生活に入り込む仮想現実、身近に体験施設

15日、東京・台場。バンダイナムコエンターテインメントは商業施設「ダイバーシティ東京プラザ」の一角に日本初のVR専用施設「VR ZONE Project i Can」を開業した。入場は予約制。公式サイトでは1カ月先まで予約可能だが、開業日から連日の満員御礼が続く。午前0時の予約開始から2分で定員に達してしまう日もある。
映像に合わせ、イスを動かす
地上200メートルで子猫を救出する「高所恐怖SHOW」、JR山手線の運転手になって東京~新橋間を走行する「トレインマイスター」など体験できるコンテンツは6種類。1回あたりの利用料金は700~1000円。映像に合わせてイスを動かしたり、床に置いた木の板をわずかに傾かせたりして、仮想空間を文字通り「体感」できる仕掛けが満載だ。


ヘッドマウントディスプレー(HMD)と呼ばれる専用機器を頭部に装着する。HMDは眼前をすっぽりと覆うゴーグル型の機器で、側頭部のゴムバンドをきつく締めてしっかり固定する。ヘッドホンをかければ、意識は仮想世界に入り込む。
「心臓は弱くないですか? 本当に大丈夫ですか?」。廃虚の病院でゾンビ(?)に襲われるホラーコンテンツ「脱出病棟Ω」。体験前の意思確認が執拗なのは、怖すぎて叫んだり、泣き出したりする人が後を絶たないから。同僚と訪れた女性(26)は開始直後にリタイア。青ざめた顔つきで「お化け屋敷よりも怖い」とつぶやいた。
「大音響で友達と会話もできないゲームセンターではなく、オシャレな大人の遊び場にしたかった」。VR ZONEの小山順一朗所長は店内を見回しながら話す。店内はグレーや白の落ち着いた色彩で装飾し、BGMも控えめだ。くつろいで談笑できるテーブルも置いた。「カップルの来客が多い。外国人観光客も目立つ」と小山所長はにっこり。妻と訪れた男性(49)は「家の近くにあれば通ってしまうかも」と話していた。
グランドの野球選手気分
VRで野球の新しい楽しみ方を提案するのは横浜DeNAベイスターズ。今シーズンから本拠地「横浜スタジアム」(横浜市)の一部座席にVR映像を視聴できる機器を置く取り組みを始めた。
特殊な機材で撮影した練習風景などの映像を順次配信している。視聴した20代女性は「今までに見たことない映像だった。野球選手になってグラウンドに立っている気分」と興奮気味だった。テレビやネット動画では伝えられなかった野球の魅力を表現したり、新しい野球の見方を発見したりできるのがVR。球団ではVRで視聴してみたい映像のリクエストを募集中だ。

日本複合カフェ協会の主導で実現したのが、街中の複合カフェでVRを体験できる「VRシアター」だ。システム開発のインターピア(東京・渋谷)などと協力し、まずは関東地域の31店舗に合計100台近いゴーグル型のVR機器を設置した。1回600円で人気アニメ「進撃の巨人」の世界に入ったかのような感覚が味わえる特別映像を視聴できる。
早稲田大学の学生でにぎわう「自遊空間 ビッグボックス高田馬場店」はVR機器を4台導入した。2週間で約100人が、巨人に立ち向かう「調査兵団」になりきって戦った。複合カフェは漫画やダーツなどのエンターテインメントを詰め込んだおもちゃ箱のような場所。運営会社ランシステムの日高大輔社長は「VRとの相性は非常に良い」と話す。
もっと手軽にVRを体験する方法もある。段ボール紙で簡易なHMDを作るハコスコ(1200円~)だ。理化学研究所で脳科学を研究する藤井直敬博士がベンチャーのハコスコ(東京・渋谷)を通じて販売する。のりやはさみがなくても5~10分で組み立てられる。手持ちのスマートフォン(スマホ)でアプリをダウンロードし、VR映像を再生する。「日常生活で使える技術が広がる。1人1台持っているスマホを利用するのが一番普及しやすい手段」(藤井氏)
このまま技術が進歩すれば、「VRが現実と地続きになり、嘘(仮想)と真実の判断ができなくなる」と藤井氏は予言する。VRは、「トロン」や「マトリックス」など未来社会を描いた映画の題材になってきた。現実がSFを追い越そうとしている。
(企業報道部 新田祐司)
[日本経済新聞夕刊2016年4月30日付]
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