壊れるのもさることながら、相手を壊してしまうことが何よりもつらかった。

現役時代は「魁皇=怪力」のイメージが定着していたが、実は上半身だけを重点的に鍛えたことはない。入門後は四股とすり足の稽古が中心だった。テッポウをしたり、申し合いで相手のまわしを引き付けたり、ぶつかり稽古をしたりしているうちに、自然に上半身も鍛えられていく。大相撲の稽古場というのは、そこで必死に取り組んでいるうちにとんでもない力が付く場所なのだ。

握力は中学3年で85キロ程度と、もともと強かった。入門から2年後の17歳で90キロになり、18歳で100キロに達した。自分の最大の握力は分からない。今でも覚えているが、若いころに相撲診療所で体力検査をしたときに握力計をちょっと握ったらすぐに針が振り切れてしまった。それを先生に見せると、「君、もう少しまじめにやりなさい。針が動いていないじゃないか」と怒られてしまった。そのときも必死にはやらなかったので、力を抜いたと映ってしまったのかもしれない。

宇良、舞の海よりも智乃花に近い

稽古総見で館内を沸かせた宇良(右)。意外に力強さもある=共同

ある日、稽古で砂だらけになったので、外の水道で体を洗おうと思ったら、冬場だったので凍っていたらしく、水が出なかった。そこで、蛇口を思い切りひねったら、ねじ切れて壊してしまった。

巡業の会場で荷物の出入り口にセダンの車が駐車されていたので、私とほか3力士の計4人で持ち上げて撤去したこともある。力士が4人も集まれば、乗用車だって普通に持ち上げられる。溝にはまって脱輪していた車の持ち主に助けを求められたので、持ち上げようとしたら、「バキッ」と嫌な音がして、バンパーを外してしまったこともあった。お相撲さんは一般の人には考えられないような力を持っている。力士にとって一番大切なのは相撲で勝つことだが、土俵以外でも「やっぱりお相撲さんはすごい」といわれるのはうれしいことだった。

それでも、現役時代に私だけが突出して腕力が強いとは思っていなかった。周りの力士も、みんなパワーがあった。武蔵丸に差されたら、こちらは体に全く力が入らなくなってしまった。貴乃花は腕力はもちろん、足腰を含めた体全体の力が強かった。全体的に強いから、部分部分の強さが目立たなかっただけだ。私は右上手に極端に偏った力任せの相撲ばかりだったから、怪力がクローズアップされてしまったのだと思う。

そんな私も、相撲がパワーだけではないと痛感させられたのが、新入幕だった93年夏場所初日の舞の海戦だった。立ち合いで左腕をつかまれ、柔道の一本背負いのように投げられてしまった。小さい力士は相手の力や動きを利用して投げるのが本当にうまい。

その舞の海と何かと比較されている今場所注目の宇良は身長173センチ、直近の体重は127キロ。小兵ではあるが、今はこれくらいの体格の力士は多い。十両では石浦が110キロ、里山が115キロ、北●磨(●はいしへんに番)が126キロ。宇良が目立って小さいわけではない。

それによく見ると結構、いい体つきをしている。ここまでの宇良は相手との間合いをみて、攻めるときは一気に攻めるいい相撲を取っている。そういう意味で、宇良は舞の海というよりも智乃花に近い気がする。智乃花は技だけではなくて力も強かった。舞の海は足腰の強さと技の多さ、柔らかさが武器だった。宇良は意外に力強さもあるので、どちらかというと智乃花タイプにみえる。

私は小兵力士が苦手だった。「技ではかなわないから、力でねじ伏せよう」と変に力んでしまったのがよくなかったのかもしれない。中に入られ体を起こされ、押してくるのか引いてくるのかも分からず、翻弄されるばかりだった。私は巨漢力士とのパワー勝負の方がよほどやりやすかった。

恵まれた体格、相撲に生かしてこそ

見ている人にとっても力と力のぶつかり合いは面白いし、投げ技は客席も盛り上がる。力士としても、投げが決まると本当に気持ちがいい。ただ、パワーに自信のある力士ほどむちゃをしてしまいがち。力も間違った使い方をするとケガにつながるので、今場所も力士たちには下がりながらではなく前に出ながら投げてほしい。

それにしても、せっかくの恵まれた体格やパワーを持て余し、相撲に生かし切れていない力士が散見されるのは残念だ。宇良のような技で土俵を沸かすことのできる力士が台頭してきたので、規格外のパワーで見る者をうならせる力士にも登場してほしい。

(元大関魁皇)

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