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水産進化論 ヘリ・GPSで魚群探して効率操業

ハイテク化が進み始めた水産業の現場。最先端技術で効率や品質を引き上げているのは養殖だけではない。天然の魚を獲(と)る時も技術を駆使すればチャンスを逃がさず、着実に獲物を手にできる。新鋭技術は漁の最前線でも光を放つ。

バタバタ――。音を立てながらヘリコプターが大型船の後部に着艦する。海上保安庁の巡視船さながらの光景だ。だがこの船は極洋が27億円を投じ、グループ会社の極洋水産が2009年に導入した大型カツオ漁船だ。そしてこのヘリコプターは魚群を探すための「目」の役割を担っている。

船の名前は「第7わかば丸」。水産庁から大型船の試験操業許可を受けて建造された新鋭船だ。

魚のとりすぎなどを防ぐため、日本では建造できる船のトン数が制限されている。日本で一般的な船は349トンで、第7わかば丸はその2倍強の760トンだ。世界では標準的な大きさだが、日本船籍で同様の船は第7わかば丸を含めて2隻だけという大型船だ。

主にパプアニューギニアなど南洋に出向いてカツオをとり帰港する。航海は1回3~4週間程度で、年間8~9回繰り返す。

巨大な網を魚群の周囲に張り巡らせ、網をどんどん狭めていく漁法。最後は魚をすくい上げて船の冷凍庫に詰め込んでいく。一度の航海で1億円以上の魚を水揚げする。水揚げしたカツオはかつお節原料などになって食卓に上る。

「こちらの魚群は50トンいるようだが、あちらには100トン以上いるようだ」――。ヘリの助手席から乗組員が目視で魚群を確認し、本船に連絡する。ヘリは天気が良ければ1日に3~4回ほど出動し、魚群の場所を確認しに洋上を飛び回る。

魚群の上には鳥が群れる「鳥山」ができることが多いが、船のレーダーで鳥山を探せる範囲は約30マイル(1マイルは約1.6キロメートル)まで。ヘリならより遠くまで探査できる。また衛星などから仕入れた水温や海面の高低などの情報からも魚群を見つけ出す。通信長の松川繁義氏(66)は「上空から海を見ると魚群があるか無いかが一目瞭然。水平線上から探すのとは情報量が全く違う」と語る。

操業中の外国船も監視対象。何隻か集まっていると魚群がいる可能性があるからだ。

外国船に魚群があるか無線で聞いてもわざわざライバルに親切に教えてくれるはずはない。ヘリを使えば、船団の真上に行って魚群があるかどうかを確認ができる。松川氏は「まるで偵察機のような使い方をしている」という。

ヘリは時速100ノット(1ノットは1.8キロメートル)で魚群があるとみられる場所に急行できる。一方で船は時速15ノット程度で航行するので、ヘリは約7倍の早さで魚群があるかどうかを見に行ける。船で向かうと時間がかかるだけでなく、燃料も消費してしまうため非効率だ。

ヘリの維持には年間4000万~5000万円かかるほか、航海に同行する専属のパイロットや整備士も雇わなければならない。ヘリの予備部品も必要だ。だが外国船ではほとんどの船にヘリが搭載されている。松川氏は「ライバルと同じ力量の船頭がいるのなら、ヘリを搭載していないと戦いにならない。情報量が格段に違う」(松川氏)。搭載のためのコストを補ってあまりあるという。

日本の巻き網漁船はトン数制限で大型化できないため、速力や積載量、魚群探査などの面で海外の船に大きく後れをとっている。また海外での入漁に係る経費は00年代初めには年間2千万円程度だったが、13年には1億円を超えさらに上昇している。コストが急激に上昇するなか、日本の遠洋漁業は経済性の改善が急務となっている。

取締役事業部長の川本太郎氏は「海外巻き網漁の環境は急変しており、日本船は収益性を高めないといけない」と危機感を強める。

第7わかば丸の売上高は従来主力だった第5わかば丸の3割増となり、年間売上高は国内船の中で何度も1位になった。川本氏は「漁労長の腕にヘリと船の効率性が加わった成果」と語る。大型船の導入が収益性向上への有効さを示している。

極洋水産のハイテクを駆使した飛び道具はこれだけではない。

全地球測位システム(GPS)を使った「動く漁場」の割り出しだ。

動く漁場とは流木とその周辺域。大きな漂流物は魚がよくすみ着くため格好の漁場となる。だが大海原を波風に揺られて移動し続けるため、その場所を正確に把握することは難しい。従来はラジオ電波を発信する機器を漂流物に付けて位置を把握していたが、船から漂流物までのおおよその距離と方角しかわからず、正確さに欠けていた。

GPSを使えば狂うことはない。GPSを内蔵したブイを漂流物に取り付け、衛星経由で正確な現在地を割り出す。ブイは透明な半球状で、内部に設置されたソーラーパネルが発電して稼働用の電源を確保している。

ブイの設置にもヘリが活躍する。水面から2~3メートルの所まで下降し、脚部に設置したモリを漂流物に打ち込む。モリにはロープとブイがついており、漂流物と一緒に漂う。ボートを母船からわざわざ降ろすよりも短時間で作業を終えられる。

新興国需要の高まりなどで海外との資源獲得競争は厳しくなるとみられる。水産業は旧来型の仕組みもまだまだ残り、技術革新はこれからが本番だ。漁業コストが高い日本勢にとって、絶え間なく最新技術を生み出し、活用し、発展させていくことが勝ち抜くための必須条件となりそうだ。(宮住達朗)

〔日経産業新聞2015年3月3日付〕

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