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地震ルポ 誰も報道しなかった「俵山トンネル崩落現場」

日経コンストラクション
マグニチュード(M)7.3を記録した熊本地震の本震から1週間がたった2016年4月23日、筆者は日経コンストラクションの取材班第2陣として、熊本県西原村にいた。構造物被害の全貌が次第に明らかになるなか、一つだけ一般の報道では確認できない被害情報があった。西原村にある俵山トンネルの「崩落」だ。

本震後、阿蘇大橋の崩落と同じく、俵山トンネルの被害も何度か耳にしたが、現場の状況を映像や写真で見る機会はなかった。崩落と一口に言っても、被害状況は様々だ。覆工コンクリートの表面がはく落したのか、トンネルが圧壊したのか、現地入り当初は詳細が全く分からなかった。

自分の目で被害状況を確かめるために、4月23日は早朝から俵山トンネルのある県道28号へ向かった。トンネルのかなり手前で車は通行止めになっていることは、事前の情報で明らかになっていた。

県道28号の車両通行止め付近に到着してからスマートフォンで調べると、俵山トンネルまでは6km以上ある。「往復12kmか…」。県道28号は阿蘇の外輪山を越えて南阿蘇村へ抜けるルートのため、登り勾配だ。かなり骨の折れる"登山"になるが、ここまで来たら行くしかない。覚悟を決めて、午前7時20分に俵山トンネルを目指して出発した。

引き返してくる報道関係者

歩き始めてすぐに、前方からこちらに戻って来る3人組の姿を確認した。報道関係者と見られる彼らに道の先の様子を聞いたところ、「橋と道路の間が大きく開いている場所がある。危険だから引き返してきた」と答えた。

俵山トンネルの被害状況も聞いてみたが、「我々も気になっているが、分からない」という言葉を残して去っていった。

県道28号は、構造物の被害が集中する道路として、既に専門家が指摘していた。その理由の一つが、付近を走る布田川断層帯だ。産業技術総合研究所の活断層データベースによると、県道28号に沿うように布田川断層帯が走っている。土木学会の緊急調査でも、県道28号沿いの橋梁被害が数多く報告されていた。

出会った報道関係者の指摘を受け、「俵山トンネルまで本当にたどり着けるのか?」と、出ばなから不安が募る道行きとなった。

彼らと別れてからしばらく歩くと、「道路と橋の間に大きな隙間が生じている場所」にたどり着いた。大切畑大橋だった。

ジョイント部に段差が生じ、桁が大きく揺すられていた。桁の荷重を橋台に円滑に伝えるゴム支承が破断している。それでも桁が落下しなかったのは、落橋防止装置が働いていたからだった。

大切畑ダムは緊急排水

決死の思いで壊れた橋を渡り、さらに歩き続けていると、地震の影響で決壊の恐れがあった大切畑ダムが見えてきた。

ここでは農林水産省から委託を受けた調査会社が、現況を調べていた。調査会社の人の話では、ダムは地震直後から緊急排水を実施しており、筆者が立ち寄った時点で水位はかなり低下していた。

次に目に飛び込んできたのが、白い主塔がそびえ立つ斜張橋、桑鶴大橋の被害だ。桁端部に大きな損傷が見えたほか、鋼製支承が破損していた。

1時間30分で目的地へ到着

さらに歩を進めると、道路を塞ぐような土砂災害や橋の被害などに次々と遭遇した。

被害に出くわすたびにできるだけ様々な角度から時間を掛けて写真を撮っていたが、そのうち、あまりの被害の多さに「これではらちが明かない」と感じ、とにかく先を急ぐことにした。

そして出発から1時間30分。ようやく俵山トンネルに到着した。産業技術総合研究所の活断層データベースを見ると、トンネルの前面を活断層が走っている。その影響かどうかは不明だが、道路に亀裂や崩落跡が見られた。

覆工コンクリートが崩落

俵山トンネルの中を坑口からのぞくと、覆工コンクリートのひび割れを発見した。下には少量のコンクリート片が散乱していた。

視線をトンネルの奥にやると、コンクリートの塊がトンネル内に散らばっているのがうっすらと確認できた。近寄ってみると、覆工コンクリートの表層はく落という規模ではなく、比較的大きな塊が崩落していたのだ。

正確に確認したわけではないが、覆工コンクリートのずれはないように見えた。今から振り返ると、もっとしっかりと確認すれば良かったのだが、余震が来たらトンネルがつぶれはしないかという恐怖心に負けて、坑内では長居しなかった。周囲の静寂感と吹き抜ける風が、恐怖心をさらにあおった。

4月26日時点で、俵山トンネルは復旧のめどが立っていない。県道28号はトンネルだけではなく、橋桁の損傷や道路の陥没など、様々な構造物の被害が尋常ではない。今回、自分の足で歩いて実感した。

土砂災害などの被害が大きかった南阿蘇村へ向かうには、現状では南を走るグリーンロードを使って大きく迂回しなければならない。南阿蘇村へショートカットできる県道28号は、一刻も早い復旧が望まれるが、その道のりは険しいだろう。

この日(23日)は、午前中に南阿蘇村へ向かう予定にしていた。「トンネルを抜ければ、南阿蘇村は目と鼻の先なのに」と思いながらも、来た道をたんたんと歩いて戻るしか手段はない。車の止まる出発地点まで戻ると、結局、徒歩で3時間弱の行程だった。

(日経コンストラクション 真鍋政彦)

[日経コンストラクションWeb版2016年4月27日付の記事を再構成]

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