三菱重工、大型客船引き渡し再延期 造船再建遠く

2015/8/6付
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三菱重工業が5日、9月に予定する大型客船の納入を延期すると発表した。2度目の延期で納入時期は未定だ。建造の遅れで既に受注額を超す1300億円強の特別損失を計上しており、追加損失の懸念もある。赤字の商船部門を10月に分社するなど造船のテコ入れを図る矢先の失態。祖業再建の汽笛は遠くに響く。

対象は世界最大のクルーズ客船会社、米カーニバルから2011年に受注した約3300人乗りの船だ。同社傘下のアイーダ・クルーズ向けで受注額は2隻で1千億円。長崎造船所で建造中で、1番船の遅れは2番船の進行にも影響しそうだ。

「寝耳に水です。連絡も来ていません」。10月1日入港予定の1番船の受け入れ準備をしていた横浜市港湾局の担当者は5日昼、三菱重工の発表を知って絶句した。

同社は14年10月に、設計変更のため引き渡しを当初の15年3月から9月に延期すると公表。今年5月には鯨井洋一副社長が「設計上の課題はおおむね解決した。顧客からもよい評価をもらった」と胸を張っていた。

再延期について三菱重工は「両社で協議して品質を高めるために延期を決めた」と話すだけで詳細を明らかにしない。アイーダの発表文には「三菱重工が間に合わないと発表した」とあるだけだ。

アイーダは1番船を使ったクルーズの受け付けを始めており、5月以降に仕様変更や機器追加の要求はしていないようだ。客船にとって重要な快適性などで同社の要求水準を満たし切れていなかった可能性がある。

今回のクルーズ船は三菱重工にとって約10年ぶりの客船建造で、受注当時「日本で建造できるのは当社だけ」と意気込む案件だった。だが設計変更などで費用が増え3回にわたって特損を計上。その累計額は、同社が16年3月期に見込む純利益(前期比18%増の1300億円)に匹敵する。

納入延期で4千人を投入してきた人件費などコストがさらに膨らむ。違約金などは「現在協議中」(三菱重工広報部)だ。16年3月期には500億円の構造改革費用枠を設けている。追加損失を計上してもこなす余裕はあり「影響は軽微」(同)という。だが信用が傷つくことは避けられない。

三菱重工の造船事業(艦艇を除く)の主力は液化天然ガス(LNG)船など商船。だが「高コスト体質」(幹部)で赤字が続き、10月に商船部門を2社に分社して競争力を高めようとしている。客船は本体に残るが、造船再建の足かせになりかねない。SMBC日興証券の大内卓シニアアナリストは「高い授業料を払った。(客船の)撤退も視野に入れるべきではないか」と指摘する。

三菱重工は火力発電システム事業の日立製作所との統合やフォークリフト大手の買収など、M&A(合併・買収)で成長加速をめざしている。だが攻勢の陰で客船のようなリスクも顕在化しつつある。ジェット旅客機「MRJ」は初飛行を4度延期。米国では原子力発電所事故に絡み巨額の損害賠償を求められている。

「リスク対応力も高めなければならない」。宮永俊一社長がかねて強調してきた課題が今、眼前に突きつけられている。(岩戸寿、関口慶太)

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