空き家、災害時に立ち入り可能に 世田谷区が条例案
東京都世田谷区は老朽化し倒壊などの危険がある「空き家」対策で、自然災害など緊急時に行政の立ち入りが可能となる独自条例を制定する方針を決めた。家の内外がごみであふれ悪臭や害虫の原因となる「ごみ屋敷」対策でも同様に条例化する方向だ。住民の苦情や相談が増える中、法律に上乗せし柔軟に対応できる体制を整える。2016年2月に条例案を提出、4月の施行を目指す。
空き家対策を巡っては特別措置法が5月に全面施行。危険な空き家に対し区市町村が持ち主に除去や修繕などを命令し、場合によっては代執行で撤去することを認めた。ただ、調査や指導など施策は長期にわたる。代執行までいたる例は少なく、その間の緊急事態には対応が難しかった。
災害時などに行政の柔軟な対応を可能とする条例を求める声は多く、世田谷区では空き家対策条例の素案をまとめた。
素案では区の施策として「緊急措置」を明記した。災害時などに空き家が原因で生命、身体、財産に危害が生じるおそれがある場合、区は独自に立ち入りできるようになる。具体的には空き家にネットを張ったり、壁や屋根など家屋の一部を一時的に移動したりする。
所有者に代わって空き家を管理する「安全代行措置」も定めた。所有者の依頼で区ががれきの撤去などに取り組むが、費用は所有者が負担する。
特措法による代執行や命令は憲法上の財産権が関係する問題のため、区による「審査会」で可否を慎重に議論したうえ、区が対策に乗り出す。条例上の緊急措置は「行政としての必要最小限の対応を急いで行う」(保坂展人区長)ため、所有者や審査会へは事後報告とする。ただ、審査会を構成する法律や建築の専門家には、電話で緊急に相談する体制は整える。
世田谷区はごみ屋敷対策でも条例を制定する方針で素案ではまず、住んでいる人に清掃用具の提供などで支援する。ごみ屋敷が発生する原因には生活意欲の低下なども考えられ、医療や福祉関連も含めた総合的な支援にも取り組む。
状況が改善されず地域住民の生活環境への悪影響が看過できない時は区が居住者に代わり清掃に当たる。居住者がため込んでいる物品を「ごみ」と認めないケースも多く、支援の是非は審査会で慎重に議論する。
総務省の調査では東京都内の空き家は最新の13年で約81万軒。高齢化などに伴い急増しており、最大の人口を抱える世田谷区内だけでも5万2000軒に達する。
都内では特措法施行前に大田区や墨田区が独自条例を制定し、空き家の代執行に取り組んだ例がある。足立区は老朽家屋の撤去を進めるため、区が認めた場合、工事費の大半を補助している。
ごみ屋敷問題では足立区などが先行して対策条例を制定している。