習氏、香港独立論許さず 治安立法・愛国教育要求も
【香港=粟井康夫】中国の習近平国家主席は1日、香港返還20年の記念式典で演説し「中央の権力に対するいかなる挑戦も絶対に許さない」と述べ、香港独立論を強くけん制した。独立運動を取り締まる治安立法や若者への愛国教育の導入を香港政府に促した発言との見方が広がる。香港の民主派団体によると同日のデモには反発する市民ら6万人以上が参加したという。「社会の亀裂の修復」を掲げる林鄭月娥・香港行政長官は就任初日から難題を抱えた。
「越えてはならない一線に触れる行為だ。絶対に許さない」。習氏は香港の一部の若者に広がる香港独立論を念頭に、中国の国家主権に挑戦する行為を厳しく批判した。香港に高度の自治を認める「一国二制度」に関しても「国家統一を維持するためにある」として、あくまで「一国」が基本だと強調した。
習氏の発言は、国家分裂を図る政治活動を禁止する「国家安全条例」の早期制定を香港政府に促したとの受け止めが広がる。憲法にあたる香港基本法は同条例の制定を義務付けるが、民主派は「政治活動や言論の自由が大幅制限される」と強く反対。返還から20年たった今も成立していない。林鄭長官は選挙戦で「環境が整っていない」と制定に消極的だったが、習氏の演説で再考を迫られる可能性もある。
習氏は演説で、香港の青少年に中国への愛国心を植え付ける「愛国教育」の強化も求めた。香港大学の最新調査では、18~29歳の若者が自分を「中国人」と認める比率が3%にとどまった。若年層で中国への帰属意識が急速に薄れていることを懸念しているようだ。
香港政府は2012年にも愛国教育の義務化を目指したが、市民や学生から「洗脳教育」と猛反発を受けて撤回を迫られた経緯がある。「私は中国人ではないから、愛国教育と言われても関係ない」(民主派のデモに参加した27歳の女性)との声もくすぶり、導入へのハードルは高い。