星野、リゾートだけじゃない 都市型ホテル事業に進出
高級旅館などを手掛ける星野リゾート(長野県軽井沢町)が都市型ホテル事業に進出する。27日、金沢市や広島市の中心部にある「ANAクラウンプラザホテル」4棟を計約400億円で取得したと発表した。従来の富裕層を狙った温泉地や景勝地の旅館に加え、交通の便が良く手軽に観光を楽しめる都市部のホテルでファミリー層も取り込み、新たな収益源にする。

ほかに福岡市と富山市のホテルを取得。いずれも金沢駅、博多駅などターミナルから徒歩10分程度の圏内だ。客室数は約250~400あり、地域で上位ランクに入る。
ANAクラウンプラザホテルは旧全日空ホテルが多く、全国17カ所ある。星野リゾートはこのうち米国系投資ファンドが持つ4棟を手に入れた。
「数年前から都市部でのホテル事業を計画していた。ファンドが売却するという話を聞き、好機だと思った」。星野リゾートの星野佳路社長は同日、日本経済新聞の取材にこう明かした。「都市型ホテル事業の第1弾に位置づける」とし、今後は仙台や名古屋、札幌などへの出店を検討する。
街歩きにニーズ
星野リゾートはこれまで本拠の軽井沢をはじめ箱根、熱海、京都など日本情緒豊かな立地で手厚い接客サービスを売り物にしてきた。部屋数も抑え、高級感と希少性を演出してきた。その同社が都市型ホテル事業に乗り出すのはなぜか。
「温泉宿には『連泊しにくい、畳が合わない』という声もある。そうした消費者を取り逃がしている」。落ち着いた雰囲気を味わう高級旅館に子供連れでは訪れにくい。星野社長には「観光客が温泉地の旅館から都市部のホテルにシフトしている」との危機感がある。
朝夕に旅館で豪華な食事をするより、街中のレストラン巡りを楽しみたいというニーズもある。ホテル取得に当たって星野リゾートが独自に調べたところ、「ビジネスホテルの利用者の5割超は観光客だった」(星野社長)という。都市型ホテルは今後も伸びる余地があると判断した。
高級+値ごろ感
観光庁によれば2014年度の主要旅行会社の国内旅行取扱額は13年度比2%増えた。訪日観光客増加もあり旅行需要は堅調だ。温泉旅館は1泊3万円程度するが、地方都市のホテルなら1万円台でも高級感を保ちつつ値ごろ感も打ち出せる。
取得したホテルは当面、従来通りIHG・ANA・ホテルズグループジャパン(東京・港)が運営する。星野リゾートには宴会場やレストランなどの運営経験が乏しい。経営に関わりながらノウハウを吸収する。
そのうえで「適当なタイミングで星野リゾートが自ら運営する」(星野社長)形に切り替える。既存の旅館ブランドなどに都市型ホテルに合うものがないため、新ブランドも視野に入れる。
星野リゾートが運営する施設の14年の取扱高は13年比8%増の392億円だった。取得したホテルはビジネス利用もあり一定の稼働率を計算できる。また保有する旅館などを系列の不動産投資信託(REIT)に売却して資金調達する手段もある。それでも400億円の投資は軽くはない。
都市部の宿泊市場は外資系も含め価格・サービス競争が激しい。これまでと違う顧客層を楽しませる仕掛けを編み出せるか。新たな試練に挑む。(飯島圭太郎)