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宝HD、バイオ投資40年の先見(フォーカス西日本企業)
初の遺伝子治療薬に挑む

2017/8/3 23:41
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「宝焼酎」などで知られる宝ホールディングス(HD)。江戸期から続く酒類に次ぐ収益の柱に成長しつつあるのがバイオ事業だ。傘下のタカラバイオは研究用試薬から事業領域を広げ、日本初となる遺伝子治療薬の製品化に挑む。転機はかつて夢を託したビール事業からの撤退だった。

「遺伝子・細胞プロセッシングセンター」の細胞加工ラインはフル稼働だ(滋賀県草津市)

「遺伝子・細胞プロセッシングセンター」の細胞加工ラインはフル稼働だ(滋賀県草津市)

■ビール撤退を機に

無菌状態で作業できる設備が整ったクリーンルーム。白衣姿の技術者が樹脂製容器に入れた液体を慎重に調合する。患者から採取した免疫細胞にがんなどの治療に役立つ遺伝子を入れる「細胞加工」の光景だ。

滋賀県草津市にあるタカラバイオの拠点「遺伝子・細胞プロセッシングセンター」は研究機関から細胞加工を受託する国内最大級の施設だ。免疫力を高めた細胞を患者の体に戻せば治療効果が期待できる。次世代の難病治療として臨床試験が進む「遺伝子医療」の開発の一端を担う。

国から細胞加工の認可を受けたのはノーベル賞受賞者の山中伸弥氏が率いる京都大学iPS細胞研究所(京都市)に続いて関西で2番目だ。「遺伝子を扱う技術では日本トップレベル」とタカラバイオの仲尾功一社長は胸を張る。

畑違いのバイオ事業に参入したのは1970年代後半に遡る。ビールに代わる収益源が必須との危機感が背中を押した。

57年に「タカラビール」ブランドを立ち上げ、2工場建設などに巨費を投じた。だが先行企業の牙城を切り崩せず、67年には工場を閉鎖して撤退。人員整理で従業員は約1800人とピーク時から4割減った。

「苦しいときこそ将来に向けた投資が必要だ」。当時の経営陣はビール事業の技術者らを新事業開拓に振り向け、70年に大津市で「中央研究所」を開設。酒類で培った発酵技術を生かせるバイオの研究開発を始めた。

抗生物質の受託生産から撤退するなど曲折の末、大学などで遺伝子工学の研究に使う試薬事業にたどり着く。米国を中心に基礎研究が活発になっていた点に当時の大宮久開発部長(現・宝HD会長)が着目した。

当初扱った試薬は4品目で売上高は月15万円程度だったが、米国などの技術をいち早く導入し、超微量の遺伝子を解析する技術などを磨いた。

■独立採算の体制

分社化でタカラバイオが発足したのは2002年。バイオ事業は研究開発の資金を酒造の収益に頼り、酒造事業は市場の伸び悩みをバイオの成長で埋めようという風潮があった。「依存関係を断ち切るため、独立採算の体制に切り替えた」(宝HDの柿本敏男社長)

現在は7千品目の試薬を扱うが、さらに先端医療へも手を広げる。患部に注入すると増殖し、がん細胞を破壊する遺伝子治療薬「HF10」の開発を始めた。18年度の新薬承認が実現すれば日本初となる見込みだ。

収益源が拡大し、売上高約2340億円のグループに成長した宝HD。7月には酒類や日本食材卸の海外事業を分社化し、国内事業、バイオを含む3本柱育成を急ぐ。

3月には創業の地、伏見に研修施設「宝HD歴史記念館」を開いた。事業が多角化する中で「追い込まれてもチャレンジ精神を忘れない宝の精神を伝える」と柿本社長。原点に立ち返り過去の教訓を次の挑戦に生かす。(京都支社 浦崎健人)

地方の地盤沈下や東京一極集中が言われて久しいが、西日本には苦難を越えて変革に挑む老舗企業、ニッチ分野で突出した競争力を持つトップ企業が多い。関西、中四国、北陸の実力派企業にフォーカスする。(次回は11日に掲載します)

焼酎のトップ企業 初の缶チューハイ

猛暑を追い風に売れ行き好調な缶チューハイ。日本で初めて発売したのが宝HDだ。

1842年、京都・伏見で創業者の四方卯之助が清酒造りを始めたのが起源だ。その後は焼酎、みりん製造に進出。清酒「松竹梅」では石原裕次郎さんを起用したCMがヒットした。

戦後は経済成長に乗って焼酎最大手の地位を固める。84年に日本初の缶チューハイ、2011年には発泡性清酒「澪(みお)」を発売し、焼酎以外でも新たな市場を切り開いてきた。

海外事業630億円めざす 柿本社長インタビュー

宝ホールディングス(HD)の柿本敏男社長にバイオ以外の成長戦略や今後の展望を聞いた。

――バイオ以外では海外での日本食材卸を強化していますね。

「酒類の製造販売のみを手掛けていたころの海外売上高は70億円程度で横ばいだった。2010年に日本食材卸の仏フーデックス社を買収し、同分野に参入してから海外事業が拡大している。17年度は海外事業で630億円を目指す」

「7月には海外事業を分社化した。バイオを含めて各事業が独り立ちし、世界に通用する企業にならなければいけない」

――日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)の大枠合意による日本酒の関税撤廃は追い風になりますか。

「追い風には違いない。だが日本酒への関税は1リットル当たり10円程度で、販売価格へのインパクトは大きくない。むしろ日本に入ってくる輸入ワインはボトル1本当たり100円程度の関税が撤廃される。宝酒造が国内で売る日本酒や焼酎にどのような影響を及ぼすかに関心を持っている」

「欧州での日本食材卸で宝HDはトップシェアだ。関税撤廃の影響を除いても日本食材、酒類の市場は伸びる。既存ブランドに加え、日本酒の欧州専用商品の開発も必要だ。毎年1割弱は欧州での売上高を増やしたい」

――伏見に研修施設「宝ホールディングス歴史記念館」を開きました。

「社員が記念館に来れば宝HDの本質が分かるようにした。グループには国内外で約4400人の従業員がおり、国籍も様々だ。各事業がセクト主義に陥らないよう、グループとして一体感を醸成する役割を担いたい」

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