里山暮らし、訪日客誘う 京都・京北地域(まちは語る)
かやぶきの宿人気 過疎化に一手
かつて京都市北部に隣接していた過疎の町「京北町」は2005年、京都市に編入され右京区の一部となった。その京北地域が今、訪日外国人(インバウンド)の心をじわりとつかんでいる。市中心部にはない里山の風情を感じられると、農家民宿の宿泊客が増えてきた。寺社などで使われる和ろうそくの原料栽培も始まった。京北の風景が静かに変わり始めた。

3月下旬、観光客らでごった返すJR京都駅から路線バスに乗り、約1時間半、山道に揺られると終点の周山駅に着く。そこには外国人観光客の姿があった。彼らの目的地は築150年になる、かやぶき屋根の農家民宿「徳平庵(とくへいあん)」。一目見るや驚き、カメラを構えた。
地元食材で鍋
宿泊者の9割以上は外国人客というこの民宿を夫婦で切り盛りするのは植田秀男さん。「日本の文化を理解してくれる人がほとんど」と話す。徳平庵は植田さんの生家の古民家。昨年7月に農家民宿の認可を受けた。
全国各地には千を超す農家民宿があるが、京都市内は数えるほど。
ここの料金は2人で1泊約2万円からだ。インターネットを通して宿泊者を募り、これまで欧米人など100人以上の外国人客が訪れた。口コミで噂が広がり4月は予約でほぼ埋まった。
外国人客には里山文化に触れる体験は貴重。植田さんが「宗教上の問題がなければ先祖をまつった仏壇に手を合わせてあげてください」と話すと「僕がやってもいいですか」とうれしそうに返事をした。夕食は畑の野菜や山で採れたキノコなど京北の食材を使った鍋を囲むことが多いという。
ただ、それでもこの地域が魅力を外に十分アピールできているとはいいがたい。京都市に編入された際、観光協会がなくなったのも一因だ。

京北で地域振興イベントなどを手掛ける一般社団法人「里山デザイン」の中山慶さんは「外部とどうつなぐかが問題だ」と指摘する。「日本の暮らしの中にどっぷりつかりたい外国人は多い」(中山さん)と、京北の魅力を発信するウェブサイトを立ち上げた。
商工会も動く。近く地元の人々の暮らしを英文で紹介する訪日客向け冊子を発行する。寸田寿事務局長は「体験型の観光を推進したい」。
新産業も芽吹く
新たな産業も芽吹き始めた。林業が衰退する中、市や地元農家らが寺社で使われる和ろうそくの原料「ハゼ」の栽培に乗り出した。3月下旬、京北上弓削町の農地でハゼの成木3本を産地の和歌山市から移植した。
市内の伝統工芸職人らは昨年8月、製ろうを手掛ける「JAPAN WAX KYOTO 悠久」(京都市)を設立。宇野原貴夫社長は「京都で使うろうそくの原料を京都で生産する『地産地消』の取り組みだ」。
製ろうをする人材育成も進め17年には設備を整える。同社は毎年1000~3000本のハゼを育苗していく方針。京北農林業振興センターの三嶋陽治所長は「耕作放棄地を活用すればハゼを栽培できる」と話す。
ハゼの木は美しく紅葉することで知られる。京北地域の紅葉は例年11月中旬に見ごろを迎えるがハゼは10月初旬という。紅葉シーズンが長くなれば観光資源になると、地元では期待が膨らむ。
(京都支社 浦崎健人)
豊かな自然、活性化のカギ
京北地域は93%を森林が占める里山だ。古くから林業が盛んで北山杉の産地として知られ平安京の造営以来、洛中の住宅や寺社の木材供給地「御杣御料地(みそまごりょうち)」として発展した。

2005年に京都市に編入されてからは京北トンネル(延長約2キロメートル)も開通し交通の便は改善されたが過疎化は歯止めがかかっていない。
65歳以上の高齢者の割合を示す高齢化率は、京都市の平均を大きく上回る41.2%に上る。今後も人口減少は続くとみられ、15年3月に5167人いた地域の人口は50年後には1000人を下回ると推測される。
農林業は担い手不足や長引く木材価格の低迷などから衰退している。そんな中、16年3月に「京都丹波高原国定公園」の一部として京北地域が指定されるなど追い風も吹く。寺社巡りとはひと味違う体験をしたい外国人観光客にとって「自然あふれるKYOTO」は斬新だろう。いかに強みを生かすか。それが地域活性化のカギになる。