フォード、「トランプの壁」越え中国へ 政治配慮より業績優先

2017/6/21 23:44
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米フォード・モーターは20日、小型車の新モデルの生産を中国に集中させると発表した。トランプ米大統領の要請で米国からメキシコへの生産移転を一時撤回した車種が対象だ。販売が伸び悩む米国では結局生産せず、世界最大市場の中国から米国に輸出する形になる。国内重視の政権の意図には反するが、不振の業績の改善を優先する。

フォードのマーク・フィールズ前最高経営責任者(CEO)がトランプ大統領の意向をくみ、メキシコの工場建設計画を撤回したのは今年1月。3月には米ミシガン州での12億ドル(約1300億円)の追加投資を発表するなど政権との蜜月を印象づけてきた。日本に対しても政権を通じ「円安への為替操作で米国への自動車輸出を増やしている」とけん制していた。

しかしフォードの業績は昨春から低迷し、直近の1~3月期の純利益も前年同期比35%減った。株価はこの3年で2割以上下落している。さらに米国の新車販売は1月から前年割れが続く。市場の失速で余裕を失い、5月には北米で人員の約1割を削減する大規模リストラを発表。フィールズ氏は退任を強いられ、政権との蜜月も終わった。

需要が縮小している米国で、国内への投資拡大を正当化するのは難しい。ジェームス・ハケット新CEOの優先課題は落ち込んだ株価と業績をどう回復させるか。早速、10億ドルの節約につながる中国への生産の集中を公表した格好だ。

ただフォードは多目的スポーツ車など他の車種を生産することで米国内の雇用は減らないとも主張。米ケンタッキー州の工場に9億ドルを投じ千人以上の期間雇用を生み出すと訴え、政権への最低限の配慮はみせた。

フォードの決定に対し、トランプ大統領は現時点で特に反応していない。ウィルバー・ロス米商務長官も「多国籍企業は移り気だ」と控えめなコメントを出すにとどまった。米中関係の重要性が増すなか、中国への投資を批判しにくい事情もあるだろう。だが国内重視を声高に強調した数カ月前との温度差が、政権の企業への圧力が弱まっているのではとの見方につながっている。

自動車業界では、積極的に政権に近づいていた米テスラのイーロン・マスクCEOが大統領の助言組織を辞任。パリ協定からの離脱に抗議したもので、テスラは米国よりも中国での工場建設を優先し交渉を進めている。マスク氏は19日のトランプ大統領とシリコンバレー企業のトップとの懇談にも参加しなかった。

助言組織のメンバーでは米ウォルマートのダグ・マクミロンCEOもパリ協定離脱を「大変失望した」と公然と批判した。小売業にとって、商品調達への影響が大きい法人税の国境調整の導入が見送られ、政治配慮の重要性が薄れたことも背景にある。政権運営の混乱が目立つなか、米企業との距離感に変化が生じているのは間違いない。

(シリコンバレー=兼松雄一郎)

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