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[FT]米教育改革、労働力は育つか

Financial Times

米国には2種類の労働市場がある。博士号を持つ人向けの豊富な求人と、単純労働しかできない人向けの、もっと多くの仕事だ。ところが、その中間の仕事があまりない。これは、経済が主に個人消費で成り立つ国に生じる問題だ。

トランプ米大統領は、こうした中間層の雇用を取り戻すと公約し、当選を果たした。だが、トランプ氏がグローバル化の流れを反転させ、技術の進化に伴い仕事の内容がどんどん変わる流れを反転できたとしても、英語対応のコールセンターやプログラミングといった仕事が海外に流出してしまうという米国が今抱えている問題の解決にはならない。つまり、現在必要とされている職業スキルと労働者の間に存在するギャップをどう解決するかという問題だ。

人材不足が深刻

米コンサルティング大手デロイトによると、米国では2025年までにそれなりの報酬を払う製造業の雇用が350万人分創出されるが、そのうち200万人分は米国人が担うことはできないという。米国の高校も大学も、こうした仕事に必要な技術的な知識と高いコミュニケーション能力を持つ学生を十分に送り出せていないからだ。

工場でロボット装置を扱える労働者から、様々な技術や産業、国境を越える仕事にも対応できる起業家精神旺盛な中間管理職に至るまで、不足する人材は多岐にわたる。

そのため、トランプ大統領の顧問を共に務める米化学大手ダウ・ケミカルのアンドリュー・リバリス最高経営責任者(CEO)と米IBMのジニ・ロメッティCEOは、ある労働力訓練計画を推進している。これは、労働スキルのギャップを埋め、様々な議論が対立し膠着状況にある教育改革と産業政策の変革を促す効果を持ち得るものだ。

計画の要は、仕事につながる教育の重視だ。IBMが11年に立ち上げた6年制高校は、その一例だ。ここでは、欧州ビジネスソフト最大手の独SAPや米半導体受託製造のグローバルファウンドリーズ、米バイオ製薬リジェネロン・ファーマシューティカルズなど300社の提携企業と米国の6州60校が協力し、高卒の資格から、さらに2年間で準学士号まで取得できるカリキュラムを提供している。

08年から16年までに米国で創出された雇用の99%は、高卒より上の資格を採用条件としていた。これを踏まえると、こうした教育は不可欠だ。

米国の成人若年層で準学士以上の学位を持つ人は、15年には全体の半数にも満たなかった。しかも、多くの人がスポーツ・マーケティングや経営管理など、社会に出てもほぼ役に立たない科目の資格を得るために高額な授業料を支払い、借金を背負い込む事態に陥っている。

ロメッティ氏は「技術の習得こそが将来にわたり仕事を続けていくための銀の糸だ」と話す。学生は、他に何を学ぼうとも、基礎科学と技術、工学、数学のスキルだけは修めなければならないというわけだ。

ロメッティ氏には、この神聖な戦いを進めるうえでホワイトハウスに重要な後ろ盾がいる。トランプ大統領の娘であるイバンカ氏だ。「トランプ政権は、ジニのような民間の指導者と協力し、明日の労働力を教育し育てていくために、産業界の努力を支え、拡大させていく」とイバンカ氏は述べた。

産学協同を再構築

今進めている仕事に結びつくような教育が目指すのは、1970年代に崩壊した産学協同の取り組みの再構築だ。当時、リベラルな改革派は職業教育に力を入れることは人種差別的で、かつ階級の固定化につながると主張し、この種の教育を廃止に追い込んだ。彼らは、人はみな溶接などより米小説家メルビルを学ぶ権利があると考えたのだ。

この議論が再び浮上している、とロメッティ氏は言う。将来の多くの仕事は、文系や理系の学問と職業スキルという従来の分類の中間に来るものだからだと同氏は説明し、そうした仕事を「(ホワイトカラーでもブルーカラーでもない)ニューカラー」と名付けた。

2年間の準学士レベルの教育を受けて高度に訓練された機械工なら、二流、三流の4年制大学で政治学を学んだ大卒を軽く超える初任給を得られるようになるだろう。

オンライン教育が盛んになれば、4年制の学位を得るために多額の負債を抱え込む必要はなくなる。教育は、個人の必要に応じて細分化されるべきだ。メルビルは自分で読むこともできる。あるいは、ハーバード大学教授による「白鯨」の講義をストリーミングで視聴することもできるし、大人数のオンライン講座に参加してもいい。

欧州も動く

こうした動きは米国にとどまらない。どの国の政治家も「21世紀の労働力をどう準備するかという問題と格闘している」とロメッティ氏は指摘する。

例えば英国が今月発表した2017年度予算案は、技術教育の全面的な見直しを求める内容を含んでいた。オーストラリアも同様だ。同国にはIBMの学校が7校ある。

独シーメンス、米ゼネラル・エレクトリック(GE)、米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)、米マイクロソフト、米グーグルなども、IBMと似た教育制度を進めている。IBMのを含め、その多くは早い段階から子供の職業選択の幅を絞るドイツ式の職業教育とは違うものだ。

例えば、米ニューヨーク・ブルックリンのクラウン・ハイツにあるIBMの学校で筆者が出会った学生は文学を好み、聡明で、ソフトウエアのプログラマーを目指しているが、脚本家にもなりたいと思い、起業も考えていた。

「やり方はいろいろある。大切なのは、もっと大規模な形でやっていくことだ」とロメッティ氏は言う。

米国で考えられる一つの方法は、パーキンス法の改正案を改めて成立させることだろう。職業訓練に10億ドル(約1140億円)の連邦資金を拠出するものだ。ところが、昨年の大統領選を前に議会で党派間の政争の具となり、法案は棚上げされたままになっている。

トランプ政権のデボス教育長官は議会に対し、同改正案を可決し、技術といった産業界が強く求めている能力の習得にもっと補助金を振り向けるよう求めた。

一方、パーキンス法とは別に、企業経営者らは10億ドルの連邦資金を使った職業学習プログラム(FWS)の拡充も政府に強く働きかけている。現状は、学生が授業料を払うために自分の大学の図書館やカフェテリアで働くと、補助金を得られるというものだが、経営者らは民間の職場で働くケースも補助金の対象にすべきだとしている。

IBMは自社の学校を卒業した1期生を採用した。多くは6年の課程を4年で修了した者たちだ。年収5万ドルを稼ぐ彼らは、経済の持続的成長を実現するのに欠かせない消費者となるはずだ。

By Rana Foroohar

(2017年3月13日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/) 

(c) The Financial Times Limited 2017. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

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