米、通商で対中圧力 大統領が調査指示、北朝鮮問題で焦り
【ワシントン=河浪武史】トランプ米大統領は14日、中国による米企業の知的財産権の侵害を批判し、制裁措置も視野に対中貿易の調査開始を指示した。米政権は北朝鮮の核・ミサイル問題に焦りを強め、同国に影響力を持つ中国への圧力を強める。日本政府は対中国の知的財産権問題で連携を探る一方で、通商政策での強硬姿勢を懸念する声もくすぶる。

休暇先のニュージャージー州からホワイトハウスに一時的に戻ったトランプ氏。「選挙公約を実行する。知的財産権の侵害は、年間で数百万人の雇用喪失と数十億ドルの損失をもたらしている」と力説し、米通商代表部(USTR)に指示した。
トランプ氏が書面で明らかにした調査対象は、中国の知的財産権侵害と技術移転要求だ。最先端のIT(情報技術)産業やコンテンツ産業を抱える米国にとって、特許技術や著作権の保護は最重要課題。日欧も足並みをそろえて中国の知財侵害を長年批判してきた。
日本政府内では米国の調査が技術移転要求の商慣習を対象にした点を「踏み込んだ内容」(経済官庁幹部)との分析がある。中国は第4次産業革命を通じて2025年までに「製造強国」になる目標を掲げる。日本側は「中国が目標に沿って技術取得を加速させる」と警戒し、米国の調査が不正な技術流出に歯止めをかけるとの期待がある。
米中関係を揺さぶるのは北朝鮮だ。米政府高官は「今回の対中調査と北朝鮮問題は全く関係ない」と反論するが、北朝鮮への影響力を持つ中国に、通商面で圧力をかける狙いは鮮明だ。
実際、当初、対中調査の発表は4日を予定していた。それが国連安全保障理事会で中国が制裁強化に賛意を示すと、一転して発表を延期。その後に北朝鮮がグアム沖へのミサイル発射計画を発表すると、トランプ氏は休暇を中断して14日にワシントンに戻り、結局、調査開始を発表した。

調査は制裁措置を含む通商法301条の適用を視野に入れる。USTRが中国の知財制度を「クロ」と判断すれば、中国製品の関税引き上げなどを検討する。ただ、米政府高官によると、今回の調査には1年程度かかる可能性があるという。
通商法301条は一方的な輸入制限を禁じる世界貿易機関(WTO)ルールに抵触しかねず、WTOが発足した1995年以降は制裁発動に至った例はほとんどない。トランプ政権が通商面で制裁をちらつかせつつ、中国への「脅し」にとどめる可能性も否めない。
トランプ政権は鉄鋼の新たな輸入制限の7月実施を検討してきたが、発動を見送ったまま。一時は中国を為替操作国に指定するともしていたが、米財務省はこれも見送っている。同政権は通商や為替政策を交渉材料と位置づけており、発動の可否は見通しにくい。
北朝鮮情勢は日米などの株価下落につながり、経済面での最大の懸念材料となってきた。トランプ政権が通商や通貨を材料に北朝鮮問題を解決しようとすれば、貿易や為替など民間経済への地政学リスクはさらに重くなる。トランプ氏の通商政策は、保護主義にとどまらないリスクをはらむ。
日本政府内では、WTOルールに抵触しかねない米の制裁発動には懸念の声が出ている。自由貿易推進の立場で支持するのは難しいからだ。トランプ政権は日本にも貿易赤字削減を求めており、強硬姿勢の広がりへの警戒もある。北朝鮮情勢が見通せないだけに「情勢を見守るしかない」(財務省幹部)という状況だ。