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伊藤忠、就活生に社員の情報公開 会いたい人選んで

OB・OG訪問は就職活動の重要なステップだが、意中の人に巡り会うのは難しい。伊藤忠商事が、社員の職種や所属部署などの情報を学生向けに公開していくことが就活探偵団の取材でわかった。すでに3100人の登録を済ませている。2017年春卒の就職活動は、実質3カ月の短期決戦。「会いたい社員に会える」ようにして社風や社員への共感を持ってもらう狙いがある。

情報を公開したOBに交流を申し込める(VISITS OBの画面イメージ)

サイト上で面会の予約

「就活生がOB・OG訪問をするときに、興味のある部署や、話を聞いてみたい地位の社員にアクセスしやすくする」。伊藤忠の人事・総務部採用・人材マネジメント室の甲斐元和室長に質問をぶつけると、こう回答があった。

同社はOB訪問支援のビジッツワークス(東京・港)が昨年12月に運用を始めたサイト「VISITS OB」を使って、3月から約3700人いる国内社員の登録を始め、約3100人の登録を終えている。その中から、入社15年目以内の若手・中堅社員を中心に1100人規模のプロフィルをサイト上で公開することを決めている。プロフィルは個人情報が特定できないように配慮されているが、学生が社員の学歴や職歴を閲覧し、「この人と会ってみたい」と考えれば、サイト上で面会の予約などのやりとりが可能になる。

このサイトで社員が公開する情報には、「学生時代に打ち込んだこと」「今後の夢や目標」「学生へのメッセージ」なども盛り込まれる。学生にとっては社員の人物像を立体的に把握し、「こんな先輩がこんな考えを持って活躍しているのか」などと共感しやすい社員を選んで訪問できる。

甲斐室長は「社員と学生との共感を通じて会社の魅力を正しく伝えるのがねらい」と説明する。同社が内定者にヒアリングしたところ、社員との接点を持つことが、学生の志望度を高める上で最も重要な要素だとわかったという。一方で、これまでは、OB訪問は個々の社員に任せていたため、「さまざまな職場で、社員がどんな思いで働いているかを学生が把握するのは難しかった」(甲斐室長)。

今年の採用戦線では、企業の広報活動期間は昨年より2カ月短くなった。社風や社員の考え方を学生にしっかり把握してもらい、ミスマッチを減らすためにも、社員のプロフィルの公開が有効だと判断してサイトの活用を決めた。

OB・OG訪問で意中の人に巡り会うのは難しい

情報公開を求められる社員側には当初戸惑いもあったようだが、現在は好意的な反応が増えている。「昨年までは会うことができないタイプの学生と接点を持つことができた」などといった手応えが広まりつつあるという。伊藤忠はこのような取り組みの効果を検証し、どこまで登録情報を公開していくかなどの方針を決める。国内の全社員に加え、海外勤務の社員にも対象を広げることも検討するとしている。

「VISITS OB」には三井住友銀行、電通、アクセンチュアなど、官公庁や団体も含む約150社が参加し、現在までに約1万2000人の学生が各社の社員とやりとりしている。

OB訪問を仲立ちするネットサービスはすでにあり、フェイスブックなどの交流サイト(SNS)でも自分の先輩を探すことは可能だ。ただ、ビジッツワークスの松本勝社長は、「会社としてどの社員がどの学生とやりとりをしているかを把握しにくい課題がある」と指摘する。

会社側のメリットも大きい。学生や社員の活動状況が把握でき、コーヒー代などの経費精算も一括でできる。参加企業数が増えているのは、それだけ企業側がOB訪問の推進に本気で取り組み始めた証しともいえる。

「相棒採用」や「OBダイヤル」も

こうした企業の動きは他にもある。アサツーディ・ケイ(ADK)は今年の採用活動から「相棒(バディ)採用」を始めた。SNSや専用サイトで社員が日常を発信し、学生と社員が直接話せるイベントを開く。学生が「この人と働きたい」と思った社員を指名すると、その社員が選考にも関わる。これまで開いたイベントは延べ900人の学生が参加し、87人の「相棒候補社員」に対して質問を浴びせた。

昨年までの画一的な採用活動では、学生に社風や社員を深く知ってもらう上で限界があったという。人事局の安本一優氏は「相棒社員が、選考過程で再び登場することで、入社後の職場のイメージをしっかり持ってもらえる」と手応えを語る。

このほか、丸紅は社内にOBのいない大学の学生が会社訪問しやすくするため、「社員紹介ダイヤル」と呼ぶ窓口を設けて3月から運用を始めた。あいおいニッセイ同和損害保険は、新卒採用向けホームページに掲載した社員の中から学生が好きな社員を選んで会える「社員訪問制度」を導入しており、今年は2000人を掲載している。

就活の売り手市場が続き、スケジュールも短縮されたことで、企業がせかされているのは理解できる。だが、これまで学生の自由活動だったOB訪問にここまで入れ込む本音はなんだろうか。

採用コンサルタントの谷出正直氏は「社風や社員の雰囲気を学生に伝えきれず、ミスマッチにつながっている面がある」と解説する。社風が合わない、自分のやりたかった仕事と違う、先輩や同期とのコミュニケーションをうまくとれない――。こんなミスマッチの結果、新卒で就職しても3年以内に約3割が会社を辞める(厚生労働省調べ)問題も生じている。社会的損失ともいえるこのミスマッチを抑えて「採用した人材の早期活躍を期待する」(谷出氏)ためにOB訪問を役立てたいという考えが、企業側にはありそうだ。

「訪問実行できる人は2割」

リクルートキャリアが発表した「就職白書2016」によると、就活開始前と、終了後で「企業を選ぶのに重視した点は」と学生にたずねたところ、「一緒に働きたいと思える人がいるかどうか」という項目がもっとも振れ幅が大きかった。就活前には気にしていなかったが、いざ終了してみて、良い先輩に会うことの重要性に気づいた学生が多いことを示している。

OB訪問といえば、従来は大学の就職課で名簿をたぐるのが一般的だったが、その効力は薄れてきている。学生が進路や連絡先を大学に伝えないまま卒業するケースが増えたり、個人情報保護法の影響で卒業生の個人情報を集めない大学も出てきたりしている。一橋大学の「如水会」のような強力な卒業生組織を頼れる学生も全体からみれば限られるだろう。

結果として、「多くの学生がOB訪問をしたほうがいいと思いながら、実行に移せるのは全体の2割にとどまる」(谷出氏)のが実情だ。この比率を引き上げ、企業と「相思相愛」の関係を築ける学生をいかに増やすか。伊藤忠などの取り組みは、この問いかけに対する有効な回答になる可能性を秘めているともいえそうだ。

(岩崎航、夏目祐介)

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