高知・大川村、「消滅危機」からの反攻 若者誘致に知恵 - 日本経済新聞
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高知・大川村、「消滅危機」からの反攻 若者誘致に知恵

高知市から車で北へ1時間半、山とダム湖の間を走り続けた先に高知県大川村がある。川べりや山あいのわずかな平地に家々が点在する。人口は昨年10月に400人を切った。離島を除けば全国最少の自治体だ。

谷真吾さん(27)は5年前、故郷の滋賀県からこの村に移り住んだ。今は大川村ふるさとむら公社の職員として、水路の管理からキャンプ場の手伝いまでこなす。

中学生の時、ぜんそく治療で大川村に山村留学し「静かで居心地がいい」と魅力を感じた。高専卒業後は地元にある大手企業の工場に勤めていたが、公社の募集を聞き、迷わず移住を決めた。

銅鉱山で栄えた大川村の人口は、1960年には4100人に達した。やがて鉱山は閉鎖、早明浦ダム建設で主な集落が水没し、70年代中盤に1千人を割った。このまま行くと2060年には200人を切る見込みだ。

だがここ数年、村の呼びかけに応じて少しずつ若者が移り住むようになった。都会育ちの若者には豊かな自然が魅力的に感じられる。14年度には3人の10~20代が移住した。高齢化率が40%を超す大川村には大きな数字だ。谷さんは「ゆくゆくはこの地で家庭を持ちたい」と夢を語る。

「何が何でも400人の人口を守る」。大川村は2015年8月に定めた地方版総合戦略で目標を掲げた。若い世代を呼び込んで、現在の水準を保つことを狙う。

秘策の武器がある。特産の「土佐はちきん地鶏」だ。身が締まり味が濃い。東京にも出荷され、14年度の出荷数は約6万羽に達する。村が毎年11月に開く「謝肉祭」には同じく特産の「大川黒牛」と並ぶ目玉として多くの観光客を呼び寄せる。

村は15年度にはちきん地鶏を飼育する第三セクターの鶏舎整備などに1億7千万円をかけた。村の予算の1割近い額で、財源面では県も支援した。出荷数を17年度に12万5千羽と倍増させ、新たに12人の雇用を生み出すことを目指す。「特産品を生かした地域活性化策で活気を取り戻す」。和田知士村長(56)の言葉に力がこもる。

谷さんのような若者が増え、村民の意識も変わりつつある。2月20日、村の地域作りのフォーラムには全人口の8分の1に当たる男女52人が参加した。和田村長は「かつては考えられなかった状況」と期待する。

四国は本州からのアクセスが悪く、平地が少ない。雇用創出に欠かせない企業誘致などで多くのハンディを抱え、人口減の現状は厳しい。

4県は国立社会保障・人口問題研究所のデータなどに基づき将来人口を推計した。何も手を打たなければ、60年時点の人口は各県とも今より4~5割減る。だがアイデア次第では流れに歯止めをかけることができる。

人口1500人余りの山あいの町、徳島県上勝町。環境保全とごみ処理による財政負担軽減のため、03年に「完全にごみゼロ(ゼロ・ウェイスト)」を掲げ排出削減を進めてきた。これを町のブランドに育てる動きが活発になっている。

昨年6月には町内に、エコをテーマにした地ビール工房が開業。果汁を搾った後の果実の皮を香り付けに使ったビールの風味や店のデザイン性の高さが受け、県外客で平日からにぎわう観光スポットになりつつある。

香川県東かがわ市。過疎が深刻になる中、住民が結集して人を呼び寄せる地域がある。合併前に旧村だった五名地区で、158世帯319人が住む。約10年前の小学校廃校に危機感を持った地元有志らが団結して五名活性化協議会を設立、地元の祭りを中心にした活性化に取り組んでいる。

四国は全国の課題を先取りしている。各地の試みが実を結べば「四国モデル」として他地域の処方箋となりうる。

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