LINEがタイで金融 生活インフラ、日本に先行
無料対話アプリのLINEがタイで「生活インフラ」としての役割を強化しようと新たなサービスに乗り出した。金の積み立て投資サービスを始めたほか、決済機能など金融部門に力を入れる。タイでは利用者が4100万人に上り、日本に次ぐ規模に成長した。金融など多様なサービスを日本などに先んじて導入し、タイ発のサービスを世界に展開する考えだ。

「LINEを通じて、より簡単に金を購入できるようになる」。LINEタイ法人のアリヤ・パノムヨン社長は今月24日、タイで金の積み立てサービスに参入することを発表する記者会見でこう述べた。世界に事業展開するLINEだが、同サービスを導入するのは初めてだ。タイで成功すれば、他の東南アジア諸国などへ"移植"するモデルとなるとみられる。
地場の貴金属売買大手フアセンヘンと組む。最少1000バーツ(約3300円)から金を買うことができる。24日段階では1000バーツで金0.75グラムの積み立てだ。金の量が3.75グラムを超えるとフアセンヘンの店舗で現物と引き換えられる。
銀行などでの貯蓄率が低いタイでは金への投資が人気だ。調査会社トムソン・ロイターGFMSによると、15年の金の現物投資ではタイは中国などに次ぎ、世界4位だ。
米ニールセンの調べでは、タイのLINE利用者数は4100万人に上り、世界で2番目に多い。また、タイの人々はLINEを含む交流サイト(SNS)好きで知られ、利用時間も長い。LINEはタイで何をするにも使う「生活インフラ」を担いつつある。その役割を強化しようとサービス多様化に乗り出した。

金融分野では株価などの情報提供に続き、首都バンコクで都市鉄道を運営するBTSグループ・ホールディングスとともに、改札で運賃支払いに使えるICカードのスマホ版も年内に導入する。
また、決済機能を利用したタクシー配車サービスも年内に始める。バンコクのタクシーの6割に当たる6万台をカバーするバンコクタクシー協同組合と提携する。タイでは配車で先行する米ウーバーテクノロジーズやシンガポールのグラブよりも大きな配車網を築く。
バンコクでは乗車拒否したり法外な料金を要求したりするタクシーが後を絶たない。ウーバーやグラブは透明な料金制度で人気が高まっており日本よりも普及する。予約確認にLINEの通話機能を使うなど既存サービスとの融合を図る。
年内にはバンコクのショッピングモールにLINE初の遊戯施設も開業する。仮想現実(VR)を使ったアトラクションが目玉だ。キャラクター好きなタイ人向けに、認知度の高いLINEスタンプのキャラクターを前面に押し出す。アリヤ社長は多様なサービス導入し、「サービス同士の相乗効果を狙う」と語る。
タイは日本に比べ規制や許認可の面で新サービスを導入しやすい。またタイ法人はLINE完全子会社とタイ企業による合弁会社で、日本側は5割を出資するが、サービス開発はほぼ現地の裁量で進めており、経営のスピード感がタイ事業の勢いにつながっている。対話アプリの圧倒的な利用者数を背景に、幅広いサービスで利用を増やし、人々の生活に深く根付いた基盤として事業のさらなる拡大を目指す。
(バンコク=岸本まりみ)
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